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概要

九大広報Vol.97

紫綬褒章の受章はがんばったみんなの成果。――この度は紫綬褒章の受章、本当におめでとうございます。63歳での受章ですが、この時期の受章については、どうお感じになりましたか?井上:文部科学省から推薦があったと聞いて、最初に「なぜ僕なんだろう」と思いましたね。自分がその受章に値するとは思いませんでした。でも、「先生、これはもらった方がいい」とか「もらってください」という周りの人たちの声があり、「みんなでがんばった成果が受章という形になったのだから、みんなのために頂かないといけないな」と思うようになりました。紫綬褒章を頂ける人は少ないそうなのですが、学術分野だけでなく芸能の分野からも選ばれるんですよね。―― 今回も歌手の桑田佳祐さんが受章されましたよね。井上:はい。ある朝、近くに住んでいる研究者が「先生おめでとうございます。桑田さんの受章がニュースで話題になって、新聞を見たら隅っこに先生の名前があって驚きました」と(笑)。でも、有川前総長から「現役の研究者で頂ける方は少ないですよ」とも言われまして、改めてありがたいことだな、と感じました。―― 受章の式典はいかがでしたか。井上:天皇陛下から直接頂くわけではないのですが、皇居に入るとさすがに感慨深いものが押し寄せてきましたね。陛下のお顔を近くで拝見して、お言葉を頂戴すると、「日本人で良かったな」とつくづく感じましたよ。「よくがんばったね」という意味で頂いたわけですから、誉めていただいて本当にありがたいと思いますし、「これから更にがんばりなさい」ということだろうと思っています。若い人たちと一緒に頂いたと思っていますから、これを励みに彼らはもっとがんばってくれるでしょうし、僕は九州大学のために何か恩返しができればいいかな、と思っています。人類史上最悪の痛みの発症メカニズムに挑む。―― 今回、高く評価された業績についてお聞きします。神経障害性疼痛は、癌、糖尿病、脳卒中、エイズなど、いろいろな病気からくる痛みであり、人類史上最悪の痛みとも言われているそうですね。その発症メカニズムについて、世界的な発見をされたと聞いています。井上:改めて人から言われると面映いですが、そのとおりです。―― その痛みに苦しむ患者さんは、世界で2千2百万人以上に及ぶそうですね。井上先生はどうしてその痛みに注目されたのですか。井上:患者さんの数は、今はもっと増えていると思いますよ。僕はもともと神経の研究をしていました。神経と神経が情報を伝え合うメカニズムを調べていて、情報を伝えるメカニズムのひとつにATPという化学物質を使う伝達方式があることを知りました。―― ATPとはどのようなものですか。井上:ATPはアデノシン三リン酸のことで、ミトコンドリアで作られる細胞のエネルギーの素ともいえるものです。細胞の中でいろいろなタンパク質をリン酸化するもので、それによって生物は生きながらえているのです。それほど重要なものが細胞外で伝達物質として使われること自体は不思議なことですが、どうもそういう仕組みがあるらしい、ということがわかりました。僕はATPの生理的な意義についてずっと調べていたのですが、1995年の『ネイチャー』誌にATP受容体のひとつが痛みを伝える神経だけに発現するという報告が掲載されたのです。それまで研究をしていたATP受容体が痛みと関係しているのであれば、痛みについても研究をしてみようと思ったのがきっかけですね。【聞き手】九州大学理事やまがた  ゆ み こ山縣 由美子04 KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2015.01