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素粒子物理の新 九州大学 スイス・ジュネーブ郊外にあるCERNでは、LHCが2010年(平成22年)から本格的に稼働を始めました(※写真1)。超高エネルギーで陽子同士を衝突させ、テラスケールでの素粒子物理学を開拓していくことを目的としています。本学は、そのための大型国際共同実験であるアトラス実験(※図1)を推進しています。素粒子実験研究室の設立により、以前からアトラス実験で活動していたメンバーが集まって新規に研究チームを結成しました。本学は、2012年(平成24年)2月から正式にアトラス実験の参加研究機関となりました。素粒子物理学では、これまでに蓄積してきた数多くの実験結果を説明する「標準模型」が成功を収めてきました。一方、その標準模型では物質の質量を生み出す「ヒッグス粒子」が存在するとされていますが、長年の精力的な努力にもかかわらず未発見のままでした。アトラス実験では、これまで行ってきた重心系エネルギー7〜8兆電子ボルトでの陽子衝突実験とそのデータ解析の結果、2012年(平成24年)7月にその「ヒッグス粒子」とみられる新粒子を発見し、注目を集めています。また、今後も続けていく実験で、標準模型を超える物理の候補として有力視されている超対称性や時空4次元を超える余剰次元を発見する可能性も期待されています。九州大学の研究チームはアトラス実験を推進するため、研究者2名を現地CERNに派遣し、その検出器群の一つであるシリコン半導体飛跡検出器の運転とデータ収集を進めています。また前述の「ヒッグス粒子」とみられる新粒子の発見では、その粒子がZ粒子対に崩壊し、各Z 粒子がレプトン(電子またはミュー粒子)対に崩壊する特徴的なパターンに着目してデータ解析を行い、その発見のために貢献してきました(※図2)。 LHCは、2013年(平成25年)から約2年間をかけて本来の設計値である重心系エネルギー13〜14兆電子ボルトへの増強を行います。また、10年後には、陽子ビームの輝度をさらに増強し、それに合わせてアトラス検出器も大規模にアップグレードする計画を立てています。本学の研究チームは、今後もアトラス検出器の運転とデータ収集を進めつつ、アップグレードのための新しい検出器の開発も進めていきます。さらに、発見されたばかりの新粒子の性質を詳しく調べ、それが標準模型の「ヒッグス粒子」なのか、それとも、標準模型を超える新しい物理が存在することを示唆するのか、エネルギーフロンティアでの素粒子物理を追求していきます。14 Kyushu University Campus Magazine_2012.11※写真1 スイス・ジュネーブとLHC(赤円の地下100mに設置)※図2 アトラス実験で検出した「ヒッグス粒子」の候補※図1 アトラス検出器

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