新キャンパス・マスタープラン2001
新キャンパス・マスタープラン2001について
新キャンパス計画専門委員会委員長・副学長 矢田俊文

新キャンパスづくりの「憲法」とも言うべき「マスタープラン」が策定されました。
九州大学の改革の理念を具体的に展開し,学際的教育・研究の時代にふさわしいキャンパスを形成することを最大の課題とする「マスタープラン」の概要を,作成に携わった矢田副学長,出口助教授,坂井助教授に解説していただきます。

「大網案」の理念を
具体的に展開する
 2001年3月1日の評議会で「新キャンパスのマスタープラン」が了承された。
1999年4月にWTO政府調達協定に基づく公募型プロポーザル方式によって,選定委員会(委員長:渡辺定夫東京大学名誉教授)が設置され,活動を開始してからちょうど2年経過し,予定どおりの進捗である。99年8月の官報公示によって世界に向けて公募され,約3ケ月にわたる慎重な選考を経て11月30日に,三菱地所,シーザーペリ・アンド・アソシエーツ・ジャパン及び三島設計事務所の設計共同体(MCM)と正式に契約した。これによって, マスタープランの策定作業が本格化した。
 すでに99年12月に発足していた「新キャンパスマスタープラン策定プロジェクトチーム」(委員長:矢田俊文副学長)とMCM設計共同体との共同作業が,「プロジェクトチーム」の中に置かれた「コアチーム」(責任者:出口敦大学院人間環境学研究院助教授)を核にして,かなりハードな日程で進められた。21世紀の九州大学の基本方向を定めた「九州大学の改革の大綱案」の理念を空間的に投影すること,特に大学院重点化による国際レベルの先端的学術・教育拠点の構築,学府・研究院制度の導入に伴う柔軟な組織編成に対応した空間構成の創造,及び多数の学内の専門研究者が参加した多様なワーキングループやサブグループの検討結果を包括的にまとめた「新キャンパスの基本的考え方」(99年11月将来計画小委員会承認)をべースにすること,この2つの課題を前提に,都市計画,ランドスケープなどの専門的知見を十分に取り入れたプランづくりとなった。その成果は,2001年1月に全学に提案され,約1ケ月の学内審議のなかで出された多くの意見を取り入れて,冒頭に指摘したような最終決定となった。

クリックすると拡大表示され、詳細に見ることができます。ただし、非常に巨大なファイル(284KB)です。

マスタープラン4つの重点
 マスタープランは,「新キャンパスの将来像を九州大学全体で共有するための空間イメージを提示する」もので,「今後新キャンパス内の個々の施設等の計画,設計,建設を進めていく際に一つの方向性を示す目標像でもある」。その意味で,いわば今後の新キャンパスづくりの「憲法」とも位置づけられ,九州大学の統合移転事業は,新しい段階に入った。マスタープランの「全体計画目標」及び「全体計画方針と戦略」は,9点に集約されて第5章と第6章に述べられているが,次のような四つに大きく括ることができる。


1.
50年ー100年を見通した広大で快適なキャンパスとなることに配慮し,有効敷地約141haを確保するとともに,これをアカデミック,運動,農場ゾーンに3分割した。さらに,アカデミックゾーンをイースト,センター,ウェストの3つに分け,これを東西の骨格軸である歩行者専用の「キャンパス・モール」と自動車用道路などの「動脈」で結合し,一体性の確保を行った。さらに,東と西の両端に広い拡張用地を確保するとともに,「動脈」沿いに東西に中規模の拡張用地として「未来のポテンシャル軸」を用意し,将来の発展に備えた。

2.
学府・研究院制度のもとでの自律的な変革に柔軟に対応できる空間構成とするため,土地・施設等の全学管理・運営を行うとともに,研究・教育活動の交流と競争を促す交流・連携空間や戦略的空間を確保した。また,南に連続する開放的オープンスペース群である「キャンパス・コモン」をつくり,「キャンパス・モール」とともに学生,教員,職員,訪問者の交流の場として活用する。
 さらに,研究,教育・管理にIT(情報通信技術)を全面的に活用するとともに,象徴空間の創出,新交通システムやサインシステムの導入,バリアフリーな環境の形成,静寂な散策空間の整備や優れた眺望の確保,セキュリテイシステムの導入や災害等の危機管理対応など,快適・安全・安心なキャンパスライフが送れる空間を整備する。

3.
キャンパスの入り口となる学園通りに面した空間に,産学連携と国際交流の拠点となる「タウン・オン・キャンパス」を戦略的に育成し,「大学の顔」とする。ここに総合研究博物館を核とするインフォメイション・センターやビジネス・センター,産学連携施設,国際交流施設群,生活支援サービス施設,居住・宿泊施設などを整備し,国内外からの研究者や学生,市民が集う地域と世界に開かれた機能を集積する。また,規制緩和の流れを活用して,寄附や民間資金を導入して施設の整備を図る。
4.
エリア内に発見された貴重な遺跡群については,5つの前方後円墳,2つの中世山城,残りの良い石ケ元古墳群,製鉄遺構などについては現状保存とする。イーストゾーンの真ん中にある石ケ原前方後円墳については,未来を見据えた広い敷地の確保,アカデミックゾーンの一体性,開放性の確保の視点からやむをえず削平し,何らかの保存をする。
 現状保存した遺跡群は,キャンパスの縁辺部にあり,自然緑地として残す。大原川上流の谷部も湧水があることから,一帯を「生物多様性保全ゾーン」として開発の対象からはずし,ここに,エリア内の貴重な生物を移すとともに,最新の方法を用いて開発エリアの樹木等の移植を行うなど自然生態系の維持に努める。
 また,再利用水循環システムの導入による大規模な節水,廃棄物のリサイクル,風力発電など自然エネルギーの活用,パッシブ・システムの導入による省エネルギー,エコ・マテリアルの積極的開発と利用など,21世紀の地球環境問題の深刻化にチャレンジする斬新な科学技術の成果を取り入れた実験都市を構築する。
 これによって,糸島地域の悠久の歴史と自然との共生を図る。

移転開始に向けて
 今後,各地区ごとに基本設計,施設設計,施設工事を進め,2005年の第1期移転開始を目指し,埋蔵文化財や生態系への配慮,水循環への慎重な対応,通学・通勤条件の改善,学生向け住宅の確保など諸課題に正面から取り組みつつ,移転に伴う研究・教育への障害を最小限にするため,計画通りの10年間で移転を完了するよう,全学の理解と協力のもとに一歩一歩統合移転事業を進めていくことになる。

キャンパス・コモンのイメージ

(やだ としふみ)


前のページ ページTOPへ 次のページ
インデックスへ