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社会が複雑になるにつれ様々な問題も起きており、現実的な社会問題にも応えられる学問のフィールドを創ろうという趣旨で発足しました。教育組織である人間環境学府の中には、人間共生システム専攻があり、共生社会学と臨床心理学に分かれています。臨床心理学が、問題を抱えた個人を中心にケアすることを目的とするのに対して、共生社会学は、通常の社会科学に加えて民族紛争や階級格差、貧困問題など、実践的な社会レベルの要望に応えることも目的としています。私の研究分野は、この共生社会学です。南里 「共生社会システム論」とはどのようなものなのでしょうか。飯嶋 共生社会システム論とは、「社会科学」、「ダメージ・リカバリー」、「代替実践」という3つの柱を持った学問と考えています。「社会科学」とは、人間社会の様々な面を探求する学術分野の総称で、社会の実態を捉えるための様々な方法が蓄積されています。その中で、これまで私が主に親しんできたのは、文化人類学的な「参与観察」です。参与観察は、最低1?2年、現地に行って聞き書きや観察をし、研究を進めます。しかし、この社会科学にも限界はあります。健常な社会であれば、研究者が観察をして学ばせてもらうこともできますが、何らかのダメージを抱えている社会では、参与観察すること自体が新たなダメージの再生産につながることもあるためです。例えば、私は2005年から、臨床心理学の田嶌誠一教授とともに、児童福祉施設の暴力問題に関わっていますが、家庭内暴力・児童虐待などの背景から守るために児童福祉施設に入所した子どもたちが、そこでも暴力を受けるという事実がありました。当然、そのようなダメージは避けなければなりません。こうした領域が2つ目の柱となる「ダメージ・リカバリー」になります。では、ただダメージを取り除くだけでいいのかというと、そうもいきません。先ほどの例でいえば、暴力のエネルギーを、別のものに代替するものを創出する必要があるのです。それが、3本目の柱である「代替実践」であり、これを実践していくのは、国に支えられたポジションにいる私たちプロの役割の一つだと思っています。南里 先生の研究のキーワードに「共苦学」というものがありますが、これはどういうものなのでしょうか。南里 最初に、飯嶋先生の研究分野について教えていただけますか。飯嶋 私が所属する人間環境学研究院の基となる人間環境学研究科は、1998年に発足しました。当時は、全国的な動きとして、大学院重点化が掲げられ、大学をどのように再組織するかという課題を持っていました。それを熟慮して九州大学に創設されたのが人間環境学研究科です。これまでの学問は、自然科学、社会科学、人文科学というように「科学」として研究されてきました。しかし、飯嶋准教授が理事を務める「もやいバンク福岡」の 設立総会の様子第3回 児童福祉施設安全委員会全国大会の様子実践的な社会レベルの問題にも応える共生社会学。3つの柱で成り立つ共生社会システム論。Front Runner ふろんとランナー 飯嶋 秀治18 Kyushu University Campus Magazine_2012.5

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