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概要

九大広報Vol.94

面で「いい」「悪い」というのを考えますよね。意識しているかどうかは別にして、物事の善し悪しを計りながら、一番いいものを探そうとする。例えば、学校に行くときに、複数の通学路があるとします。複数ある中で一番いい通学路を選ぶこと、これも最適化の一種です。ある条件を満たすものの中で、何かしらの尺度を一番良くするものを選ぶことを最適化と呼びます。――尺度とは、例えば時間のようなものと考えればいいですか。小野:そうですね。通学路でも、一番時間がかからない道を選びますよね。あるいは、時間よりも距離が大事だ、あるいは電車に乗るなら金額が大事だ、と言う場合もあるかもしれません。これらは皆その通学路を評価するための尺度です。最適化の研究は、条件や尺度を数式に書き下したうえで、その尺度を一番良くする「解」を見つける良い方法を探すものと言えます。その解を見つけるために「計算」する、つまり「アルゴリズム」を考える必要があります。「最適化」は経済学においても重要なキーワード。――先生は経済学研究院に在籍されていますが、経済学と最適化の結びつきについて教えてください。小野:経済学には色々な側面がありますが、一つに「複数の人がそれぞれの尺度で最適化をしようとしているときに何が起こるか」を調べる、というのがあります。例えば、経済の言葉で需要曲線と供給曲線というものがあります。需要と供給が一致した点で価格は決まりますが、それは売り手と買い手がお互いに最適化しているということです。最適解が互いに釣り合っているという意味でこれを均衡と言います。――経済、経営という面でも、最適化の研究が役に立つということですね。小野:オペレーションズ・リサーチという言葉をご存知でしょうか。最適化は色々な分野で研究されていますが、オペレーションズ・リサーチもその分野の一つです。第二次世界大戦中に効率的な作戦遂行の仕方を研究したのが始まりで、効率的な物資補給などが研究されていました。「オペレーション:作戦」の「リサーチ:研究」というわけです。今では、経営分野と大きく結びついて発展しています。例えば顧客のニーズを満たすサービスを、いかに低いコストで提供できるか、というのはまさに最適化そのものです。――何か具体的な例はありますか。小野:同じく最適化について研究していた同級生に聞いた話をしましょう。彼は、今はITコンサルタントをやっていて、製造業における配送コストを下げるサービスを手がけたそうです。多くの製造業では、売上のうち5%以上が物流コストで、そのコストの60%を配送費が占めていると言います。仮に年間売上が5000億円とすると、物流コストは250億円、配送費は150億円になるわけです。ここで最適化の技術を使い、配送費の1%を削減するだけで、毎年1億5000万円が浮く計算になります。これは最適化が目に見える例です。配送トラックを減らすことで、環境にもいい影響を与えているわけです。――そのようなお話を聞くと、私たちの身近なところにも最適化技術が関わっていて、いかに社会に役立っているかがわかりますね。「アルゴリズム」とは問題解決の手順。――先生の研究のもう一つのキーワードである「アルゴリズム」についてご説明いただけますか。小野:アルゴリズムとは、問題の解き方、手順だと考えてください。最適化においては、できるだけ性能のいいアルゴリズムを発見する、あるいは設計する必要が出てきます。先ほどの物流コストを下げる話でも、最適化の土俵に乗せるには、まずモデル化する必要があります。つまり、尺度と条件を数式化して考えるということです。その数式を、どう解いていくのかがアルゴリズムです。モデル化にもアルゴリズムにも「いい」「悪い」、「上手い」「下手」があって、モデル化が良くてもアルゴリズムが良くないと、最新のスパコンを使っても何十兆年の計算時間がかかってしまう、つまり事実上解けないことはざらですし、アルゴリズムが良くてもモデル化が良くなければ満足する結果が得られないことがあります。ちなみに、そもそも望ましいアルゴリズムは原理的に作れない場合もあり、それを考える計算論という分野とも関連します。インタビュー中、ホワイトボードを使って講義さながらに熱く語る小野准教授30分20分50分30分40分20分10分20分20分10分10分10分10分60分30分10分20分20分20分10分10分50分50分A地点B地点STARTGOAL最適な移動ルートによる乗り換え案内図スタート地点(A)からゴール地点(B)までの行き方は、この図では何通りもあります。最小の「乗り換え回数」でAからBにたどり着くには青いルートをたどるのが「最適」です。一方、最小の「時間」で行き着くには赤いルートをたどるのが「最適」です。尺度に応じた「最適解」を求めるのがアルゴリズムの役割です。KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2014.0708