趙憲注(チョーハンス)
(韓国東亜日報国際部次長)
1958 年韓国全羅南道康津出生。
ソウル大学言論情報学科卒業。
韓国中央大学新聞放送大学大学院修士課程卒業。
1985 年,東亜日報に記者として入社。 社会部,経済部,情報産業部,文化部を経て1999 年3 月から国際部に勤務。
1996 年8 月―1997 年8 月,東京大学社会情報研究所客員研究員。
訪問所感
九大での訪問研究期間は1 ヶ月という短い期間でしたが, 私にとっては忘れられない思い出となりました。私が福岡国 際空港に到着した瞬間から送別会に至るまで,九大の皆さん には大変お世話になりました。特に,杉岡洋一総長を始め,石 川捷治韓国研究センター長,留学生会館の皆さん,稲葉継雄先 先生,出水薫先生には,この場を借りま して再び感謝の意を申し上げます。また,私が1 ヶ月間滞在し ていた韓国研究センターでお世話いただいた国際交流課の皆 さんにも感謝します。
九大での滞在中には,韓国研究センターの開所記念式に参 加できたことが何より印象に残っております。というのは,今 から十数年前のことですが,私が大学時代に母校であるソウ ル大学に日本学研究所が設立されることに反対するデモをし たからです。当時は,学術研究所の設立に先立って,両国の歴 史的課題が先決されなければならないという理由で,デモに 参加しました。その後,日韓関係は大きく変わり,私の考え方 も変わりました。韓国には,幹林大学にすでに日本研究所が設 立されていますが,今回九大に韓国研究センターが開所して からは,韓国でも日本研究所の設立を検討する大学が増えて おります。日本の大学では初めて設置された韓国研究センタ ーに,しかも初めての訪問研究員として開所式に参加できた のは,私にとって極めて意味のあるチャンスでした。しかし, 事前の準備が不十分であったこともあって,マスコミに大き くかつ詳細に報道することができなかったこと,遺憾に思っ ております。
九大での滞在中には大学改革にも興味を持って関連資料を 収集しましたが,その際には広報担当の方々に色々とお世話 になりました。インターネットや本,各種記事などの関連資料 を見ながら感じたのは,九大は日本のどの大学よりも改革へ の対応がすばやく,これは日本の大学よりもっと多くの問題 を抱えている韓国の大学改革においても大いに参考になると 思いました。私は,帰国してから九大の杉岡総長とのインタビ ュー記事を新聞に報道しながら,このような点を韓国の読者 に伝わるよう努力しました。
また,九大での滞在中には,日本文化に精通した徐賢燮福岡 駐在韓国総領事のご紹介で福岡拘置所の裏側にある百道西公 園で開かれた尹東柱詩人55 周忌追悼式に参加したのは貴重 な経験となりました。同詩人の追悼式を取材する中で,「尹東 柱詩人の詩を読む会」の特集を製作していたTNC 系列ビデオ 製作会社(VSQ)のプロデューサーである高岡亭樹課長,同会 の代表である西岡健司福岡県立大学教授,メンバーの一人で ある統一日報社の馬男木美喜子氏には感心しました。真正な 意味での日韓交流は,両国の歴史を正しく理解することから 始まると私は信じています。私が,九大に滞在する間に興味深 く読んだ何冊の本があります。その本の一つが『蒙古帝国の興 亡』(講談社)です。この本では,モンゴル帝国が,モスクワから ポーランド,バグダードに至るまで史上最大の帝国を建設す ることができたのは,民族や言葉,宗教が異なる異文化を抹殺, 排斥する代わり,それぞれの文化の多様性を吸収していく政 策を採り続けたことに起因すると記されております。九大で ハングルを学んでいたいた内モンゴル出身の留学生との出会 いも印象的でした。これからも,人間に対する信頼関係を何よ り大事にする国際人に成長し,日本やモンゴルまた韓国を繋 ぐ架け橋的役割をすることを大いに期待します。また,九大の 学生諸君には,東大教養学部の小川清久先生がお書きになっ た『朝鮮文化史の人々』(花伝社)をお勧めいたします。韓国の 社会や文化を理解する上で,ご参考になるかと思います。
九大は,過去帝国大学としての歴史や学問的業績を誇る名 門大学の一つです。しかし,九大が従来どおりの名門大学であ り続けるためには,過去はあくまで過去であって,過去に執着 してはいけないと思います。すなわち,既得権を放棄しない限 り,未来に向けた果敢な改革は不可能であると思います。九大 キャンパスの移転は,既得権を放棄すると同時に過去の束縛 から解放される良いチャンスと思っています。大分に設立さ れた立命館大学の例からもわかるように,「ここは我々の牙城」 という地域観念はこれからの情報化社会では何の意味も持ち ません。九大は,九州での一位にとどまらずに,日本一位,否, アジア一位の大学になるように,すべての人的・物的資源を集 中させるのが必要であると思われます。この意味で,九大の韓 国研究センターも,日本の大学では「初めて」というタイトル に満足せずに,あらゆる面で日本最高の韓国研究センターと して成長するように努力して頂くようにお願いします。 蛇足となりましたが,東大での1 年間の客員研究生活より, 九大での1 ヶ月間の訪問研究員生活が私にとっては貴重なも のでしたので,私の率直なメッセージをここに述べさせて頂 きます。どうも有り難うございました。

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