九州大学総長 梶山千里
長い間の努力を実らせた君たちへ、また君たちを支えて来られたご家族をはじめとする周囲の方々へ、心からおめでとうと申し上げます。
君たちがその門をくぐろうとしている九州大学は、一九一一年(明治四十四年)の創設以来、人材の育成や基礎研究を通じて社会に貢献してきました。先輩の多くは各界のリーダーとして、また様々な現場を支える核となって、世界を舞台に活躍しています。研究においては、文系理系を問わず、多くの分野で世界的に高く評価される成果を生み出しています。
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君たちに申し上げたい。何のために九州大学に入ったのかをよく考え、志を高く持って、まず勉強しなさい。分野を越えて広く学ぶことも九州大学では可能です。クラブ活動など先輩や友人たちとの交わりから学ぶことも、将来君たちの糧となってくれるでしょう。千人近い留学生、英語による国際コースや海外の一流大学との交換留学制度は、君たちの未来を世界に向けて広げてくれるでしょう。
十学部、十四学府(大学院の教育組織)、十五研究院(教官の所属する大学院の研究組織)、三研究所、三附属病院などを擁する我が国屈指の総合大学である九州大学には、君たちの夢の実現を手助けする人、仕掛け、設備が整っています。それを活かすのは、もちろん君たち自身です。瞳を輝かせた君たちとキャンパスで出会う日をたのしみにしています。
(かじやま ちさと 高分子化学)
撮影:堀之内義一 大学経由で社会に出ようとする者にとって、入試はまず通過しなければならない関門である。その関門をともかくも通過してきた新入生諸君には、とりあえず「おめでとう」の一言を進呈しよう。
しかし、入試に合格したからといって、本人や親たちが感激しているほど、そのことに大きな意味はない。スポーツにたとえれば、体操服に着替えたか、せいぜい準備体操を済ませたといったところか。試合はまだ、勝負もまだ、である。
では、四月以降の大学生活が試合であり勝負なのかというと、それも違う。日々の講義は基礎訓練であり、四年後の卒業論文でやっと練習試合にたどりつく。
道は遠いが、十分な基礎訓練を積み、本気で練習試合に臨んできた者だけが、本試合で本領を発揮できるのである。
受験勉強のさなかには理想郷のように思えた大学生活も、いざ自分がそこに身を置いてみると、案外退屈なものだ。けれども、その退屈を安易な手段で消費せず、それをどのように創造的に活用するか、人の実力はそこにあらわれる。
とくに人文系の学問には修了ということがない。大いに好奇心をかき立てよ。先は長いぞ。
入学式で何を感じ、どのようなことを考えましたか?
それより前に、みなさんは大学に進学しようと思ったときに何を考えましたか。そして、最終的に教育学部を選んだ時に何を考えましたか。皆さんは、それぞれに節目節目に自分で色々なことを考え、その考えに従って受験勉強などにも取り組み、晴れて入学を果たしました。このことを実現化した皆さんには素晴らしい思考力と行動力が備わっています。このような自分の持つ力を蔑ろにせずに、これからももっと生かしてほしいのです。
それは、大学入学後に何をするか、何をしたいか、など思い描いてきたことを実行することです。また、時には大学が自分の描いていたイメージと違う事もあるかも知れません。しかし、そのときには大学に進学しようと思ったときのこと、九州大学やそれぞれの学部を選択した時のことを改めて思い起こすとともに自分に力が備わっていることを思い起こして下さい。初心を忘れずに!
みなさんが入学するころは桜の木はもう緑が勝っているでしょうか。桜で思い浮かぶのが「桜吹雪が宙に舞う…」、時代劇『遠山の金さん』のクライマックスです。一方、「この紋所が目に入らぬか…」こちらは『水戸黄門』の殺し文句。話の筋はほとんど毎回同じなのに、何十年と見つづけられるのはなぜでしょう。実際の世界では正義が常に勝つとは限らないことに対する不満の表れではないでしょうか。悪が暴かれて溜飲を下げる、これが遠山北町奉行や水戸の老公の登場がいまだに要求される所以でしょう。確かに正義を実現することは難しいし、そもそも正義が何であるかを確定することも難しい。法学・政治学の研究は、正義を見極め、正義を達成する仕組みを明らかにしようとするものです。みなさんが将来桜吹雪を舞わせることができるか、紋所入りの印籠を見せつけることができるかは、これからの四年にかかっているといえるでしょう。
みなさん、受験戦争という長いトンネルから抜け出して、洋々とした平原に立っていろいろ迷っていることでしょう。いままで歩く道が与えられ、そのスピードも決まっていましたが、今度は自分で道をみつけ、自分のペースで歩かなければいけません。「自由な時間」を自ら選択・管理する力が問われています。「自由な時間」を方向性なく過ごすことも、学校の提供するカリキュラムをまじめにこなすのも、どちらも「空虚」な四年間となりかねません。自分の人生哲学らしきものを身につけ、カリキュラムやサークル、友人との時間をわがものとしてたくましく進化すること、これこそがあなたに求められます。「日々是好日」の心境には達せずとも、「日々是充実」の心構えで四年間を過ごしましょう。
いま君たちは
新しい世界の入り口にたっている
