クローズアップ
海外派遣留学とJTW

留学生センター前での講義
留学生センター前での講義
九州大学は創設時から留学生を受け入れるなど,継続して国際交流に努めてきました。
ここでは,各部局で行われている留学生受け入れや学生派遣とは別に全学事業として行われているJTW (学部留学生受け入れプログラム),JTW 参加校との交換留学という形で行われている学生派遣制度を御紹介します。




Part 1

留学生センターからのメッセージ
まずは学内留学から!

留学生センター長     西村 重雄

    すでにご存じのとおり,九州大学では海外の学部学生を対象とした短期留学プログラム,"Japan in Today'sWorld"(通称JTW)を実施しており,今年10月から第 期(2000­ 2001 )が始まります。これは,半年または1 年間,アメリカをはじめヨーロッパ,アジアからの留学生が,アジア・日本の諸分野に関する講義を英語で受講し,取得した単位を母校に持ち帰ることができるというプログラムで,第期は6 カ国25 名の学生が留学生センターで学ぶことになります。

  • JTW大学別受け入れ実績数
国 名
出身大学名
第1期〜第6期
1994­ 1999
全体数
女子内数
米 国
ミシガン大学
26
5
カリフォルニア大学バークレイ校
21
9
ワシントン大学
19
7
ライス大学
14
6
プリンストン大学
8
2
デューク大学
4
1
ウイスコンシン大学マディソン校
4
0
イエール大学
1
1
アムハースト大学
1
1
韓 国
西江大学校
6
3
梨花女子大学校
9
9
延世大学校
3
0
ベルギー
レウベンカトリック大学
8
1
ルーヴァンカトリック大学
2
0
ドイツ
ルードリッヒマクシミリアン大学
4
1
イギリス
ケンブリッジ大学
3
2
フランス
ロバートシューマン大学
2
1
ピエールマンデス大学
1
0
フィリピン
フィリピン大学
1
1
合 計
137
50

   ところで,これと同時に,JTW に参加してくる学生の母校に九州大学の学生が毎年派遣されていることを,皆さんご存じでしょうか?
   JTW 生受入れのための学生交流協定は,授業料不徴収による相互受入れを原則としており,九大生にとっても海外留学のチャンスを広げるものとなりました。その実績も年々伸びており,平成11年度に海外留学した九大の学部学生の約4 割(31 名中11 名)が,この学生交流協定に基づいた派遣でした。平成12 年度も,アメリカのリベラル・アート・カレッジ等との協定が新たに締結されたこともあり,派遣学生数はさらに増えるものと思われます。
   加えて,この制度で派遣された学生の多くが,JTW の授業へ参加したり,チューター活動を通してJTW 生に接したりすることで,留学の意志を強めた学生たちであったことも,この制度の効果の現れだといえるでしょう。
   JTW の英語による授業は全学共通教育科目として開放されています。九大生はこれらに参加することで,学内にいながら海外留学の雰囲気を味わい,世界各国から来た留学生と接することでお互いの価値観を知ることができます。また,ここで育まれた経験と友情は,九大生の派遣先でも生かされており,学内から始まった国際交流が世界中で実を結びつつあります。
   もちろん,これらの国際交流は学生だけではなく,教官にとってもすばらしい機会ではないかと考えています。
   各部局等の先生方にJTW の授業を担当していただいたり,アドヴァイザーとしてJTW 生の自主研究を指導していただいていますが,このような英語による講義や指導の経験や,教材・カリキュラム等の開発,シラバスの作成等は,今後九大生に対する教育にも参考にしていただけるものと思います。さらに,JTW生は,それぞれの国で最高レベルの学力と課外活動の記録やエッセイなどによる厳しい選考を経た学生たちであり,彼らに対する指導や交流は,先生方にとっても得難い経験との評価を得ています。
   21 世紀の日本において大学は,グローバルな人材を育成するという大きな役割を担っていかなければならず,従って自らを国際的に開かれた大学にしていかなければなりません。そのためにはまず,九州大学の学生・教官共に,国際的な感覚を身につけることが必要でしょう。このJTW プログラムと交換留学制度を利用して,身近なところで,国際感覚を磨いていただければと切望します。
(にしむら しげお 法学研究院教授)

Part 2

JTWの授業を担当した先生方の感想
玄海原子力発電所見学を引率する内野教授(右から二人目)
玄海原子力発電所見学を
引率する内野教授(右から二人目)

工学研究院教授     内野 健一
担当科目 : Supply and Demand of Energy
           —Present and Future —


