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LHC実験はこれからも増強しながら続けられ、新たな発見が期待できます。その一方で、電子と陽電子(電子の反粒子)を衝突させる次世代加速器ILCの計画が進められています(※図3)。電子の軌道を曲げるとシンクロトロン光を出してエネルギーを失ってしまうので、円形加速器ではエネルギーに限界があります。そこで、直線型加速器でまっすぐ一気に加速して、ぶつけようとするものです。電子は素粒子で内部構造を持っていません。ILCはLHCよりも衝突エネルギーは小さいのですが、電子が構造を持たない素粒子であることから、そのエネルギーのすべてを反応に使うことができ、背景事象の少ないクリーンな信号を得ることができます。ILCでは、LHCで発見された新粒子を大量生産してその性質を精密測定し(ヒッグス工場)、その背後にある物理法則を明らかにします。また、LHCでは発見困難なタイプの新粒子を発見できると期待されます。ILCの設計はアジア・ヨーロッパ・北米の国際協力で進められており、本年12月に技術設計書がまとめられる予定です。昨今の情勢から、日本に建設されるという期待が高まっています。 ILCは、長さ30〜50 の地下トンネル内に建設されます(長さによって、到達可能なエネルギーが決まります)。それだけ大きくても、電子ビームをナノメートルの精度でコントロールする必要があり、振動の少ない堅固な地盤が必要となります。日本の候補地は、そのような良好な地盤を持ち、地元自治体が誘致に積極的である条件から、岩手県の北上山地と、福岡県・佐賀県にまたがる脊振山地の2か所に絞られました。脊振山地ではILC建設に向けた地質調査が進められており、本年1月には国際設計チームの首脳が視察に訪れました(※写真2)。 九州大学では、素粒子実験研究室ができる前から、佐賀大学・福岡県・佐賀県・九州経済連合会とともに、「先端基礎科学次世代加速器研究会」を立ち上げ、広く基礎科学の振興を図るとともに、ILCの推進活動を行ってきました。これまでもILCのための地質調査を進めてきましたが、平成23年度には、福岡県・佐賀県の予算によって、空中写真判読・地表踏査を中心とする地質調査を行いました。また、平成23年度の第三次補正予算によりILCの調査費がつき、本学はKEKの委託研究としてボーリングを含む本格的な地質調査を行っています。これらの調査は、地質調査に長い経験を持つ江崎哲郎特任教授を中心に進めています。 ILCを誘致するということは、世界中から数千人の研究者が集まる真の国際研究所を核とする国際学術研究都市を作るということでもあります。平成23年度には、交通・文化・住環境など優れたインフラストラクチャーと、アジアの玄関口であるという地理的条件を生かして、ILC研究所を核とする都市構想「サイエンスフロンティア九州」をまとめました。 素粒子実験研究室では、ILC実験を実現するために、物理の研究と測定器開発を行っています。本年5月には、本学箱崎キャンパスで「ILDワークショップ2012」を開催しました(※写真3)。ILDというのはILCで用いる測定器の設計を行う国際共同研究チームです。本年12月までに測定器の詳細設計書をまとめることになっており、活発な議論が行われました。本学は、測定器のなかでは、電子や光子のエネルギーを測る電磁カロリメータを担当しています。CALICEという国際共同研究グループに参加して、シリコンセンサーやシンチレータを用いた高性能電磁カロリメータを開発しています。km※図3 国際リニアコライダーの概念図Kyushu University Campus Magazine_2012.11 15※写真2 ILC国際設計チームによる脊振山地の視察※写真3 「ILDワークショップ2012」の集合写真

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