INTERVIEW
Dimitri Vanoverbeke
Professor, Section of Japanese Studies Katholieke Universiteit Leuven
レウヴェン・カトリック大学(ベルギー)
ディミトリー・ヴァンオーヴェルベーク教授

怖がらず海外留学して学び、成長してほしい

世界の学生が集う刺激的な九州大学

Q:先生はかつて九州大学に教員として在籍していらっしゃったそうですね。

ヴァンオーヴェルベーク教授(以下、V教授)九十五年から九十八年まで、九州大学が他大学に先駆けて始めたJTW(Japan in Today'sWorld)プログラムのコーディネーター(助教授)として、九州大学で働いていました。JTWは私の初めての職場で、第二期の途中から担当しました。当時JTWは学生二十人ほどの米国人が中心のプログラムでした。昨日は、第十二期の修了式だったのですが、今は、アジアを中心とする世界のいろいろな国や地域からの約五十人の留学生で構成されるとてもいい雰囲気のプログラムになっています。いい意味の変化と成長がこの十年間にあったと思います。

Q:今回はATW(Asia in Today's World)プログラムの講師としての「里帰り」だそうですね。

V教授:「ヨーロッパから見た日本政治」や「アジアの地域統合」をテーマにした講義をしています。先日は「アジアのidentityとは何か」をテーマに議論しましたが、ある学生は肌の色だと言い、ある学生は宗教だと言い、またある学生は儒教文化だと言う。どれもこれといった決定的なものではなく、議論は白熱してとても面白かったですよ。

 夏の間開講される九州大学ATWには、フィリピン、シンガポール、中国、韓国そしてヨーロッパなど様々な国と文化圏から「アジア」を学ぶために学生たちが集まって来ています。もちろん九州大学の学生も受講できます。今回実際に講義を担当してみて、九州大学が、世界の学生が集まって議論するというとても刺激的な大学になっていると感じました。

二十四時間体制で一人の人として留学生をサポート

Q:先生もかつては留学生でいらっしゃったとか。

V教授:高校を卒業して一年間、埼玉の高校に留学しました。その間ホームステイをしていましたので、来日したときはほとんどできなかった日本語もある程度できるようになって帰国しました。レウヴェン・カトリック大学を卒業して、日本学術振興会の研究員として再来日し、最後は東京大学の法学研究科博士課程に在籍して、九州大学JTWのコーディネーターになったのです。

 JTWでの最初の仕事が、健康を損ねてしまった学生の世話と、心配して来日したその学生の両親とお医者さんとのやり取りの通訳でした。初仕事がそういう神経を使う仕事でちょっとショックでした。でも自分の留学経験から、異文化の中で生活することがどれほどプレッシャーになるかを承知していましたので、どう対応すべきかという道筋は見えていたように思います。

 それにJTWは、教員とスタッフが一体となって留学生一人一人のケアをしていました。講義や事務などそれぞれの役割を果たしながらも協力して、学生たちが一年間いい経験をして帰国できるよう、二十四時間体制で、先生や事務職員というよりも一人の人として学生たちに接し、勉強だけでなく生活全般にわたってサポートしようとしていました。学生たちにもその気持ちは伝わり、お互いへの信頼に基づいたとてもいい関係ができていました。それは今まで見たことのない学生サポートの方法であり関係でしたが、それが留学生にとって一番有り難いことだということはすぐ分かりました。よく教えることも大事だが、心からの人間的なケアも劣らず大事だということを九州大学で教えられましたし、この経験は、留学生の受け入れや送り出しも担当する今の仕事に大いに役立っています。ですからベルギーの学生たちには「九州大学はいい所だからぜひ留学しなさい」と宣伝しているのです(笑)。

EU本部のあるブリュッセル近郊のレウヴェン・カトリ ック大学

Q:留学の窓口も担当されているというお話ですが、九州大学の協定校であるレウヴェン・カトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)でのお仕事についてもう少し教えてください。

V教授:現在は、レウヴェン・カトリック大学の日本学科の「現代日本・政治経済課程」の教授です。また、レウヴェンの全ての地域研究を統括する仕事もしていますので、結構忙しくしています。

 レウヴェンでは最近日本を学ぶ学生が増えています。日本学科全体で百三十人、そのうち一年生は六十一人です。増えた理由には、日本のマンガ、映画、アニメ、本などのポップカルチャー人気が背景にあります。こどもの頃、宮崎駿作品など日本のアニメを見た若者が、アニメの世界の背景にある日本文化を知りたい、日本語を学びたいと入ってきます。皆とても熱心で、日本に行って住むことを希望しますので、三年次を終えた後の一年間は日本に行くチャンスを与えており、今年は二十四人を日本に送ります。

