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概要

九大広報Vol.97

!?エコファーマからグリーンファルマへ。―― 今は、エコファーマをさらにグリーンファルマへと発展させようとされているそうですが、グリーンファルマとはどういうものですか。井上:エコファーマは患者さんには優しいのですが、物質特許が切れていると、企業にとってはあまりおもしろくないわけです。―― 製薬会社にとってメリットが少ないということですね。井上:エコファーマで見つかった薬に、誘導体をつけるなどして新しい特許を取ることができれば、企業にとってもメリットが生まれます。そのためには、特殊な合成が必要になりますが、通常の合成をやるとゴミがたくさん出てしまうのです。危険な物質も廃棄物として出てきますから、それではよくない。でも、薬学研究院の大嶋孝志教授らは、発生するゴミが、例えばエタノールだけという実に画期的な合成方法を研究されています。これはグリーンケミストリーと呼ばれていて、地球に負荷をかけない合成方法です。そこで、エコファーマとグリーンケミストリーを合体させて、人にも地球にも優しい創薬技術を生み出そうとしているのが、グリーンファルマです。既存の薬に新しい効用を見出すことで、その薬は長生きします。薬の側からみれば、それはドラッグ・リポジショニングというのですが、グリーンファルマは、そのドラッグ・リポジショニングも包括しながら、もっと大きな動きになってくるはずです。―― その研究所が病院キャンパス内に新しく生まれようとしているんですよね。井上:建物としては小さいですけどね(笑)。小さくても、ダイヤモンドのようでありたいと、みんな思っています。―― グリーンファルマによって、神経障害性疼痛の患者さんにどのくらいで薬を届けることができるのでしょうか。また、その手応えは感じていらっしゃいますか。井上:手応えはあります。まず、エコファーマで薬を届けることは、医師が処方するだけですので、すぐにでもできます。グリーンファルマで既存の薬に新しい誘導体をつける研究は、九州大学でも研究が進んでいますし、いいものが見つかってきています。ただ、それは新規の化合物なので、臨床試験などの関係から十数年はかかる。一方で、僕が企業とやっている研究は、うまくいけば3、4年で商品化される可能性はあります。医師がその気になれば、エコファーマの果実は享受できるんですよ。そうやりながら、患者さんにはあと3、4年がんばっていただいて、新薬として出てくるものを使っていただければと思います。それを使っている間に、更にグリーンファルマで別の薬が生まれてくるはずですから。―― 新しい研究所では、更にいろいろな薬の研究が進むわけですね。井上:病院キャンパスに誕生するシステム創薬リサーチセンター「グリーンファルマ研究所」では、痛みだけではなく癌とか感染症とか、たくさんの人が亡くなっている難しい病気を克服する薬を作ろうとしています。まずは、痛みでその先例を切り開く予定です。実は、病院キャンパスには医学研究院の外須美夫教授が代表を務める「九大痛みの研究会」というものもあります。医学部、歯学部、薬学部のそうそうたる研究者が揃い、さらに医師や看護師、薬剤師も加わって、患者さんの痛みを何とかしようと活動しています。文部科学省科学研究費補助金の機関別獲得件数でみると、疼痛の分野で九州大学は全国1位ですし、それも含めて九州大学は、痛みの分野では日本一進んでいると思いますね。伸びる学生の自主性をいかに引き出すかが責務。―― 若い人たちを育てていく上でどんなことを大事にされていますか。井上:僕は、人は強制的に教育されてもそんなに育つものではないと思っています。才能がある学生は、最初から才能が表面にでていることがあります。また、経験を積むごとに才能が現れる学生もいます。ただ、経験と知識が少ないだけであって、少し一緒▲「自分ではあまり手を動かすことはない」という井上理事・副学長。「若い人たちに任せていますから」。▲病院キャンパスに今春完成するシステム創薬リサーチセンター「グリーンファルマ研究所」(完成予想図)。KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2015.01 07