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概要

九大広報Vol.97

視覚情報の入口である一次視覚野の研究。 私たちが目の網膜を通して得る情報は、まず大脳後部にある一次視覚野で処理され、線分や傾きなどの簡単な判別が行われます。その後さらに詳しい情報を処理する二次視覚野へと送られます。萩原さんはその一次視覚野の研究者です。 「私たちは一度会った人の顔を数年後でも認識することができますよね。毎日会う人なら、髪型が変わっても同じ人だと認識することができます。そのために、私たちの脳の中でどのような情報処理が行われているのかを知りたかったのです。視覚は大脳の半分近くを占めるほど大きな領域で処理されますが、その基礎的な部分である一次視覚野を研究しています。今取り組んでいるのは、一次視覚野の機能が幼少からの発達期にどのようにできあがっていくのかという研究です」 人の顔のような複雑な対象を認識するメカニズムは生後どのようにできるのか。萩原さんは、それをマウスを使って研究しています。 「斜視や弱視など、目に障害を持って生まれてくる方がいますが、今は眼科の手術で目自体を治すことは可能です。ただ、眼科の手術では、障害による視覚処理能力の発達の不十分さまで治すことはできません。では、どのようなアプローチが可能か。私の研究は、そういうことにも繋がっていきます」萩原さんの運命を変えた大木教授との出会い。 「学部の低学年時は、決して真面目な学生ではありませんでした」という萩原さんの運命を変えたのは、4年生の時に九州大学に赴任された大木教授との出会いでした。 ほとんどの医学部生が卒業後に研修医へと進む中、萩原さんがあえて研究者への道を選択したのも、同じ経歴を持つ大木教授の影響があったからだそうです。 「もしも大木教授と出会っていなければ、普通に研修医になって医師の道に進んでいたと思います。医師は収入的にも安定していますし、社会的にも認められた職業で、患者さんを直接治せるというやりがいも大きいです。普通に医学生をやっていると、選択しない理由はない職業だとは思います。学部生のうちに大木教授の研究に興味を持って、ラボに参加して、手を動かしてみて『研究を続けたいな』と思えたことは運が良かったと思っています」研究者として独立し、自分の研究室を持ちたい。 萩原さんは、「夢は自分のラボを持って、自分の研究をすること」と言います。 「日本では研究室を持てるのは教授だけです。しかし、世界的に見れば独立した研究者としてラボを持つチャンスはもっと多いので、世界で活躍する研究者になりたいです」 萩原さんが研究の道を究めようとする源は、「知りたい」という興味や好奇心にあると語ります。 「二重らせん構造を提唱したジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックも、きっかけは好奇心からだと思います。それが今では臨床医学的にも重要な知見となっています。脳という”物質“に、どうして”精神“が宿るのか。それは、誰もが知りたいことですし、重要なこと。自分の研究が世の中の役に立つのは百年後かもしれませんが、重要なことを明らかにしていけば、繋がっていくことは間違いないと思っています」大木研究室の仲間と共に 萩原くんは、ポテンシャルが高く、研究者としての能力も十分に持っていると思います。 何に対しても集中して取り組めますし、実験や論文のロジックをしっかりと組み立てる力があります。これは、研究者として成功するためにはとても大切な素質なのです。 また、研究にも流行というものがあります。流行を知ることは大事ですが、それに振り回されることなく、上手に自分の考えや自分の研究に取り込んでほしいですね。 札幌で生まれて、東京、福岡と日本を縦断していますが、これからは一人の研究者として世界に出ていける人材だと信じています。 萩原くんに限らず、大学院生の時期は、今後の自分の研究の基盤を作るとても重要な時間です。自由な時間であるからこそ、今を大切にしてください。一人の研究者として世界に出ていける人材。指導教員より医学研究院大木 研一 主幹教授(おおき けんいち)■関連Webサイトへhttp://www.physiol2.九州大学 医学研究院 分子生理学分野 med.kyushu-u.ac.jp/研究者としての好奇心がいつかきっと世の中の役に立つ北海道札幌南高等学校(北海道)?東京大学 教養学部理科一類(中退)?九州大学 医学部 医学科?九州大学 大学院医学系学府 医学専攻 博士課程萩原 賢太さん14 KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2015.01