http://www.kyushu-u.ac.jp-kyudaikoho_92
18/40

 私たちが感じる「痛み」は、切り傷や火傷など炎症によるものや、神経の切断、圧迫など神経の痛みによるもの、ストレスから感じるものなど、その原因はさまざまです。 今回ご紹介する小嶋ちなみさんは、末梢神経の損傷、機能障害によって生じる痛み「神経障害性疼痛」の発症メカニズムを研究されています。昨年11月にはその成果が認められ、第66回日本薬理学会西南部会で優秀発表賞を受賞しました。 神経障害性疼痛は、帯状疱疹や糖尿病などに伴う神経の損傷や機能障害が原因で発症する難治性慢性疼痛です。本来なら痛みとして感じない、触れるような刺激を、激烈な痛みとして感じてしまうアロディニアを主な症状としており、モルヒネなど既存の鎮痛薬が十分に奏功しないことから、その発症メカニズムの解明と新規鎮痛薬の開発が重要な課題となっています。 また、疼痛を引き起こす要因は、ミクログリアという非神経細胞が、神経損傷により活性化状態へと移行し、神経細胞を異常に興奮させる様々な生体分子を放出することにあると知られています。しかし、疼痛の発症に直結するミクログリアの活性化プロセスについては未だ不明な点が多く残っています。 小嶋さんはMafBという転写因子に着目。MafBが疼痛に関連する遺伝子を制御しているという着想から、MafBの発現誘導メカニズムを検討しました。 「通常、生体内ではDNAが転写という過程を経てmRNAになり、それが翻訳という過程を経てタンパク質となって生体内で機能します。ですからmRNAが増加したらタンパク質も増加するはずですが、MafBにおいては、mRNAより早い段階でタンパク質が増加しており、 mRNAの変化を介さない通常とは異なる経路で発現誘導されていると示唆されます。このように、MafBは神経損傷後早期に発現誘導されることから、ミクログリアの即時的な活性化、さらに疼痛発症に重要な役割を果たしていることが考えられます。また、ミクロ※1※2※3小嶋 ちなみ薬学府 創薬科学専攻 修士課程2年Chinami Kojimaさん 新薬を創って、世界中の人たちの役に立ちたい。「神経障害性疼痛」の発症メカニズムの研究で、薬理学会の優秀発表賞を受賞。転写因子「MafB」に着目し、ミクログリアの活性化との関連を追求。とうつう九州大学で学び、目指す分野を究めようとする次世代のプロフェッショナルを紹介します。今回は、神経障害性疼痛における痛みの発現メカニズムをテーマにした研究で、日本薬理学会西南部会で優秀発表賞を受賞した薬学府の若き女性研究者にお話を伺います。とうつうKyushu University Campus Magazine_2014.3  1724

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です