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概要

九大広報Vol.97

調停研究にとって実務研究は必須項目。――先生は民間の調停を専門に研究されていますが、民間の調停例を挙げていただけますか。入江:民間型で先進的にやっている例としては、仙台弁護士会の震災ADR(裁判外紛争解決手続)は成功例と言えますね。実は、仙台弁護士会は、震災の前から熱心にADRを運用していて、人的ネットワークもできあがっていましたし、阪神淡路の震災ADRの蓄積も活用しながら、電話での申立書の支援を弁護士が行うなど、フットワークの軽い形での運用が効果的だったようです。日本全体の件数でいえば、裁判所の調停の方が圧倒的に多いのですが、話し合いの質や当事者の満足度などについては、参考にするべき民間の活動例は少なくはありません。そのような民間の成功例が、裁判所や行政のADRに取り入れられてもいいのではないかと思っています。――先生は講習などを行って、人材育成にも力を入れるなど、研究だけでなく実務関連にも積極的に関わっていらっしゃるそうですね。入江:私はもともと素人でしたから、実務家に鍛えていただいた経験が大きな財産になっています。調停という学問分野は、ようやくアメリカでも大学院レベルで研究されるようになりましたが、まだまだ理論面では若い分野です。実務に対して、どのようなフレームワークで仮説を立てて検証していくのかが、いろいろなアプローチで研究されています。日本で海外の研究をするにあたって、調停に関しては最先端のものをひとつだけ取ってくればいいというわけではありません。アメリカでも日本でも調停が用いられている社会的文脈を丁寧に見ることが大事です。できあいの規範をポンと当てはめて解決するのではなく、当事者が置かれている事情や個別性であったり、互いの言い分に立脚した話し合いを噛み合わせたりすることによって、着地点をローカルに探していくという手続が調停の本質だと思っています。そういう意味でも、ローカルに実務に根ざして考えることは調停研究にとって必須なのです。――では、先生の研究の今後の展望や目標をお聞かせください。入江:日本の調停の実務に影響を与える研究をしていきたいですね。これまで民間型調停の人材育成にフォーカスしてきましたが、本来の調停の考え方や技法、システムは、いろいろな場所で利用可能なものです。例えば、今、DSD(紛争システムデザイン)という分野がアメリカでも広がりつつあります。組織内での紛争解決システムをどのように作っていくか、どのような手続を置くか、あるいはどのような人材育成をしていくかということです。さらに、九州大学に長くおられた法社会学者の和田仁孝先生の言葉に「ソフトウェアとしての調停」というものがあります。調停の考え方をハードではなくソフトウェアとして捉えようというもので、企業単位や大学のような組織で調停の理念や手続を建設的に取り入れて、風土改善や枠組みづくりを進めようという考え方です。そういったものを、今後の私の研究にも取り入れていきたいと考えています。九州大学は正攻法の取組を堂々とやっている印象。――専門的なお話はここまでとして、先生が一人の研究者として大切にされていることは何ですか。入江:このように誌面で取り上げていただくことがおこがましいほど、自分の勉強不足は自覚しています。ただ、自分の足りないところばかり追いかけても時間が足りないので、自分の直感を大切にし?アメリカの在外研究でプレゼンテーションを行う入江准教授。?アメリカの民間調停人とのツーショット。彼らとの出会いが、入江准教授の人生を大きく変えました。?在外研究で行ったアメリカの修士課程学生とのひとコマ。?入江准教授の研究室がある箱崎キャンパス(文系地区)。秋は「学問の木」と呼ばれる楷の木の紅葉が美しいです。2 14 3KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2015.01 11