九大広報Vol.93

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九大広報Vol.93

整形外科なら九州大学。それが誇らしかった。――ところで、当時の医学部における専門教育の状況について教えていただけますか。小林:極端な言い方をすれば、カリキュラムは明治時代と変わらなかったですね。アメリカ医学がほんの少し入ってきた時代です。基礎医学の先端教育は少しだけ英語を使っていましたが、ほとんどはドイツ語でした。基礎を1年半ほど学ぶと、そこに診断学が入ってきます。そして3年目から臨床が始まるという流れです。私は昭和27年に専門課程に入りましたが、終戦から7年しか経っていないので、アメリカの文献がそう多くはなかった時代です。大濠にあったアメリカ軍の病院まで文献を見に行っていました。――現在のように医学教育の現場で英語が主流になるのは、もっとあとなのですね。小林:英語で学ばれた方が教壇に立つようになってからでしょうから、昭和40年代に卒業された方ぐらいではないでしょうか。私は卒業まで英語の授業に違和感を抱いていましたし、ドイツ語の方が学問的に体系づけられているように思えましたね。――先生は、どのようなきっかけで整形外科を選ばれたのですか。小林:一つには、基礎医学が嫌で臨床に行きたかったというのがあります。もともと理数系が苦手でしたから、薬理学や衛生学の試験も2回落ちましたし、薬の名前や極量(使用できる薬の限度量)を覚えられなかったので、内科系は無理だと思いました。腕を振るうことができる方がいいと思ったのですが、当時の外科系は封建的な空気が強かったので、そこも嫌だな、と。そのときに、後の恩師となる天児(民和)先生の講義を聞いて、講義の仕方や学生への接し方が素晴らしいと感じたのがきっかけですね。外科は悪いところを取ってしまうだけなのに対して、整形外科はものを創っていく、身体を修復していく医学だと聞いて、おもしろそうだなと思いました。――医学というとドイツのイメージが強いのですが、ドイツとフランスの整形外科にはどのような違いがあるのでしょうか。小林:ドイツは、伝統的に外傷外科は一般外科が診ます。フランスや日本では、運動器は整形外科が診て、脳を含めた内臓系は一般外科が診ます。国際整形外科学会が1930年代にできるときも、ドイツだけは「そんな区別は必要ない」と反対しました。――九州大学医学部に整形外科ができたのは、随分と早かったようですが。小林:東京大学、京都大学に続いて国内で3番目ですね。先見の明があったということでしょう。私が東京でのインターンを終えて「九州大学の整形外科に入る」と告げると、みんなが「素晴らしいところに入れてもらう」と言うわけですよ。当時、「整形外科なら九大」と言われていたことは、すごく誇らしかったですね。百年来の医学都市、フランス・リヨンへの留学。――フランスへ二度留学されていますが、どうしてパリではなくリヨンを選ばれたのですか。小林:最初の留学は、フランスではアルジェリアの独立戦争がある時代でした。ドゴール大統領がテレビで国民の団結を呼びかける演説をし、外国人は凱旋門にも登れない時代です。パリは住居や職業事情も良くなくて、物価もすごく高かったので、地方都市の方がいいと思いました。リヨンは百年来の医学の盛んな都市で、ノーベル賞を受賞した有名な医学者も多く輩出していましたからね。田舎ですし、下宿先の人達にとても良くしていただいて、フランスの実生活に触れることができました。――当時のフランスの医療を体験されて、どのような点が日本と違うと思われましたか。小林:機械の目新しさは少しはありましたが、技量は同じでしたね。でも、一番違うのは、人の使い方です。日本では、ドクターが雑用まですべてやるので、とにかく忙しい。でも、フランスの上級医師は所見をしゃべるだけ、ギブスを巻くのも指示をするだけで、専門の助手がやってくれます。その違いは大きいですね。――先生は、昨年「仏日・日仏整形外科学用語集」の編纂にもご尽力されたそうですが。小林:1989年に森崎直木先生が編集されたものをリニューアルしたのですが、日本語からも検索できるように作り替えたので、3年ほどかかりました。――フランス政府からレジオン・ドヌール勲章を授かったのは、先生が長年に渡って日仏の医療・文化の交流に貢献されたからですね。福岡に日仏学館を作る際には、保証人にもなられたとお聞きしていますが。小林:福岡の日仏学館は、東京、京都に次いで3番目ですが、赤坂けやき通りのビルを借りる際の保証▲1990年、恩師・天児民和先生(左)とともにKYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2014.05 05