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概要

九大広報 Vol.99++

――最初に月は衛星を使って観測するとおっしゃいましたが。高橋:日本の月探査衛星「かぐや」で月周辺の磁場の観測を2007年から2009年まで行いました。月全体には磁場はありませんが、局所的に月の岩石が磁石としての性質をもっています。これは磁気異常と呼ばれるものですが、岩石がマグマから冷えて固まるときに当時の外部の磁場を記録したものと考えられているんです。この磁気異常を観測することで当時の磁場の様子を知ることができます。詳細に調べていけば、過去の月周辺の磁場が月のダイナモによるものなのか、あるいは太陽風による惑星間空間磁場という外部要因の磁場なのかもわかるのです。――「かぐや」という衛星は、周回する高度が100キロくらいと聞いたのですが、その高度で磁場は観測できるのですか。高橋:最初は高度100キロでしたが、2009年からは最低で20キロ以下の軌道まで下げました。観測前から月の磁気異常が微弱なことはわかっていましたから、微弱な磁場を測れるような磁力計を開発しました。――そのような観測機器の設計や開発にも関わっていらっしゃるのですか。高橋:実際の設計はメーカーにお願いするのですが、これくらいの強さの磁場をこれくらいの精度で測りたいという要望を出しながら、メーカーと一緒に仕様を決めます。一番大変なのは、メーカーが作ってきた試作品に対してこちらの要求を満たす性能があるのかをテストで確認することです。人工衛星は太陽電池パネルで電力を得て動く、いわば磁場の発生源ですから、本体そのものがノイズ源にもなるわけです。これは磁場を観測する立場からすれば厄介なことですから、人工衛星自体が作り出す磁場が最小限になるような設計を要求します。ひとつひとつの部品をもって来てもらって、その部品が生み出す磁場が規定内に収まっているかを全部チェックします。さらに組み立てた後にも、再度チェックを行います。――研究だけではなくて、そのための準備が本当に大変なのですね。高橋:衛星による天体の探査というのは非常に時間がかかる分野ですから、「かぐや」でもプロジェクト立ち上げから打ち上げまで10年を要しました。プロジェクト開始時には学生だった私が、打ち上がったころには一端の研究者になっているわけですから(笑)。?月探査衛星「かぐや」の模型。矢印の部分に磁力計が搭載されています。?デスクの2台のモニターには、細かな数値がびっしり並んでいました。?学生たちと一緒にいても、見分けがつかないほどの若さが高橋准教授の魅力です。?箱崎キャンパスの理学部棟。この夏、伊都キャンパスの新理学部棟に移転します。3 14 2→KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2015.07 13