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▲人工の脂質膜。この電圧変化を利用して味を計測人間が思うこと、 考えること、 口にすることは全て主観。時間も時計という物差しがあるから納得しているだけ。だから、味覚の世界でも物差しはできる。帯電話に匂いセンサを装着して、病気や健康状態を探るようなアプリケーションが開発されるかもしれませんね。今泉 味覚センサに話題を移しますが、まず、開発しようと思われたきっかけをお聞かせいただけますか。都甲 実は私、味音痴なんです(笑)。ずっと人参が嫌いだったのですが、ある時、妻がハンバーグに小さく切って入れてくれて、それを知らずに食べたらとてもおいしかった。それで、味って不思議なものだなと思い「味の物差し」を作ろうと思ったのです。味や匂いは主観的なものだから、客観的な物差しを作るのは難しいのではないかと聞かれることがありますが、人間が思うこと、考えること、口にすることは全て主観です。生まれた時に既に時計という物差しがあったからみんな納得していますが、時間だって主観なんですよ。今泉 確かにそうですね。その主観的な味覚を測定、数値化する装置が「味覚センサ」だと思うのですが、具体的にはどのようにして味を計測されているのでしょうか。都甲 味は、「酸味」「苦味」「甘味」「塩味」、「うま味」の5つの味で構成されています。それらの味は、舌で感じた時点で決定します。その情報は神経を伝わって脳に届き、過去の経験や目で見た感じ、鼻で嗅いだ匂い、耳で聴いた音など、さまざまな要因によって総合的に味を感じているのです。風邪をひいて鼻がつまっていると味がわからなくなるのはそのせいです。脳で感じる味と舌で感じる味は違うのです。つまり味は、舌で化学物質を受容した時点では主観ではなく、神経の反応に過ぎないということ。それを数値化したのが「味覚センサ」です。今泉 なるほど、おもしろいですね。では、その神経の反応をどのようにして数値化されたのでしょうか。都甲 具体的に言えば、人間の舌には味細胞があり、この味細胞の表面を覆っている「生体膜」と呼ばれる膜が、食品内の化学物質を受け取るときに電圧を発生します。その変化が脳に伝わって「おいしい」とか「まずい」といった味を認識するのです。同じように味覚センサも、人間の生体膜を模倣した人工の脂質膜をつくり、電極に貼り付け、味溶液に浸した後、膜で起こる電位の変化量で味を感知しています。言ってみれば「人工の舌」ですね。今泉 味の測定が可能になったことで、社会にはどのような影響を与えているのでしょうか。食の楽譜「食譜」を作り、伝統の味を後世に残す人工の脂質膜で味を感知。「人工の舌」で味を計測6 Kyushu University Campus Magazine_2013.7スペシャルインタビュー/都甲 潔▶脂質膜の膜電位を検知する味覚センサ

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