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概要

九大広報Vol.95

でいらっしゃる方なら、その国のことをよく御存じでしょう。ですが、研究対象をトータルに理解するということは、単に「この国のことは何でもよく知っているよ」ということではありません。例えばある国の政治の仕組みを理解するためには、細かな政治の出来事や流れをたくさん知っていることは当然重要ですが、それだけではなく、どのような角度や視点から捉えれば、最も適切に理解できるかという点がより重要なのです。研究対象を理解するための問題設定や物差しを作っていくとでも言い換えられるでしょうか。問題設定や物差しを適切に作るためには、言語はもちろんのこと、歴史や政治、文化への造詣が必要になってくるんですね。――その中で、中東・イラクを選ばれたきっかけは何だったのでしょうか。山尾:私は、もともと実務をやりたかったんですよ。国連だとか外務省といった外交の実務ですね。それには当然外国語の習得が必要になりますから、英語とともに、日本では学ぶ人が少ないアラビア語を勉強しました。ちょうどその頃、研究の道に進む大きなきっかけが2つ起こりました。ひとつは「9・11」です。当時は、カリフォルニア大学バークレー校に留学していて、あの事件をアメリカ本土で経験したのはとても大きな衝撃でしたね。それをきっかけに中東に大きな興味を持つようになりました。もうひとつは、アラビア語を学ぶためにシリアのダマスカス大学に留学している時に起こったイラク戦争です。その直後に「何が起こっているのだろう」という素直な疑問を持ってバグダッドに入って、いろいろと見て回りました。それがイラクに興味を持ったきっかけです。学会で批判を受けるのもうれしい反応のひとつ。――先生が影響を受けられた方がいらっしゃれば教えてください。山尾:やはり、京都大学時代の指導教員であった小杉泰先生ですね。日本の中東研究の第一人者でもあるんですが、とてもキャラクターが濃い方で、研究だけではなく、人生設計の仕方も含めて、多くの影響を受けました。先生が「研究者は書かなくなったら終わりだ」と常におっしゃっていて、それは今でも私自身のポリシーになっています。地域研究における問題設定や物差しの作り方も、小杉先生から教えられたことを踏まえて、今の学生たちに指導しています。――これまでの研究でうれしかったことはありますか。山尾:地域研究は、例えば経済学のようにディシプリン(規律)があるわけではないので、問題設定の仕方や物差しの作り方も自分で考えなければなりません。自分の問題設定が、ものすごくずれていることもあれば、フィットしていることもあるんですね。国際学会に行って研究報告をすると、その反応は大きく3つに分かれます。ものすごく賛同される場合、ものすごく批判される場合、そして相手にされない場合です。前の2つの反応があれば、やはりうれしいですね。批判されることも問題の核心には触れているということですから、それはそれでうれしい反応です。――ほかに、地域研究ならではの現地エピソードなどはありますか。山尾:博士論文を書くにあたって、サダム・フセイン政権時代に国外に亡命して反体制活動をやっていた人たちの歴史を追っていました。平成15年に起こったイラク戦争で政権が打倒され、反体制派の人たちが政権に就いたのですね。そんな彼らが反体制活動時代に地下出版していた資料を集めるのが実に泥臭い作業で、中東諸国の古本屋に行ったり、活動員と接触して直接もらったりしていましたね。もともとスパイ小説が好きだったので、博士論文も半分小説を書いているような感覚で、すごく楽しい作業でしたね。それと、その博士論文を刊行した後、その続編として出版した『紛争と国家建設――戦後イラクの再建をめぐるポリティクス』で賞をいただいたことも素直にうれしかったですね。シリア・ダマスカス郊外のサイイダ・ザイナブ廟(2007年2月)インタビューに答える山尾講師10 KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2014.09