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概要

九大広報Vol.97

SERIES KYUDAIJIN Special Interviewめにも、そのような薬は必要だな、と思っています。―― 井上先生ご自身は、これまでに激しい痛みに襲われた経験はあるのでしょうか。井上:一度ありますよ。帯状疱疹ってご存じですよね。2年前にそれを頭部に患いまして、とても痛い思いをしました。とにかく痛いんです。髪の毛を触っただけでも、針金で突いたような痛みがあって、どうしようもなかったですね。―― そのような痛みを経験されて、ますます痛みの研究に力が入ったのではないですか。井上:病気になってぼ?っと寝ていてもつまらないから、せっかくだから何か実験してやろうと思いましてね。ちょうど、エコファーマというものを提唱していたので、自分の身体で実験してみよう、と。―― そんな無茶なことをなさったのですか。井上:僕は、神経障害性疼痛発症の研究から、痛みを抑えるにはATP受容体のひとつであるP2X4というものの働きを阻害することが重要だと考えてきました。エコファーマというのは、あとで詳しく話しますが、すでに認可されている薬の中に別の可能性を探す、ということ。既存の薬の中でP2X4を阻害するものを探してみようと思ったのです。そこで、学生にいろいろと調べてもらったら、ある薬がとても強くP2X4を阻害することがわかりました。その薬は、もともと別の作用がメインで使われていたのですが、P2X4の阻害にも作用することがわかったので、それを自分で服用してみたら、痛みがす?っと弱くなってきましてね。2回実験してみて、やはり効いたので「自分たちの研究は正しいな」と(笑)。自分で痛みを患ったのは、いいチャンスだったと思いますね。何よりも自分たちの研究に自信が持てましたから、いつかは世界に向けた九州大学発のいい薬が生まれるかもしれませんよ。多くの患者さんを救うエコファーマの提唱。―― 私も大きな病気の経験があって、ある新薬がヨーロッパでできていたおかげで命を救われました。今でもその薬をお守りとして持っているほど、薬への感謝の気持ちがあります。先生も、神経障害性疼痛で苦しむ患者さんのために、早く薬を届けてあげなきゃいけないというお気持ちが、エコファーマという発想に繋がったのですね。井上:2003年に論文が掲載された後は、メディアがたくさん取り上げてくれました。ただ、新聞の記事というのは、まるで明日にでも薬ができるように受け止められてしまうんですよね。記事を読んだ患者さんから「いつごろできますか」という問い合わせをたくさん頂いたのですが、実際には「薬ができるまで、あと十数年かかります」ということを伝えなきゃいけない。患者さんは今必要なわけですから、本当に酷な話ですよね。製薬会社にとってみれば、時間はかかりますが新薬を作る方が特許も取れて利益も莫大に上がります。でも、患者さんに早く薬を届けるために、今ある薬の中から効果のあるものを見つけてみようという気持ちになったのです。これがエコファーマです。―― 薬が持っている別の効用を、有効的に活用しようということですよね。井上:薬って、シンプルなものではありませんからね。薬学を学んだ人なら、ある一点だけに作用する薬なんてものはあまり多くないと思うはずです。しかも、すでに承認された薬というのは、安全性のデータも臨床データもたくさんあるわけですから、医師も比較的使いやすい。つまり、既存の薬を人類の資産と考えて、そこからいい薬を探し出しましょうということ。エコロジーであり、エコノミーでもあるから、エコファーマなのです。―― エコファーマ自体、井上先生がお考えになった言葉なのですね。井上:ええ、それを7年前から提唱しています。九大人▲化合物のライブラリーから新薬シーズを発見するための研究室。 さまざまな分析機器が備えてあります。▼山縣理事の質問に朗らかな表情で答える井上理事・副学長。06 KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2015.01