   英語での講義は,長期間の留学の経験もない自分にとって,最初はやはり不安であった。それに日本人学生とちがって,話している途中でもかまわず質問する。これではどうなるものかと心配になったが,やがて少しずつ慣れてきた。講義は,「エネルギー需給の現状と将来」。質問や意見も,それぞれの国,個人の特徴を反映して面白い。それから,たとえば石油の話などになると,中東のことに触れざるを得ないが,学生の中にはイスラエル系の学生もいることがあり,このことも意識せざるを得ない。要するに,普段の講義とちがう緊張感があるのだが,決して不快ではなく,それによって自分が講義で失いかけているものに気付くのである。講義から離れて話もするようになり,進路の相談なども受けるようになった。そうなると,日本人学生との差はない。小さなクラスではあるが,私にとっては教育するという意味を世界的な意味から考えさせてくれる,ありがたい場である。
(うちの けんいち 資源開発工学)



法学研究院教授       大河原伸夫
担当科目  :  Policy Making in Contemporary Japan


   JTW の授業の受講者のバックグランドは様々であるし,大学院生の参加もある。こちらの説明が上手く通じるか,しゃべってみないとわからない。意外なところで,意外な質問が出ることもあり,心配した箇所がスムーズにいく場合がある。何れにしても,すぐにはっきりとした反応があるので,授業にアクセントがつくし,日本との比較で,諸外国の様子について学生の話を聞ける点で,JTW の授業は貴重な場になっている。
   残念なことに,九大生の参加がない(初めの1 ,2 回を除いて)。「よくわからないから,やめる」のではなく,「よくわからないから,最後までねばる」という気持ちを持ってほしい。
(おおかわら のぶお 政治学)



九大を訪れたJTW第1期生Carbonneauさん(左 ミシガン大学)、キム・ヨンスクさん(右 延世大学)と高橋助教授
九大を訪れたCarbonneauさん(左 ミシガン大学)、
キム・ヨンスクさん(右 延世大学)と高橋助教授

言語文化研究院助教授     高橋 勤
担当科目  :  Comparative Literature

   JTW の授業(比較文学)を6 年間担当して思うことは,アメリカの大学でTA (ティーチング・アシスタント)をしていたときに体験した,あの授業の緊張感を再び体験できたことではなかったかと思う。日本の大学にありがちな一方的な講義や知識の切り売り的な授業ではなく,学生と教官が積極的に意見を交換し批判し合う雰囲気の中に再び身を置くことができたことである。説明に冷や汗をかいたり,批判にさらされることも少なくなかったが,アメリカを含めた海外の授業の楽しさと厳しさを痛感したことは,貴重な体験であったと思う。
(たかはし つとむ アメリカ文学)




Part 3

チューターや交換留学生として国際交流を体験した学生たちの手記

JTW プログラムでのチューターの役割は,日本語のConversation partner として,また友人として,勉学・生活の両面で学生たちを補助することです。
主な業務としては
@来日時の世話(出迎え,日本滞在に必要な行政上の手続きのサポートなど)
A福岡案内・九大施設案内
B生活面・学習面でのサポートなど
留学生会館で到着したばかりのJTW生と対面
留学生会館で到着したばかりのJTW 生と対面
チューター経験で育まれたもの
修士1 年(英文学専攻)     長瀬 真理子

   去年の10 月4 日の夜,福岡に着いたばかりの彼らと留学生会館のロビーで初めて顔を合わせたときは,外国人に囲まれて緊張していたせいか,ポーターのようにただ黙々と荷物運びの手伝いにいそしんでいたのを覚えています。10 ヶ月後,彼らが私にとって掛け替えのない友人になるなんて・・・。
   もともと留学説明会に参加したのがきっかけでチューターに応募しました。この10 ヶ月間,随分留学生のお世話を・・・,留学生にお世話になりました。振り返ると,私にはたくさんの外国人チューターがついていたような気分です。留学生は本当に勉強熱心で,おしゃべりをしているときですら新出単語(もちろん日本語)をメモします。実家に連れて帰ると,足音をたてないように歩いたり,日本の文化にも興味津々で,中でもお正月のお年玉の風習が痛くお気に入りの様子でした。別れが近くなるにつれ,会う度に「あなたが留学したら,イギリスで会いましょう」と再会を誓ってくれる,そんな彼らとの出会いが留学への希望を大きくしてくれたように感じます。
(ながせ まりこ)