 日本学科と同様、中国学科も学生が急増していますが、これは就職に有利であるというのが主な理由です。日本がバブルだった頃の日本学科が同じような状況でした。

Q:日本人学生のレウヴェンへの受け入れはいかがでしょうか。

V教授:地域研究部門のある文学部に毎年日本から五、六人留学してきます。レウヴェン・カトリック大学は、EU本部のある国際都市ブリュッセルから電車で二十分程の、大学と一般住民が半々で同居しているような落ち着いたいい所にあります。レウヴェンはオランダ語圏にある大学ですが、ほとんどの授業が英語で行われていますから日本人にも学びやすい環境です。九州大学からは昨年二人が英語で学び、貴重な経験をして帰国しました。EUは今後その存在意義をこれまで以上に増してきます。ぜひレウヴェンに学びに来て、そういう国際都市の雰囲気も味わってほしいと思います。

 大学間ネットワークを構築しEU加盟国間の学生交流を促進しようというエラスムス計画に沿って、九州大学とEUの三大学でコンソーシアムを作ろうという計画があります。レウヴェンに入学すると、レウヴェンだけでなく、EUの他の大学でも学ぶことができるようになります。

世界から学生が集まっているATWでの講義


人間としての成長を促す留学体験

Q:EUの学生と日本の学生両方に親しく接しておられるわけですが、EUと日本の大学生気質の違いなど感じられることがありますか。

V教授:最近EUの学生たちは、自分の大学や国だけではもの足りず、その外に出て学ぶことが当たり前になっています。外に出ない方が例外です。これは、ヨーロッパが統合してEUができた後の大きな変化です。さらに、大学で学ぶということが、従来の学問中心の考え方から、もっと広い意味を持つようになってきています。大学で学ぶことの意義は、学問を学ぶことのみにあるのではなく、人として大きく成長する糧を得ることにもあるという考え方。大学では、学問を学ぶだけでなく、人間としての成長を促す体験という勉強も大切だという意識が広がっています。日本では、大学の外に出るということはまだまだ例外的ではありませんか?日本とEUの考え方のこのギャップは、これから埋めていかなければならないでしょう。

 九州大学のATWやJTWは、九州大学の学生も留学生に混じって受講し、単位を取ることができます。また留学生たちの勉強や生活の世話をするチューターになることもできます。そういう体験をするときっと、世界の学生たちと学び生活することのすばらしさ、さらには海外留学の意義が実感できる筈です。九州大学には、ATWやJTWに学生を送ってきている外国の有名な大学へ、授業料免除で留学できる交換留学制度があるのです。九州大学に入った学生は、この制度を利用しないのはもったいないと思いますよ。

Q:EUから見た今の九州大学についてはいかがでしょうか。

V教授:学際的な大学院や二十一世紀プログラムのようなコースができていて、日本の大 学がこれまでにない新しいことをやろうとしていることを実感しました。キャンパスで出会う外国人 も以前より多様になっていると感じました。以前は、九州大学というよりも日本の主たるパートナー は欧米であったように思いますが、今の九州大学にはアジアと連携し貢献していくのだという強い意 志を感じます。九州大学の古くて新しいidentityができつつあると言えるでしょう。これに加えて、 EU諸国と組んで新しい交流が生まれれば、それはまた九州大学の新しいidentityとなるのではない でしょうか。レウヴェンは、日本に九州大学といういいパートナーを見つけたと思っていますよ。

Q:ありがとうございます。最後に、九州大学と九大生へメッセージをお願いします。

V教授:九州大学は、今申したように、レウヴェンそしてEUの大学といい形の交流を発展 させ、日本の中でも独特のidentityづくりを進めてほしいと思います。

 九大生の皆さんへ言いたいことは、怖がらず、英語圏だけでなく、英語を共通語とするベルギ ーに留学してください、ということ。そして、大学がただ学問を学ぶだけの所でなく、人間として大 きく成長する場でもあることを自ら体験してください。

 外国人学生の中で日本人の学生たちは、最初静かです。でもすぐに黙っていられなくなります。外国人たちとのコミュニケーションによって、精神的に大きな変化や成長が現れます。九州大学には、外国人とともに学び生活する場がたくさんあります。これを利用して自分を成長させ、次のステップとしてベルギーへ、EUへやって来てください。


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