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概要

九大広報Vol.96

「最大辺支配問題」の困難な解に挑む。  土中さんが研究している「最大辺支配問題」は、数学の一分野であるグラフ理論に属し、数学的に「NP困難」と呼ばれる、解(答)を求めるのが困難な問題です。 「点が交差点、辺が道路で表現される交通網もグラフの一種。辺にあたる道路の交通量や要する時間を『重み』といいます。『ひとつの辺は隣接する辺を支配する』という定義を用いて、任意の辺が支配する隣接辺の『重み』を合計し、最大となる解を求めます」 ある道路の交通量は、その道路が接する交差点と交わった複数の別道路(隣接辺)の交通量に関係すると考えれば、イメージしやすいかと思います。 「問題を解くときの手順をアルゴリズムといいます。解を求めるのが困難というのは、速く正確な解を出すアルゴリズムが存在しそうにないという意味です。例えば、しらみつぶしに探す単純なアルゴリズムでもいつかは答えが出ます。しかし、そのようなアルゴリズムだと辺が100本の問題の場合、スーパーコンピュータでも約400万年もかかってしまいます」 このようなときどうするか。これに取り組むのが土中さんの研究です。ひとつの方向性は、厳密性を犠牲にしつつ、しかしある程度正確で速く答えを出す「近似」アルゴリズムを開発すること。この正確さの見積もり(解析)自体に研究の難しさがあります。この世界は、人によってアプローチやプロセスが異なるため、「他の研究者を驚かすようなアルゴリズムを設計したい」と土中さんは語ります。小野先生からマンツーマンの指導を受けられるのが魅力。 土中さんは、小野先生の研究室に入ったきっかけをこう語ります。 「もともと経済にも興味があって、経済工学なら高校時代から好きだった数学とつながるはずだと思っていました。本当は微分積分とかをバリバリ使う世界に憧れていたのですが、ゼミ説明会で小野先生のお話を聞いて、パズル的な組合せ最適化の世界もおもしろそうだなと思いました。あとは小野先生の人柄ですね(笑)」 高校時代に学んだ数学とのレベルの違いに戸惑いを感じながらも、「研究成果を学会などで発表できること、またそれが認めてもらえることのうれしさ」を感じ、研究にのめり込んでいきました。 研究室の大学院生は、土中さんを含めて2人だけ。その分、小野先生とはマンツーマンで研究の相談をしたり、議論を重ねたりすることができるそうです。がむしゃらに挑んだ初の論文が受賞対象に。 土中さんは、「最大辺支配問題に関する貪欲法による近似率解析」という論文で、情報処理学会火の国情報シンポジウム2013の奨励賞を受賞しました。 「研究を始めたばかりのころにがむしゃらにやったので、あまり覚えていないのですが(笑)、賞をいただいて素直にうれしかったです」 また、土中さんは自分自身の将来について模索中です。 「研究を続けたい気持ちもありますし、就職して研究の成果や考え方のロジックを社会で応用してみたい気持ちもあります」 土中さんは、自分自身を輝かせる人生の選択について、近い将来にきっと答えを出すことでしょう。小野先生とマンツーマンで話す機会が多いという土中さん 土中くんの一番の長所は、自己分析力ですね。自分をしっかりと分析して、その中で自分はどうしたいのかをしっかり考えたら、即座に行動する力があります。私のゼミに入ったときも、仲間と示し合わせたわけではなく、自分だけで決断していますし、人のことは気にせずに自分が大事だと思ったことに突き進むことができます。 この先、いろいろな人と出会って話をする中で、私と違うことを言う人もいると思います。しっかりとした人であれば、その人が言っていることもきっと正しいはずです。そこで混乱したりする場合があるかもしれませんが、それを自分なりに消化しながら解決する方法を見つけていくことが、成長につながっていくと思います。自分が大事だと思ったことに突き進める力がある。指導教員より経済学研究院小野 廣隆 准教授(おの ひろたか)■関連Webサイトへhttp://www.九州大学 大学院経済学研究院 econ.kyushu-u.ac.jp/自分のアルゴリズムでほかの研究者を驚かせたい山口県立下関西高等学校(山口県)?九州大学 経済学部 経済工学科?九州大学 大学院経済学府 経済工学専攻 修士課程土中 哲秀さん※NP…計算量理論における問題の集まりで、Non-deterministic Polynomial time(非決定性多項式時間)の略 ※14 KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2014.11