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ると、がんの大きさが3割ほど小さくなっていたのです。坂田  ドラッグデリバリーシステムにも時間治療を応用されているのですか。大戸 ドラッグデリバリーシステムは、私の研究室の中心テーマの一つです。個人の生体リズムを診断して、リスクの高い時間に薬を運び放出するだけでなく、生体リズムを操作して、与えやすいタイミングを人工的に作り、薬を投与する方法も指向しています。生体リズムに合わせたクロノドラッグデリバリーシステムができれば、個々の生体リズムを診断することなく治療を行うことができます。坂田  生体リズムを変えることに問題はないのでしょうか。大戸 安全性と有効性の優先順位の問題だと思います。重篤な患者に対しては、まずがんを取り除くことを優先して、それ以降に生体リズムを整える。日常的に起きる疾患に対しては、生体リズムを崩してまで行うことはないでしょう。いずれにしても、体内時計とがん細胞の薬剤感受性を結びつけ、時間生物学的な観点から創薬にアプローチすれば、より有用性の高いがん治療の構築につながると考えています。坂田  今後は、どのような展開をお考えですか。大戸 短期的には、リズムの診断や操作といった観点からいかに適正に薬を使っていくか、育薬の研究をさらに進めます。長期的には時計遺伝子をいかに創薬に応用していくか研究していきたいと思っています。そのために重要なことは、がんの病態時に分子の時計がどういった制御機構になっているの(夜行性動物の活動期)に最も多く現れることがわかりました。これは、時計遺伝子に異常が起き、がん遺伝子を目覚めさせ、トランスフェリン受容体が多く作られるようになったのではないかと考えられます。そこで、私たちは、トランスフェリン受容体が増減するリズムを指標にしたクロノドラッグデリバリー(時間薬物送達)システムという新しい抗がん剤治療法を開発しました。抗がん剤を脂質の膜で包み込み、その表面にトランスフェリンをくっつけた薬剤を午後9時にマウスに投与したところ、午前9時に投与したマウスと比べ今後も、時間治療を利用した育薬と創薬の研究に尽力。Kyushu University Campus Magazine_2013.9  9▲生体リズムの制御機構▲NHK「クローズアップ現代」の『“からだの時計”が医療を変える』に 出演(2012年4月放送)。国谷キャスターの質問に答える大戸教授生体には体内時計が存在し、種々の生体リズムを制御しています。これらの機構は視交叉上核(SCN)の時計遺伝子により制御されており、その遺伝子は中枢のみならず末梢組織でも発現しローカル時計として機能しています。視交叉上核(SCN)からの何らかの情報(ホルモン、神経機能)が他の臓器の機能をコントロールしています。すなわち、生体は体内時計の階層構造をうまく利用し、生体の恒常性を維持しているのです。

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