U パブリックスペース・デザインマニュアル

 多くの人が利用する広場やモールなどのデザインの指針となる「パブリックスペース・デザインマニュアル」がまとまりました。個性と魅力ある新キャンパスづくりに向けた取り組みを、マニュアル取りまとめの現場からご紹介します。

新キャンパス・パブリックスペース・デザインマニュアルの作成について

新キャンパス計画専門委員会委員長・理事(副学長) 有川 節夫

■マスタープランの実現に向けて

 九州大学では、「知が豊かに育まれる空間づくり」を目指して、新キャンパス計画に関する検討を重ねてきました。

 「九州大学新キャンパス・マスタープラン二〇〇一」(平成十三年三月評議会決定)では、「伝統を創り出す象徴的空間と柔軟に変化・増殖する空間の共存」、「糸島地域の悠久の歴史と自然との共生」、「安心・安全で快適なキャンパス環境の整備」等、九つの全体計画目標を掲げ、良好な研究教育環境の創出をめざすとともに、キャンパス全体に関する目標の設定と空間の骨格形成の概念、土地利用、交通、インフラストラクチャー、研究教育施設の内部空間、段階的な整備等についての方向付けをおこなっています。

 新キャンパス計画専門委員会では、この「新キャンパス・マスタープラン二〇〇一」に従って各地区基本設計をとりまとめ、施設建設を進めています。

新キャンパス パブリックスペース・デザインマニュアル
■パブリックスペースWGによるデザインマニュアルの作成

 長期にわたるキャンパス整備の中で、マスタープランの精神を維持し、実現していくためには、新キャンパス全体に展開するパブリックスペースおよびその構成要素に関する汎用的なデザインの方針とそのマニュアルが必要であることが指摘されていました。そこで、二〇〇二年九月より、新キャンパス計画専門委員会にパブリックスペース・ワーキンググループ(WG長:池田紘一教授、二〇〇四年四月より佐藤優教授)を設置し、検討を開始しました。WGおよびコアチームでまとめた中間報告をもとに、(株)空間創研を建設コンサルタントとして、デザインマニュアルの作成に取りかかりました。作成にあたっては、事務局施設部と新キャンパス計画推進室の専任スタッフが全面的にサポートし、新キャンパスのオープンスペース、建物内部の共用空間、半屋外空間におけるランドスケープ、植栽、サイン等に関する様々な検討を行いました。

 パブリックスペースWGの検討成果である「パブリックスペース・デザインマニュアル」を、二〇〇四年九月の将来計画委員会に報告し了承を得ましたので、ここでご紹介します。このマニュアルを、個性と魅力ある九州大学新キャンパスづくりに向けた取り組みの指針にできれば、と考えています。

新キャンパス・マスタープラン2001 とデザインマニュアル

パブリックスペースとは?
パブリックスペースの対象範囲

(1)オープンスペース
新キャンパス全体における建物の外部空間。
アカデミックゾーンにおける「キャンパス・モール」、「キャンパス・コモン」、「グリーン・コリドー」、農場ゾーン、運動施設ゾーン、保全緑地など。

(2)建物内部における共用空間
建物内部におけるホール、廊下、リフレッシュスペースなど。

(3)半屋外空間
建物低層部におけるピロティ部分。

パブリックスペースの構成要素
ランドスケープ、植栽、サイン、光環境、アート、ファニチャー、色彩、素材。

新キャンパス・パブリックスペース・デザインマニュアル

パブリックスペースWG長 総長特別補佐・芸術工学研究院 教授  佐藤 優
新キャンパス計画推進室 助教授  坂井 猛

図1 パブリックスペースの対象範囲と構成要素
■デザインマニュアルの目的と役割

 パブリックスペース・デザインマニュアル(PSDM)は、マスタープラン二〇〇一にもとづき、新キャンパスのパブリックスペースにおける空間の質|クオリティ・オブ・ザ・プレイス|の創出とその継承を目的として、具体的なデザインの方向性や手法として示したものです。長期にわたるキャンパス整備では、関係者の交替や様々な情勢の変化が予想されます。そのため、これまでの地区基本設計を受け、今後進められる各地区の基本設計および施設整備のガイドラインとして位置づけるものです。

■デザインマニュアルの構成

 デザインマニュアルは三章で構成しています。第T章は、マニュアルの役割と構成について紹介し、マスタープラン二〇〇一の実現を支援するための位置づけと適用について述べています。第U章では、新キャンパス全体のデザインの考え方について述べています。第V章では、八つの構成要素に関する仕様と具体的な適用例を示しています。

図3 パブリックスペース・デザインの流れ図2 デザインマニュアルの構成


■新キャンパスのランドスケープと植栽

 新キャンパスでは、@地域の風土・ランドスケープとの調和、A自然との多様な接点の創出、B大学生活の「場」にふさわしい創造性を誘発する空間の創出、という3つのコンセプトに沿って、大学の「風格」を表す重要な要素として、ランドスケープを構成します。また、@感性を刺激する多様な「緑」の導入、A建築と調和した景観形成、B種の保存及び地域遺伝子の保護、C安全性や管理面への配慮によって植栽計画を提案しています。






キャンパスモールの四季植栽の成長とランドスケープ


■サインと光環境

 わかりやすく目的地に案内/誘導するサイン本来の目的に加え、@情報拠点への的確な配置、A現在位置のわかりやすさ、B通り名称の活用、C照明とサインの一体的整備、D変化への対応など、外部に開かれた九州大学にふさわしい提案を織り込んだサインを整備します。光環境では、「防犯性」や「安全性」などの役割をもつ機能照明に加え、演出照明によって「話題性」、「ランドマーク性」といったイメージを確立するとともに、自然や植物の生態系を守るために人工光が漏れないエリアをつくります。

サインレイアウト

光環境(ウエスト・ゾーン)


■アートとファニチャー

 アートは、「美しさ」や「うるおい」そして「象徴性」をもたらすとともに、「感性」を刺激し、九州大学のアイデンティティを高めるうえで重要な要素です。アートワーク評価・選定ワーキンググループにより、選定・公募等を行う予定です。ベンチ、バス停シェルター、植樹桝、手摺、柵、車止め、ゴミ箱、吸殻入れ、駐輪場などのファニチャーは、その場所で展開する行為に配慮するとともに、複合化をはかり、自然、建築、他の要素との連続性をもつデザインとします。

■色彩と素材

 飽きのこない、九州大学らしい、周辺景観を生かす色彩環境を形成するとともに、構成要素間の調和に配慮します。九州大学で新たに規定されたシンボルカラーの効果的な活用、箱崎キャンパスの色彩イメージの活用をはかります。また、利用者、環境、維持管理に配慮した素材を選定します。

サイン計画のコンセプトと箱崎キャンパスの色彩分析


■新キャンパスの各地区を繋ぐ横糸として

 九州大学は今、世界基準を超える研究成果、教育プログラム、提供し得る人的・物的資源を積極的に活用して、世界に向けてその存在をアピールしようとしてます。国際的・先端的な人材が集まり交流し、優れた研究成果や優秀な人材を輩出し続けています。パブリックスペース・デザインマニュアルは、九州大学の新たな活動の舞台となる新キャンパスが、全体として調和のとれた美しい魅力あるものとなることを企図したものです。今後はこのデザインマニュアルが、各地区を繋ぐ「横糸」として機能することになります。関係者のご理解とご協力を引き続きお願いします。

(さとう まさる 視覚記号、サイン・景観の計画設計)
(さかい たける 都市システム工学、キャンパス計画)


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