かつての伝統は見る影もなかった。 最後の灯も消えようとしていた。この ままでいいのか。二人の男が立ち上が った…。
 今春、九州大学応援団を復活させる ために、数年ぶりに学ランに袖を通し た旧友コンビにインタビューしました。

使命感と義務感で

Q お二人のお付き合いは、いつ頃からです か。

中村:高校(福岡県の東筑高校)で同期 でした。指山君が一浪したので、九州大 学では私が一年先輩になりますが、二人 ともそれぞれ一年から四年まで応援団に 入っていました。私は卒業してすぐ就職 し、彼は大学院まで出てから就職。その 後お互いにいろんな経験をしまして、こ の春にたまたま医療技術短大の同級生に なった、というわけです。
指山:中村先輩の方が私より先に会社を 辞めて受験生活に入っていたので、情報 をあれこれ流して貰いました。参考書な どに関することも。

Q
お二人が九州大学の医療技術短期大学部 に入って母校のキャンパスに戻ってみる と、応援団が消滅していたんですね。

中村:最後に一人残った団員が、静かに 辞めてしまっていました。噂では聞いて たんですが、やはり目の当たりにすると 何とかしなくてはという気になって、体 育総務に相談しました。七大戦に応援団 が必要ですから、復活は大学としても大 歓迎と言われて、じゃあ二人でやってみ ようかということになって。
指山:決めたのが四月二日で、その翌日 には大学院などに残っていた応援団の後 輩に声をかけていました。 中村:彼ら―その一人は女性ですが―が 二人入ってくれました。その後新入生を 三名獲得して、現在の団員は七名です。

Q
もう一度やろうと決めた時、昔の気分が 味わえるとワクワクしたのではありませ んか。

中村:正直申しまして、楽しめるぞとそ ういう気分はほとんどなくて、使命感と 義務感が大半です。自分たち二人のこと だけを考えれば、体力的にも時間的にも 経済的にも、プラスにはならない。でも 応援団を復活させるには今がラストチャン スかな、と。一人きりでは難しいけど、 二人いれば何とかなるかもしれない、そ ういう気持ちはむろんありました。
指山:(うんうん、とうなずく。)
中村:自分たちがここで頑張っておけ ば、何とか後輩に引き継がれていくかも しれない。そういう気持ちだけですね。 楽しむのは、七年前引退した時に終わっ たと思っています。

Q
OBの皆さんは喜ばれたでしょう。

中村:「こういう次第でやろうと思うん ですがいかがでしょう」と連絡すると、

親衛隊や学ランに違和感を持つ人は多い。 廃止するべきかな、とも思います。 でも、団に入って活動しはじめると 「長ラン、かっこいい」となる。

指山 和巳
(さしやま かずみ)

九州大学応援団団長
医療技術短期大学部 診療放射線学科1年
(平成11年 大学院工学研究科卒)
今年の七大戦には親のような心境で臨みます。 連れて行くのが十八歳の後輩たちですから 迷子になるんじゃないか、と。

中村 英史
(なかむら ひでふみ)

同副団長
医療技術短期大学部 診療放射線学科1年
(平成8年 農学部卒)

※七大戦:国立七大学総合体育大会の通称。北海 道、東北、東京、名古屋、京都、大阪、九州の旧 七帝国大学の持ち回りで毎年開催される、スポーツの一大イベント。

「やってくれるのか!」。こんな組織は一 度なくなってしまうと後からまた自然発 生するというのは非常に難しいですし、 昔を知っている我々なら変な応援団は作 らないだろうと思われたようです。
指山:いろんな形で実際にご援助くださ る先輩も二三十人ほどおられます。
中村:再結成して十日くらいたった頃、 九大応援団としては約三年ぶりに硬式野 球部の応援に行きました。我々は練習不 足で声もあまり出ない状態だったのです が、野球部の方はそれでも、「すごく良 かった、また来てください」と言ってく れた。そういう声はとても励みになりま す。

交流の中で、 九大生だと自覚した

Q
後輩に伝えたい応援団の素晴らしさ、 とは。

指山:いろいろありますが……最大の財 産となるのは、日本中に知り合いができ ることでしょう。七大戦は、今年の東北 大学に続いて、来年は名古屋大学、再来 年は北海道大学の主催で開かれます。昼 間は応援して夜は他大学の団員と交流。 これが一週間続きますから。七大戦の後 も、九州大学で学園祭があるというと大 阪大学や京都大学から来てくれたり。 中村:昔は応援団に入るとすぐに、全国 に百人くらいは友だちができましたね。

Q
応援団はどこでも同じ、というわけですか。

中村:いや、逆にその中で否応なしに自 分が九大生であることを意識するんで す。自分の大学はよそと違う。でもよそ の大学の人が頑張っているからうちも頑 張ろう、と。応援団には、大学の名前を 背負っているという部分が大きいんです よね。
指山:九大の応援団は個性的なんです。 たとえば「演武」といって、応援歌に合 わせて振りを演じるんですが、本州の大 学の直線的な動きに比べると、九大のは 柔らかくてしなやかな感じがします。他 の大学からも珍しがられて好評です。応 援団ならではの学ランも、我々は長ラン 着用ですが、本州では普通の丈の学生服 がほとんどですから注目されます。
中村:ちなみに学ランは、私が学部一年 の時は普段も着てましたが、今は正式な 活動で外に出る時しか着用しません。
指山:少しずつ変化している部分は結構 あるんです。新生九州大学応援団では、 女性もチアリーダーだけでなく学ランを 着て演武ができるようになりました。全 国でも数少ないんじゃないでしょうか。
中村:今回再入部した後輩の女性が、以 前は吹奏部だったんですが、「実は学ラ ンを着てやってみたかった」と言うもん ですから。
指山:応援団は、旗を上げて太鼓をたた いて演武をするリーダー部と、楽器を担 当する吹奏部、それに女子のチアリーダ ー部に分かれています。私はずっと吹奏 部で、中村先輩はリーダー部で活動して来ました。


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