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Front Runner ふろんとランナー 古川 浩8 Kyushu University Campus Magazine_2012.11ていました。他の唯一とも言える解決策は、携帯電話の基地局を増やすことでカバー範囲を狭くし、基地局あたりの負荷を下げキャパシティを広げるという方法です。これは今日、スモールセル(※1)化という呼び名で当たり前のように議論されるに至っています。しかし、スモールセル化は基地局を設置するためのコストが高いという問題があったのです。そこで、これを下げるための技術開発に注力して研究を進めることにしました。一番コストがかかるのはLANケーブルの配線費用だったので、LANケーブルのいらない無線インフラの研究開発に焦点を絞りました。その研究成果は、後にPicoCELA社が開発した製品「PCWL-0100」として具現化されました。「PCWL-0100」はWi-Fiのアクセスポイントなのですが、独自の無線中継機能を内蔵しており、LANケーブル配線の量を劇的に減らすことができます。電源さえあれば、次々にWi-Fiスモールセルのエリアを拡充していくことが可能です。谷村 開発にあたって、技術的な課題はどんなところにありましたか。古川 何段にもわたる無線中継を行うことでLANケーブルの配線量を減らすのですが、このような多段ホップ(※2)無線中継は電波干渉の影響で、伝送に失敗し通信ができなくなってしまう心配がありました。それをどうマネジメントするかが技術的な一番の課題でしたね。解決の鍵は2つ。経路制御とフレーム転送です。従来はこれらを一緒に制御していたのですが、問題を細分化しそれぞれの最適解を探索することにしました。経路制御に関しては、とにかく安定した経路を獲得するためのアルゴリズム設計に注力しました。電波は、屋内のドアの開け閉めだけで変動します。中継ホップ数がたとえ長くなろうともとにかく安定する経路を獲得できる経路制御法を考案しました。これが「統計メッシュ」という技術です。こうして獲得された中継経路上に無線パケットを流すのですが、まだ問題があります。経路上を流れる無線パケットが電波干渉で阻害し合うことがあるのです。そこで、第2の技術のポイントが「周期的間欠送信法」です。中継経路上を流れる無線パケットの間隔はパケットの送信時間間隔に比例することに着目し、意図的な送信周期を与えることで、経路上を流れる無線パケット間の距離を調整するようにしました。これにより劇的に無線中継の電波干渉による伝送失敗を削減することができました。こうしてホップ数を10段以上重ねてもスループット(通信伝送速度)が大きく落ちることはなくなりました。谷村 先生が現在の研究を始められた背景をお聞かせいただけますか。古川 2000年(平成12年)当時、私は民間企業で携帯電話の標準化の研究開発を行っていました。第三世代移動通信(現在最も利用されている携帯電話システム)の標準化が一通り終わった頃で、次はどんな研究開発をしようか模索していたのです。当時は存在しませんでしたが、インターネットの爆発的な普及を横目に見ながら、いずれ大量のトラフィック(データ通信量)をやり取りするモバイル端末の時代が来る―実際、スマートフォンやタブレット端末として現れましたが―と予想していました。そうなれば、膨大な量のデータトラフィックを吸収するネットワークインフラが必要になります。そういった少し先の未来を見据えて現在の研究をスタートさせました。一方で、端末と基地局の無線通信回線のリンクスピードは、当時から理論的な限界が見え独自の無線中継技術でWi-Fi面展開のコストを低減古川教授の研究成果が具現化された「PCWL-0100」

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