ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

九大広報Vol.94

気象庁と日本気象協会。――最初に基本的なことをお聞きしたいのですが、日本気象協会とはどんなところですか?手嶋:よく気象庁と勘違いされるのですが、気象庁と気象協会は違います。一言でいうと気象庁は国土交通省に属する組織で日本の気象行政全般を担っている機関、私の所属する日本気象協会は民間団体です。気象というのは意外とたくさんのお金がかかります。国内には気象台など有人の気象観測所が約60か所、アメダス観測点を含めた無人観測所は約1300か所もあります。加えて気象レーダーや気象衛星ひまわりなど高額な観測設備も必要です。さらに数値予報のためには演算能力に優れたスーパーコンピュータも必要です。地震や津波などの観測、解析も気象庁が行っており、職員も6000人近くです。一方、私が所属している日本気象協会は数百人規模の民間団体です。放送局や電力会社などに特定の気象情報を配信、企業向けの環境アセスメント、風力発電など各種構造物の立地条件調査、防災システムの設計など気象と環境のコンサルティング業務全般を行っています。テレビなどマスコミでの気象解説業務も含まれています。探検部活動を通じて得られた自然科学への興味。――気象に興味を持たれたのはいつ頃からですか?手嶋:直接のきっかけとしては、大学入学後から始めた探検部の活動です。山に登ったり、洞窟に入ったり、海に潜ったり・・・一年のうち200日くらいは野外活動を行っていました。探検部はフィールドワークなどの野外調査や学術探検を目指す文化系のサークルで、先輩や仲間には自然科学系の研究者を目指す人が多く、ずいぶん刺激されました。教養部2年の後期、農学部に進級する際に進路に悩んでいたところ、農業工学科には気象学教室があり、農学部2号館の屋上には気象レーダーもあると知ってフィールドワークとして面白そうだと思いました。さらに気象は野外活動に大きく影響しますし、時には命に関わることもありますから、理解できたら役に立つとも思ったのです。――大学時代はどんな研究をされていたのですか?手嶋:農学部では人が住む地上付近の接地気象学や農業生産に役立つ農業気象学、日常的な生活や防災に役立つ応用気象学が行われていました。なかでも私の研究テーマは地上付近の細かな気温や水蒸気分布、土壌中の水収支などのフィールド観測とそのモデル化でした。九大には気象の領域を研究する分野が数多くあります。理学部の地球惑星科学科では人間の住んでいる地上よりは高い対流圏から成層圏、さらには中間圏などを対象に地球規模の大気の循環や地球流体力学の研究が行われています。また工学部では都市工学系が自然災害の軽減につながる防災のための気象学や環境工学を研究しています。気象は暮らしと密着した幅広い学問なのです。――どのような経緯でテレビの気象キャスターという仕事に就かれたのですか?手嶋:正直に言うとテレビに映るような仕事ではなくて、人の少ない離島や辺地で気象観測がやりたかったのです。当時は今みたいに就職も厳しくはなく、修士課程を修了した後、研究室つながりで日本気象協会に就職しました。そこでは自分の研究の延長線上にある調査、研究系の部署を希望していたのですが、マスコミ向けの部署に配属されて今に至っています。もともと人見知りをする性格で、人前で話すのも嫌いだったので最初はイヤでイヤで辞めたいと思うことが多かったのも事実です(笑)。気象系の仕事を選んだのも不得意な人づきあいをしなくてすむと思っていたくらいですから・・・。それでもなんとか続けているとテレビの気象解説も15年経ってしまいました。――就職された後に、もう一度大学に戻られたのですね。手嶋:気象学は自然科学の中でもまだまだ未熟な学問分野です。天気予報だって今でもよく外れるでしょ(笑)。人々の要求のほうが遙かに高いですよね。日々の気象解説の中で理解できていないことや知識の不十分なことに気づくことも多く、社会人のまま博士課程に入学しました。その当時は仕事に夜勤があった代わりに平日の休みも多く、大学に通う時間があったのです。平成6年と平成9年の夏には年休をとり、ひと月以上、中国のチベット高原で気象観測する機会も得ました。この時期は仕事と研究と二足の草鞋を履いたわけですが、途中で三足になってしまいました。同じ研究室の大学院生と結婚してしまったからです。まわりからは「お前は何のために大学へ戻ってきたんだ」ってずいぶん怒られました。その後、時間がかかったものの博士の学位も頂きました。諦めそうな私のお尻を叩き続けてくださった先生方には本当に感謝しています。日本気象協会の中で天気図をチェックする手嶋さん福岡管区気象台屋上にてKYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2014.0704