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概要

九大広報 Vol.99++

電磁誘導マントル(固体) 外核(液体鉄)のですか。高橋:小さいころから漠然と天体に関する興味をもっていました。当時は地球よりもほかの惑星、特に太陽系でも遠くにある天王星とか海王星といった惑星に興味がありました。私が小学生のころは、太陽系の惑星についての内容が教科書の1ページあるかないかの扱いで、天王星や海王星に関しては記述すらなかったので、すごく不満に思っていました(笑)。そのせいで少し関心が薄れていたのですが、中学生のときにアメリカの「ボイジャー2号」という探査機が海王星の近くを通ったというニュースをテレビでたまたま見たんです。そのときに青い海王星の写真を見て、また興味の熱が上がりました。――まさに先生の今の研究の原点ともいえる経験ですね。そこから大学の専攻、そして研究者へ一直線で進まれたのですね。高橋:私が通った東京工業大学は、1年生のころは類(学部に相当)の所属で、2年生から学科を選ぶシステムでした。1年生のころは物理に進もうと思っていたのですが、勉強していくうちに「物理学はよくわからん」と思い始めまして。難しいというよりは、物理をやる上での目標が定まらなくて、もう少し具体的目標が見えそうな地球惑星科学科に進みました。地球の内部に関する授業がとてもおもしろくて、その先生の研究室に入ることになったのですが、そこで研究していたのが地球の磁場なんです。研究室には、自分が子どものころに読んだ惑星に関する本があって、見返してみると、その本の著者が研究室の先生だったんですよ。「これは縁があるな」と思って、地球の磁場や惑星に真剣に取り組んでみようと思いました。――それはすごい。人とのつながりというのは大切なものですね。地球の内部を研究されるにあたって、いろいろなご苦労もあったかと思いますが。高橋:数値計算をする上では微分方程式を解かなければならないので、計算機を使えないといけないのですが、私の研究に必要なのはスーパーコンピュータなんですね。ただ、惑星の磁場という問題を扱う出来合いのプログラムはありませんから、スーパーコンピュータを使うためのプログラムを自分で組まなければいけない。なおかつ、スーパーコンピュータの性能をフルに発揮させるプログラムが必要なので、その点がとても大変でした。修士の2年間は、ほとんどプログラム作りに費やして、博士課程に進んでも最初の2年間はずっとプログラムを組んでいました。残りの1年間、自作のプログラムで当時世界一速いといわれたスーパーコンピュータをフルに使って、どうにか博士の学位を取ることができました。そのときのプログラムは今も現役でバリバリ使っているので、苦労した甲斐はありましたけどね。月には地球のような立派な磁場は存在しません。――ここからは研究の具体的なお話をしていただきたいのですが、まずは地球のお話からお願いします。高橋:地球は1つの大きな磁石であって、方位磁石を使うとNが北を指します。でも、どうして地球そのものが磁石になっているのかは、あまり知られていません。地磁気と呼ばれる地球の磁場は、地球内部の核というところから発生しています。地球の核は、主に鉄からできていて、外側の外核と呼ばれる部分は高温のために溶けた液体の状態です。液状で動きやすい状態ですから、常に対流を起こしています。鉄は電流を流す導体ですから、それが運動すると電磁誘導を起こして電流が発生し、その電流から磁場が生まれるというメカニズムです。これが長い時間続いたことによって、現在のような立派な磁場になりました。これは発電作用の一種で、ダイナモと呼ばれています。どのような流れが外核で起こって、どのような磁場が作られているのかを理解することが、研究テーマの1つです。――そして、もう1つのテーマが月ですね。高橋:そうです。現在、月には地球のような立派な磁場は存在しません。――そうなんですか。全部の天体が磁場をもっているのかと思っていました。高橋:地球のように立派な磁場をもつためには、いくつかの条件があります。まずは、天体の中心部に金属から成る核があること。そして、核の大部分が溶けていて、なおかつそれが対流、つまり運動していることです。この3つの条件が揃わないと、地磁気のような天体を覆うような立派な磁場は作られないのです。月には全球的な磁場がないので、内部に核がないのか、核があっても溶けていないために運動していないのか、あるいは溶けてはいるけど運動していないという可能性があるわけです。▲文部科学大臣表彰の若手科学者賞の賞状と記念メダル。▲高橋准教授が講義で使用する地球の磁場が発生するメカニズムの図解。12 KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2015.07