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係しているのですか。高木 遠隔操作ウイルスは、マルウェアと言って、コンピュータのOSやソフトウェアのセキュリティホールを狙って攻撃するもので、私の研究とは少し違います。情報セキュリティの分野は、暗号以外にも、生体認証技術(※1)、電子透かし技術(※2)、ICカード(※3)、フォレンジック(※4)といった倫理面の研究まで幅広い領域があるんですよ。都留 基本的に、セキュリティは暗号で守られていると思っていいのですか。高木 現代暗号の研究はまだ歴史が浅く、1995年にインターネットの商取引で使用するパスワードやクレジット番号を守るSSL(※5)という暗号が作られ、セキュリティの基盤が確立しました。それまではインターネットを使ってショッピングするなんて考えられなかったのです。現在はさらに進んで、ネットで住民票をダウンロードしたり、税金を支払ったり、国民の各種手続にIT技術を用いることで効率化を図り、国民の利便性を高める「電子政府」が利用され始めています。都留 先生は昨年、次世代暗号の解読で世界記録を達成し、その標準化に貢献したとお聞きしましたが、具体的に説明いただけますか。高木 ネットショッピングなどで使われているRSA暗号(※6)のことを第一世代、2000年以降、DVDのセキュリティなど、著作権保護のために積極的に使われている暗号を第2世代と言っています。さらに最近は、クラウド(※7)を使って大容量のデータをやりとりするようになりましたが、一般的にクラウドを使用する場合は、自分のデータを人に預けることになるため、他者から中身を見られないようにデータを暗号化します。しかし、暗号化してしまうとデータの検索ができないというのが課題でした。その課題を解決したのがペアリング暗号で、次世代暗号として標準化が進められています。また暗号は、解読技術の進展や計算機の進歩により、解読のスピードが上がると安全性が低下するため、いつまで安全に使えるかということが重要になってきます。特に、ペアリング暗号は歴史が浅いため、新しい攻撃法に関してその検討が未熟でした。このような背景があるなかで、私たちはペアリング暗号の安全性評価の一環として、これまで解読不可能と考えられていた278桁の暗号を約148日で解読することに成功したのです。都留 マス・フォア・インダストリ研究所に所属されていますが、「マス・フォア・インダストリ」とはどのような意味を持つ言葉なのですか。高木 平成20年度の文部科学省のグローバルCOEプログラムのなかで、数理学研究院が採用した言葉で、未来技術の創出基盤となる数学の新研究領域を意味する造語です。日本の数学は純粋数学を中心に発展してきましたが、九州大学には応用数学の伝統があり、これを情報通信をはじめとする産業技術や諸科学などに応用することを目的に研究所が設立されました。具体的には、産業で必要とされる新しい数理的問題を、数学の問題として研究者へフィードバックし、新しい応用数学、産業数学の研究領域を生み出したり、不足している応用数学の研究者を育成したりすることを目標にしています。都留 暗号の研究をされているそうですが、最近話題になった遠隔操作ウイルスも、先生の研究に関九大の得意分野応用数学を活用した暗号研究次世代暗号の解読で標準化に貢献Front Runner ふろんとランナー 高木 剛8 Kyushu University Campus Magazine_2013.1図1 暗号解読の世界記録

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