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イギリス・ヘリフォード州におけるマンチェスター大学・同州考古局との合同発掘調査 トレンチの横で 本年1月に、ヨルダンで開催された世界考古学会議第7回世界大会で、私は同会議第6代会長に選任されました。アジアから初めて選ばれた会長としての責任とともに、自分に何ができるのか、何をなすべきか、かつて日本列島社会の世界への玄関であった伊都の地で自問しています。 世界考古学会議(World Archaeological Congress、略愛称‘WAC’)は、民主的な意思決定機構をもつ、世界最大の考古学者の組織です。4年に一度開催される世界大会には、毎回八十数カ国、二千人近い考古学者が世界各地から集い、最新の研究成果を報告するとともに、さまざまな問題をかかえる今日の世界において考古学することの意味、すなわち過去から何を学び、どのようによりよい未来へとつなげてゆくかを討議します。各国代表、地域代表、先住民代表、学生代表と運営委員会からなる総会(assembly)での議論は時に白熱し、それをどのように調停し、よりよい成果を引き出すかが、会長と執行部の困難かつ重要な職務のひとつとなります。そのような意味で、世界考古学会議は、考古学の世界における「国連」と理解していただいて、間違いないと思います。 考古学は物の研究を通じてひとびとの歴史を明らかにします。社会が誕生し、その規模は増大しました。それにつれ人と人とのまじわりかたも複雑化・制度化され、変容しました。そして、中心と周縁のせめぎ合いのなかで、さまざまな社会組織・世界観が生まれ、変容し、分離し、融合し、格差づけられてきました。考古学は、人類がこの地球上に誕生してから、今日にいたるまでのこのような長い歴史を、物の研究を通じて描き出します。そして、考古学という営みそのものも、今日、なお続くこの組織・世界観どうしのせめぎあい、格差づけから逃れることはできません。 世界考古学会議の大切な目標の一つは、本来それぞれに豊かな歴史と背景に支えられたさまざまな物の見方・感じ方、世界観・価値観に基づく、「さまざまな考古学」=‘Archaeologies’の存在を尊重し、お互いの対話と交流を深めることです。また、このことを通じて、歴史が生み出した不平等や、その他さまざまな問題を解決してゆくための知恵を、考古学を通じて共有し、磨いてゆくことをめざしています。 九州大学の考古学は、「東アジアのなかの/と日本」をキーワードに、人の社会の組織と、交流を通じたその変容を先進的かつダイナミックにとらえ続けてきました。九州大学も、アジアから、世界の未来をよりよいものとするための発信と貢献をミッションとしています。そのようなバックグラウンドにしっかりと立脚しながら、世界の考古学の未来への歩みの「チーフ・ナビゲーター/ファシリテーター」としての役割を果たすことができればと念願しています。九州大学大学院比較社会文化研究院http://www.scs.kyushu-u.ac.jp/World Wide Topic比較社会文化研究院の溝口教授が世界考古学会議第6代会長に選任「世界考古学会議第6代会長に選任されて」大学院比較社会文化研究院・教授寄稿:溝口孝司Kyushu University Campus Magazine_2013.3 31

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