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す。日本の樹木は、道もない急峻な山に生息しているため、切り出すのに多くの時間と労力がかかっています。さらに、日本の高い人件費ではコストが膨らみ、海外から入ってくる安い木材に価格で太刀打ちできない状況になっているのです。このような問題を解決するため、価格以外のところで国産材の付加価値を上げようという動きがあるのですが、これまでのように強度性能だけを追求していてもなかなか価値は上がりません。そこで、私たちは人との相性の良さを科学的に検証することで付加価値を付けようと考えました。現在取り組んでいるのは、脳科学や生理心理学など幅広い分野の研究者が参加している学際的な研究です。同時に、林業会社や住宅メーカーとの産学連携のプロジェクトでもあり、現場で本当に必要とするものを研究に取り込もうとしています。最終的には、社会に還元することが目的です。都留 人との相性ということですが、先生の専門である木材の「乾燥」も相性に影響するのでしょうか。藤本 木材で大切な工程の一つに「乾燥」があります。生材のまま使うと、木が収縮・変形して扉が閉まらないなどといったことが起きるのですが、乾燥すると木が割れるというデメリットもあって、国産材は約3割しか乾燥という工程を経ていません。私はこの木材の乾燥を専門に研究しており、数年前に、コストをかけずに、しかも水分状態を低くしても木が割れない数種の人工乾燥法を開発しました。この技術が普及したことで、それまで全国の乾燥材比率4〜5%だったものが、30%くらいまで上昇しました。しかし、この乾燥技術は温度が非常に高いことから、木の色合いが変わったり、香りが飛んだりします。さらに、木材が持つ湿度調節機能まで無くしてしまっていました。つまり、人との関わりが強い部分の機能が損なわれるという問題があったのです。その反省もあって、人間に良い乾燥法とはどのようなものなのか追求したいと思い共同研究をスタートしました。都留 現在、新建材と自然木材で同じ空間を作って、実験を進めていらっしゃるそうですね。藤本 先行研究では一つの空間の中で材料を変えて研究していました。しかし、時間的な差があったり、被験者の条件に差があったりして分析が難しかったのです。そこで、内装に人工物である新建材を使った建物と、「津江杉(大分県上津江町のブランド杉)」というスギの木を使った2つの建物を造り比較してみることにしました。都留 先生は、人と木材を使った家の相性の良さを科学的に証明する研究をされているそうですが、研究に至った経緯を教えていただけますか。藤本 研究の背景には、日本の森林を守りたいという思いがありま8  Kyushu University Campus Magazine_2014.1Front Runner :藤本 登留新建材と自然の木材を使った2つの空間で実験国産材と人との相性を科学的に検証し新たな付加価値を見いだす※1▲今回のプロジェクトに使われている津江杉の生育の様子

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