九大広報Vol.93

九大広報Vol.93 page 5/36

電子ブックを開く

このページは 九大広報Vol.93 の電子ブックに掲載されている5ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
九大広報Vol.93

フランス語の美しさに魅了された。――まずは九州大学医学部に入られるまでのご経歴についてお聞かせください。小林:旧制福岡県立豊津中学4年のときに、事情があって修猷館に転校し、第4学年修了まで数ヶ月間在学しました。ですから私にとっては修猷館はあまり馴染みがありません。そこから旧制福岡高校に入るのですが、旧制高校は文科と理科に分かれていて、どちらかを選ぶわけですね。当時、私は外交官になりたくて、文科に行きたかったのですが、戦後の焼け野原が残る時代ですから、外交官などと言っている場合ではありませんでした。父親が日頃から「何か技術を身につけろ」と言っていたものですから、やむを得ず理科を選ぶことになったのです。理科には、主として工学部・理学部系に向かう甲類と、農学部・医学部系向きの乙類があって、理数系が得意ではなかったので、仕方なく理科乙類を選んだというわけです。実家が医者をやっていたわけではないので、何になってもよかったのですが、消去法で医学部の道に進むことになったのです。考えてみれば主体性のない話ですが・・・(笑)。しかし、在学中から肺結核を患い2年ほど遅れて卒業証書をもらいました。この間教育制度が大幅に変わり、大学は新制度のものになっていました。2年遅れて入学してみれば、2年上には高校の同級生がいて、教科書を借りられるし、貧乏学生の私には大いに助かるというメリットもありました(笑)。ここで外国語の話をしておきましょう。――その当時、旧制高校の理科乙類で学ぶ第一外国語というと、ドイツ語ですよね。小林:そうです。第一外国語がドイツ語で、第二外国語が英語でした。ドイツ語の授業は週に13時間もありまして、英語の授業が6時間ありました。ということは授業時間の半分以上は外国語ですから、柔軟な頭脳の時期には否応なしに、乾いた砂に水が浸み込むように頭に叩き込まれましたよ。お蔭で80歳を越した今でもドイツ語の文献を読むのは楽ですよ。だから子どものころからの外国語の訓練は、特に音声の点からは意義がありますね。――フランス語への憧れをお持ちになったのは、フランス映画の影響だそうですが。小林:千代町の交差点にあった国際劇場という映画館で、リバイバルで沢山のフランス映画が上映されました。昭和初期から戦前はフランス映画の黄金期ですからね。その情緒、優雅、天使の声とも思われるような会話の美しさなどにカルチャーショックを受けました。幸いにある出版社がシナリオを出版していて、それを手に入れて、スクリーンのすぐ下に座って、最初は映画のプロットを楽しんで、2回目からはシナリオを片手に会話を原文で追っていきました。そうしているうちに「この文化に接するには、現地の石の家に住んで話したい、じかに全てに触れたい」と思うようになったのです。その後、日仏協会が1957年にできてすぐに入会したのです。たまたまアメリカ総領事の子どもさんたちの家庭教師でやってきたロミエさんというフランス婦人に協会を通して紹介してもらい、個人授業をお願いして5年ほど通いました。何しろ日本語はおろか英語も話さない人でしたから、何とかして仏語で話さざるを得ないことが幸いしました。――それが後のフランス留学に結びつくわけですね。小林:当時の日本は貧乏で外資がなく、自由に海外に渡航できる時代ではなかったので、留学するには外国の奨学金の資格を取るか、外国のスポンサーを探すしかありませんでした。そこで、フランス政府による留学生試験を受けることになったのですが、これが難関であることは仄聞していました。関東、関西にはすでに日仏学院の受験専門の課程が設置されていて、ここの受験生とのコンクールになるわけです。これに勝ち抜くには仏語を訓練するしかないと思いましてね。ロミエさんの授業とは別に、医学部のフランス好きを集めて仏語同好会を作って、仏文科の先生を呼んで課外授業をやってもらったりしましたね。当時の医学部には卒業後医師としての研修制度があって、一時福岡を離れて外部の病院に出る時があるのです。その間も教会があればフランス人のカトリックの神父さんを探して会話をしていました。言語を身につけるには、とにかく訓練が途絶えないようにすることが一番大切だと思います。一人でいる時も独り言を仏語で繰り返すのです。音声言語である仏語は、耳と口を常に機能させておく必要があると思っています。こういう点はどの言語でも同じなのでしょうが・・・。また、私自身の自戒を含めて、よく言われるように日本語と文化のしっかりした知識の土台が望まれます。これはとくに若い人に力説しておきたいことですね。KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2014.0504