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だけでなく、その人自身がより良く生きるための支援も必要とする、いわゆる※QOLが提唱されるようになり、その流れから障害者スポーツにも心理学的支援が入ってきました。陳 どのようなきっかけで、障害者スポーツのフィールドで心理学を研究されるようになったのですか。内田 高校時代、障害のある友人がいました。修学旅行のとき同じ班になって、班のメンバーは自由行動も彼女と一緒に行動するつもりで計画していたのですが、結果的に、学校として安全に責任が持てないということで先生に許可をもらえず悲しい思いをしました。その後、大学の授業で「障害を負うとできないことに目が向いてしまうけれど、その人の残された機能で何ができるのか考えていくことが大切である」ということを学び、修学旅行の一件も、先生たちが彼女のできることに目を向けていたら、違う答えになっていたのではないかと思いました。それから、障害を負った方の人生の価値を高めるお手伝いをしたいと思うようになったのです。陳 ご自身も何かスポーツをされていたのですか。内田 中学時代にバレーボールをしていましたが、体調を崩して続けることができなくなりました。その時は、一人取り残されたような気分でしたね。あのとき、もし誰か支援してくれる人がいたら、バレーボールを続けていたかもしれません。障害者の支援においても、その方の可能性を一緒に考え続けることが大事だと思います。中学時代の挫折経験は、今の私を突き動かす原動力です。スポーツ経験の長い人の方がわかることもあるかもしれませんが、私自身の経験から支援できることもあると思っています。陳 先生の研究のなかで、「スポーツドラマチック体験」という言葉がありますが、これはどういう意味なのでしょう。内田 スポーツをしていると、ケガでつまずいたり、勝てないと思った試合で勝ったり、人生の転機とも言えるような体験をすることがあります。そういった心を揺るがす劇的な体験を「スポーツドラマチック体験」と定義しています。これまでは、スポーツを長く続けていれば心理的に良くなると考えられていましたが、そうではなくて、体験の量や質が大事であることがわかってきました。競技経験が短くても、そこで劇的な体験をすることで心理面に良い影響を与えることもあるのです。障害者も、スポーツを通して重要な人に出会ったり、新たにできることを発見したり、ドラマチックな体験をすることで、ポジティブな方向へ変わっていくのではないかと考えています。陳 専門は障害のある方を対象としたスポーツ心理学ということですが、世界的な動向など、お聞かせいただけますか。内田 スポーツ心理学の領域は、主に欧米諸国を中心に研究が進んでおり、残念ながら日本は10年遅れていると言われています。研究分野は、トップアスリートをサポートする研究から、体育の授業などを通して自己成長を図る心理学的支援の研究まで幅広いです。私の専門である障害者スポーツの研究は、リハビリテーションからスタートしているので、障害を負った人の残存機能をどう改善するかといった研究やバイオメカニクス的な研究、道具の開発といった領域を中心に発展してきており、そこに心理学的な支援が入ることはありませんでした。ですから、現在、障害者スポーツ分野で、心理学からアプローチしている研究者は日本に数名しかいません。最近になって、医療分野で、障害を負った人の残された機能をどう改善するか中学時代の挫折経験が今の自分の原動力スポーツの劇的な体験は人生の転機にもなり得るFront Runner ふろんとランナー 内田 若希16 Kyushu University Campus Magazine_2013.3

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