ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

九大広報Vol.96

偶然生まれたフルカラーナノコーティング。―― 先生の研究の中でも、フルカラーナノコーティングというものが注目されているようですが。玉田:金属ナノ微粒子にも長い研究の歴史があって、大抵のことはわかってきているのですが、それでもまだわからないことが探せばあるようです。フルカラーナノコーティングも、そのひとつです。もともと銀微粒子の分散液は、黄色い透明な液体です。この黄色のナノ粒子を塗布し乾燥させても、通常は黄色のままなのですが、金薄膜の上に自己組織化で二次元膜にして積層していくと、層の数によって色が変わります。一層ならオレンジで、そこから層数によって赤、ピンク、紫、青になります。5ナノメートルという見えないくらいの厚みの中で、これだけ色が変わっていくのです。通常の色素でこれだけ鮮やかな色を出そうとすると、かなり厚い膜にしなければなりません。色の鮮やかさだけでなく、現象そのものがこれまで理解されていたものではなくて、自分たちも理由がわからず3年程調べてようやく論文発表することができました。――フルカラーナノコーティングは、どのような活用方法が考えられますか。玉田:当初は車のボディー塗装などを考えたのですが、ナノの厚みといってもそれではあまりにも高くつくので(笑)、貴金属でフルカラーである特徴を活かして、装飾品として価値があると考えています。フルカラーの仕組みを説明すると、微粒子の吸収によってある特定の波長の光だけが膜の中に入り、膜の高い屈折率のために強く閉じ込められます。通常の色素の化学色ではなく、ナノ界面で光を閉じ込めるという複雑な物理現象に由来した物理色なのです。―― 私もデザインが専門ですので、貴金属の発色を活かした研究にはとても興味があります。他の分野への応用は考えられますか。玉田:出口のひとつとして、目視で分子認識を検出できる高感度バイオセンサーによる医療応用があります。実は、フルカラーナノコーティング自体、学生が偶然発見した現象なのです。学生が測定データがおかしいというので、サンプルを持ってこさせたら、黄色のはずの基板が鮮やかなピンク色になっていました。「何度やってもピンクになる」というので、そこからいろいろと調べていったというのが始まりです。―― それでは、今後の研究の展望についてお聞かせください。玉田:表面・界面の研究では、対象となる材料が時代とともに変わっていきます。新しい材料が出てきたら、とにかく試してみるようにしています。金属ナノ微粒子も私が始めた頃はそれほど研究者人口は多くありませんでしたが、今ではとても流行の分野です。ですので、そろそろ分野を変えようかなと思っているところです(笑)。今、一番興味があるのは、細胞などの生体分子とナノ材料との界面の研究です。ナノ材料は、今ではあらゆるものに応用され、使われていますが、性能はいいけど環境にはどうなのか、人間にはどうなのかという調査を、医学系の方々とは違うやり方で、表面科学的に調べていきたいと思っています。▲玉田教授の研究室がある先導物質化学研究所(箱崎キャンパス)▲応用物理学会が発行する雑誌「応用物理」の編集長としても活躍。女性ならではの視点で、表紙や特集記事のデザインを刷新しました。▲「Au」は金、「Ag」は銀、「l ayer 」は積層数を表します。左端は金薄膜で、その上に銀微粒子の自己組織化膜を積層していくと、写真のように層数に応じて色が変化していきます。▼水面の青色の薄膜は金微粒子の単層シート金属微粒子によるフルカラーナノコーティングAu thin film Ag 1 layer Ag 2 layer Ag 3 layer Ag 4 layer Ag 5 layer Ag 6 layerKYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2014.11 11