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����������������������������������!���������!���!�������!����������������糖尿病マウスの膵島。緑色はβ細胞、赤色はα細胞。インスリンを注射しても治らず、β細胞は激減したまま。2010年に発刊された『Diabetology International』のcover artになった。「一部の膵管上皮細胞が何らかのシグナルを受け取ると特定の遺伝子群が発現し、β細胞に分化してゆく」という仮説分化誘導シグナルβ細胞へ分化新生膵管上皮細胞新しい膵島出現既存の膵島に供給になるのです。いったん糖尿病を発症すると、β細胞数は減少し続けるため、これを増やさなければなりません。これまで、iPS細胞や移植など、体外で作ったものを体内に入れる方法がとられてきましたが、あまりうまくいっていませんでした。そこで私は、「体内で増やし補う」という新しい発想で、β細胞の増加を促すことができないかと研究を進めています。坂田 先生は、平成24年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞されています。対象となった研究は具体的にどのようなものだったのですか。稲田 大学院時代に車を運転していてひらめいたのですが、車にアクセルとブレーキがあるように、インスリン遺伝子も活性化因子だけでなく抑制因子もあるのではないかと考えました。それまでは、インスリン遺伝子を活性化させるものばかり注目されていて抑制因子にはほとんど触れられていなかったのです。その後、実際に抑制因子が見つかり、「存在している以上、なんらかの意味があるはず」と考えて、遺伝子組み換え技術と細胞を用いた実験を5年間行いその役割を研究しました。次に、「もし抑制因子が実際に体内で増えて、活性化因子との発現バランスが崩壊したら糖尿病が発症するのではないか」と考えて、この仮説を証明するために抑制因子を強発現するマウスの作製にとりかかりました。その結果、抑制因子が増えるとインスリンが出なくなり、β細胞も激減して重い糖尿病になることがわかりました。さらに、高血糖が続くと、マウスには珍しい糖尿病性腎症を発症することが分かり、ヒトの糖尿病性腎症のすぐれたマウスモデルになりました。この研究が認められて賞をいただきました。坂田 糖尿病の根本的治療を目指していらっしゃるということですが。稲田 現在は先の研究を発展させて、糖尿病マウスの体内で膵管上皮細胞からβ細胞へ分化誘導し増加させる研究を行っています。今後、分化のメカニズムと誘導因子を解明して基礎研究を糖尿病の根本的な治療につなげていくことができればと思っています。概念を変えてゆくのが科学の研究だと思っています。櫻井 先生のご研究は糖尿病に関係されたものですが、糖尿病とはどのような病気なのでしょうか。稲田 ご存知のように糖尿病は、生活習慣病とも呼ばれていて、予備軍を含めると国民の3人に1人が罹病すると言われています。糖尿病には大きく分けて、一型糖尿病、二型糖尿病、特定の原因によるその他の糖尿病、妊娠糖尿病があります。日本人の約9割は二型糖尿病です。遺伝素因の上に発症因子となる肥満や運動不足、過食、ストレスが加わって、インスリンの働きが悪くなったり、分泌量が不足したりすることで発症します。近年、二型糖尿病患者の人口が急激に増え、深刻な問題となっています。坂田 先生は、糖尿病のどのような研究をされているのですか。稲田 血糖値を上げる物質はいくつかありますが、下げる物質はインスリンしかありません。インスリンは、膵臓のβ細胞というところで作られます。このインスリンが相対的あるいは絶対的に不足すると糖尿病Front Runner ふろんとランナー 稲田 明理「体内で増やし補う」新しい発想で糖尿病を研究8 Kyushu University Campus Magazine_2012.9

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