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概要

九大広報Vol.94

小野:私が育った研究室は、教授がいて、助教授がいて、助手がいて、少なくとも週に一度は研究室内の研究会で全員顔を合わせる、そんな環境でした。まるで大家族のようで、大きな方向性は一致している中で価値観の多様性がありました。価値観とは、何がおもしろいか、何が重要かの判断基準と思ってください。私は、大学教育で大切なのは、価値観の教育だと思っています。博士課程を含めても、たかだか10年で学べる知識は、人生全体でみるとほんの一部に過ぎませんし、大学を出てから学ぶ知識の方がずっと多いでしょう。新しいものが次々と出てくる今の世の中では、取り入れる情報や学ぶべき知識を取捨選択せざるを得ません。社会に出てからもより大きく成長していくには、大学や大学院で獲得した価値観・ものの見方を生かして、学ぶべきものを選んでいくことが大事かと思います。その意味で、ゼミの指導などでは「このアプローチはこうだからおもしろい」「この分析はこのような意味でおもしろくない」など、私自身の見方・考え方が伝わるようにしようと心掛けています。しかし、この見方が偏りすぎるのも考えものです。その点、私が在籍した研究室では、教授、助教授、助手という三つの大きな価値観の軸があって、それぞれからの影響によって、私は自身のベクトルを獲得することができたと感じています。つまり、新しい情報や知識に触れたとき、〇〇先生ならどういうことを言われるだろうか、△△先生ならどう評価されるだろうか、などを思い浮かべ、その上で私はこう思う、と考えることができるわけです。しかし、今、私の研究室では、私一人で学生を見ているので、自分の学生時代ほどの価値観の広がりがなく、私が言ったことが唯一の価値基準になりかねない。このため、ほかの研究会などにも積極的に参加させて、いろいろな人たちとの交流の場を積極的に設けねばと思っています。「今」にベストを尽くす、そんな人になってほしい。――それでは最後に、九大生や高校生など、若い世代にメッセージをお願いします。小野:高校生にしても、大学生にしても、自分の将来を考えることはもちろん大切ですが、その将来設計にとらわれすぎてはいけないと思います。私も京都に住んでいて工学部に進学しようとしていた高校時代には、将来九州に来て、まさか経済学部の教員をやっているなんて想像もしていませんでしたからね。そのときどきでやれることをやっていたら、今ここにいたという感じです。ですから、若い人に言いたいことは「今、自分がいる場所でベストを尽くせ」ということです。大学に入ってすぐに就職を考えることは、会社に入ってすぐに転職を考えるようなもの。それよりも、今学ぶべき勉強や研究にベストを尽くしていくことにより将来が開けていくものと思います。大学で、何をどう勉強したのか、どう楽しんだのか。それが見える人になってほしいですね。そういう人が一番魅力的ですし、私もそういう人と仕事をしたいと常々思っています。研究室の学生たちと談笑する小野准教授。学生たちは「普段からとても楽しい先生です」と口を揃えます。小野廣隆准教授を中央に、浜瀬健司准教授(左)と古賀鈴依子さん(右)KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2014.0710