人生の一つの隘路をくぐり抜け
九州大学理学部生としての世界が
君たちの前に広がっている
君たちは
その世界に向かって
踏み出すチャンスを得たのだ
この未知なる世界
多くの可能性を秘めた世界に
一歩を踏み出すのは君たち自身である
必ずしも目的地が見えるわけでもなく
また多くの岐路に
明確な道しるべがあるわけでもない
まるで荒野の中の道なき道を
一人で旅するごとく
君たち自身で道を選び
前進しなければならない
「雪片風に吹かれて消えるまで」という短い青春時代
君たちのものとなった世界で
冒険をしよう
諸君、百周年を迎えた医学部への入学おめでとう。
我が医学部は医療だけでなく広く様々な分野で社会へ奉仕し、地球上に健康な明るい未来を構築することに貢献したいと思っている。人のため世のために役立つ何かを成し遂げ、個々の存在感をアピールできる医学を学ぶことは、諸君の大きな責任である。そのためには、諸君は必死で勉強し努力するしかないのである。国内外の研究室や病院を訪ねるのもよい。同じ医系キャンパスだけでなく他学部の学生諸君と対話するのもよい。「医学への疑問」を自分たちで企画してセミナーにしてもよい。諸君の型にとらわれない自由な発想と積極的な学習こそ、明日からの医学をたまらなく魅力的にする第一歩なのである。
※桑野信彦先生の任期は三月三十一日で満了となり、四月一日からは、原田実根(はらだ みね)教授が医学部長に就任します。
九州大学歯学部に合格されておめでとう。
目覚ましい医療の進歩に加えて、少子・高齢化社会や国際化社会が到来したため、医療においてもこれまでになく多くのことが、求められることになりました。一方、歯学部においても、平成十二年に大学院大学になり、続いて今年の秋に、歯学部附属病院は、生体防御医学研究所附属病院、医学部附属病院と統合し、九州大学附属病院となるような変遷に直面しております。それゆえ、今後歯学部に求められることは、先端的かつ国際的な歯科学研究を推進できる研究者を育成することであり、同時に、歯学だけに留まらず、医学との連携を考えた指導的・専門的な歯科医師を養成することでしょう。それゆえ、学生諸君はこれらのことを十分認識して、歯学部の期待にこたえる研究人および医療人になられることを願っています。
※田中輝男先生の任期は三月三十一日で満了となり、四月一日からは、山本健二(やまもと けんじ)教授が歯学部長に就任します。
みなさん入学おめでとう!
二十一世紀は生命科学の時代です。二〇〇三年四月にはヒトゲノムの全塩基配列が決定します。この遺伝情報を利用する事により、今まで開発が困難であった生活習慣病等に有効な新薬の開発が格段に進むものと考えられます。御存じのように、薬学者の使命の一つは、薬を創製し、管理し、患者に正しく適用し、あるいは人々の健康を保ち、かつ疾病を予防することによって社会に貢献する事です。夢を抱いて第一歩を踏み出すことは大切ですが、最も重要なことはその夢を具体的に育むことです。「迷い」や「疑問」は、その実現に向けての大切なステップです。「どう生きるか/何で生きるか」役に立たない知識や技術はありません。学問を通じて大学で学ぶことは多くあります。はっきりした意見を持ち、新しい考え方を創造できる個性豊かな人に成るべく、日々の努力を怠ることなく何事にも積極的に取り組んでください。
子曰く、学んで時に之を習う。亦た悦ばしからずや。朋あり、遠方より来る。亦楽しからずや。人知らずしていきどおらず。亦君子ならずや。
これは「論語」の最初の一節で、三つのことが書かれています。私は、論語の中でこの一節が一番好きです。特に、二番目の「朋あり…」が好きです。今、皆さんを迎える気持ちもこれに似ています。米国の大学で講義したとき、この一節を紹介したところ、学生も教授も三番目の「人知らず…」は間違いだと強く主張しました。私の英訳が悪いのかと思い、J. Legge英語版の文を別の教授に送って意見を訊いたところ、彼も「人知らず…」は間違いで受け入れられないと言いました。 彼らは「自分の業績を他人が無視したら怒るべきだ、黙っていてはいけない。」というのです。みなさんは、これから色々な価値観を持った世界の人たちと戦わなければならないのです。ケンカをしないで戦える力をつければ国際的君子です。
農学部への入学おめでとうございます。
このメッセージを書いている今、プロ野球のキャンプが真っ盛りです。例年この季節には各球団に超有望新人が入団し、すごい球を投げたり見事な打撃を見せたりして、開幕一軍はおろか秋にはMVPを獲得するのではないかと思うほどマスコミに持ち上げられます。しかし現実にはシーズンの大部分を一軍で過ごせる新人はほんの一握りしか残りません。実戦に持ちこたえるというのは大変厳しいことで、基礎体力を付け、基礎技術を付け、そして人並み以上の何かを持たなければ試合の場さえ与えられません。大学も入学時は周りがちやほやしてくれますが、学生生活というキャンプ期間中に自らの強みをのばし弱みを克服して、実戦に耐えられる自分へと成長してください。 ご健闘を祈ります。
※坂井克己先生の任期は三月三十一日で満了となり、四月一日からは、江頭和彦(えがしら かずひこ)教授が農学部長に就任します。![]()
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