雪を求めて旅行した守部さん(右)とJTW 第VI期生のJarvis さん(ウィスコンシン大学)
雪を求めて旅行した守部さん(右)とJTW 第VI
期生のJarvis さん(ウィスコンシン大学)
チューターをしてこそ派遣される意義がある
経済学部3 年     守部 尚

(守部さんは,平成12 年度米国のベレア・カレッジ派遣学生に選ばれました。)
   九大には1 年間学生を海外の大学へ派遣する制度があります。これは単なる"派遣"留学ではなく"交換"留学という形をとっています。僕は昨年秋から今年の夏にかけて,世界各国から九大に派遣されてきた留学生(JTW 生)のチューターを経験し,また9 月からはアメリカの大
学へ派遣されることになりました。
   僕が留学前のチューター経験から得たものは数えきれません。"彼らと接すること"="常に英語に接すること"だったので,英語の能力が多
少なりとも向上したことは確かですし,文化や考え方の違いも直に感じ取ることができました。日本にいながらにして留学の練習ができたと言えるでしょう。
   しかし,僕にとって1 番大きな収穫は,理解し合えるアメリカ人の友達に出会えたことです。一緒に旅行をし,相談にも乗ってもらい,時には議論になることもありました。彼が帰国すると同時に僕も渡米することになるため,通う大学は違いますが,休みにはお互いに訪ねたりと交流を続けていく予定です。
   チューターとしての1 年間があったからこそ,派遣される意義があると考えています。派遣だけの一方通行では"交換"留学制度である意味がないからです。これからこの制度を利用して留学を考えている方には,ぜひ提携大学から九大に来ている留学生と交友を深める機会を持ってもらいたいと思います。
(もりべ ひさし)




第VI 期生と中山さん(右から二人目)
第VI 期生と中山さん(右から二人目)
留学を前にして
法学部4 年     中山 幸

   今年の8 月から1 年間交換留学生としてアメリカのライス大学に行くことになりました。この留学が決定する過程においてJTW プログラムを通したチューター活動が様々な意味で役に立ちました。
   はじめてチューター制度があるのを知ったのは,大学の留学説明会においてでした。以前から留学を希望しており,また海外の学生と接してみたいという思いからチューターに応募しました。しかし今までそのような活動を経験したことがなく,最初は戸惑うことが数多くありました。育った環境も文化も違う留学生たちと,どのようにしてう
まくコミュニケーションを取るか考えさせられました。またそれによって自分の英語能力の低さと異文化理解とは何かを知ることができました。
   留学準備を進める際には,英文の校正に限らず,留学先の事情や日本の大学との違いなど留学生から様々なアドバイスをもらいました。特に今年はライス大学からも4 人の留学生が来学しており,派遣先の大学について実際の学生の意見を聞くことができたので大変よかったと思います。さらにチューター活動を通して同じように留学の希望を持つ他学部の学生と知り合えたことも有意義なことでした。互いに助け合い
ながら切磋琢磨することができたと思います。
   これから1 年間,チューターの経験から得たものを生かして実りの多い留学生活を送りたいと思います。最後に,このような良い機会を支えて下さった留学生センターの先生方,留学生課の職員の方々に感謝します。
(なかやま みゆき)




留学中の高木さん(右から4 人目)と,JTW 第V 期生だったEngelheardt さん(ミシガン大学 右から二人目)とその御家族
留学中の高木さん(右から4 人目)と,JTW 第V 期生だった
Engelheardt さん(ミシガン大学 右から二人目)とその御家族
生涯の友を得た
工学部4 年     高木 剛

   私は98 年秋からJTW の留学生のためのチューターをし,99 年8 月からミシガン大学へ交換留学しました。私が留学し,チューターをやっていて一番よかったと思ったことは,非常にすんなりと他国からの留学生やアメリカ人と友達になり交友を深めていけたことです。また留学先に,既にJTW プログラムでのチューターの活動を通じて仲よくなっていたミシガン大学の学生がいて,彼らを通してアメリカの社会の様々な面に触れることができたことでした。
   初めてチューターになった時,それまで留学経験はおろか外国人の友達さえ持ったことのなかった私は,留学生に対して友達というより先に外国の人という意識があり,文化も考え方も違い言葉も十分に通じない彼らとの交際には,非常に苦労しました。しかしチューターの経験を通して,徐々にどのように文化の違う人と交友していくかを学ぶことができ,これが留学先で非常に役に立ちました。また何よりの財産は,チューターと留学しての2 年間を通して,彼らとお互い助け合い,また喜びを分かちあい,生涯にわたる友達関係を築くことができたことでした。
(たかぎ つよし)

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