人も生き物も集まるキャンパスを目指して

農学研究院 助手 佐藤 剛史

 まだ学生も教官も誰もいないキャンパスがある。福岡市西区元岡地区に現在建設中の九州大学新キャンパスだ。そんな九州大学新キャンパスにも月に一度は学生の声が響く。「倒れまーす」、新キャンパスの中にある里山を守るため、モウソウチクを切り倒す声だ。

必要だけど誰がやる?
新キャンパスの環境保全

 九州大学は、新キャンパスの造成に伴い、生物多様性保全事業を実施した。生物を一種も絶滅させない、森林面積を減らさない、という目標の下、高木移植、林床移植、池の引っ越しなどが行われ、生物多様性保全ゾーンが造られた。

 では、そうして守られた里山や生き物をどのようにして維持・管理するのだろうか。里山を里山として維持し、そうした二次的自然に住む生き物を守るには、人の手による恒常的な管理が必要なのである。『九州大学新キャンパス・マスタープラン2001』では、緑地の維持・管理に関して、「学生等によるボランティア活用」のアイデアが示されている。しかし、大学のこのアイデアの実現を待つ間にも、生き物が住む水辺は失われ、モウソウチクの侵食により雑木や杉檜が枯れているかもしれなかった。

ネイチャートレイルづくり

学生ボランティアによる新キャンパス環境保全活動の始動

 そこで学生が立ち上がった。理学研究院、矢原徹一教授の少人数ゼミナール(一、二年生対象)の新旧受講生が中心となってプロジェクトチームを結成し、学生ボランティアによる新キャンパスの環境保全活動を構想しはじめた。

 最大の問題は活動資金であった。保全活動を行うには、鋸やなた、ヘルメットなどの作業道具を買い揃える必要があった。そこで、この構想を、九州大学の全学事業、チャレンジ&クリエイションプロジェクト(C&C、院生や学生が自ら企画するユニークな研究・調査プロジェクトをサポートする事業)に応募した。選考の結果、C&Cに採択され、五十万円の助成を得ることができた。

 こうして、学生ボランティアによる新キャンパス環境保全活動がはじまった。

楽しい!
新キャンパス環境保全活動

 保全活動は、プロジェクトチームによって企画され、多くのボランティア参加者を得て行われている。二〇〇二年六月の活動開始から二〇〇三年五月までに計十三回の保全活動を実施し、のべ一七〇名の学生、教官、市民が新キャンパスで汗を流した。これまでに行った活動は、拡大するモウソウチクやマタケの除伐、セイタカアワダチソウなどの外来植物の駆除、間伐材を利用したネイチャートレイル(自然散策道)作り、環境保全型の田んぼづくり等である。

 モウソウチクを除伐した林床には光が差し込みだし、多くの植物が芽を出し始めている。二〇〇三年六月からは、これらの植物についてのモニタリング調査も開始した。上記の活動が生物多様性に与える影響を、学生自らの手で確認するためである。

 これらの活動において重視しているのが「楽しさ」である。楽しくなければボランティア参加者が集まらず、活動は長続きしない。そこで、参加者が楽しめるような保全活動プログラムづくりを心がけている。例えば、保全活動の合間に、除伐した竹で楽器を作ってリズム・アンサンブルを楽しんだり、「たからものさがし」と題して、小さな野の花や木の実などを探したりである。この5月にはホタル観察会も行った。

 活動後に行っているアンケートによれば、ほぼ全員の参加者が、「楽しかった」「また参加したい」と答えている。活動へのリピーターも多い。活動を楽しみ、新キャンパスへ足を運ぶことが、そのまま新キャンパスへの愛着を深めることにつながっているようだ。

作業後、笑顔が溢れる。 すがすがしくなった竹林の下で休憩
竹を利用して作った楽器でのリズム・アンサンブル 開学記念式典で、C&C 総長賞受賞を記念して講演。(左が佐藤さん)

九州大学初、
学内NPO法人へ

 組織を持続させることにも力を注いだ。プロジェクトチームの学生スタッフは、いつか必ず大学を巣立っていく。それゆえ、この活動を持続するためには、毎年、学生スタッフを補充しなければならない。

 そこで、このプロジェクトチームはNPO法人化の道を選んだ。NPO法人になったからといって、スタッフや活動資金が無条件に確保されるわけではない。しかし、何もしないよりは、法人として責任のある仕事を行っていけば道が開けるはず、と考えたのだ。

 そして二〇〇三年二月、九州大学初の学内NPO法人、「環境創造舎」が誕生した。教官のアドバイスを得ながらも、NPO法人の設立、運営は基本的に学生スタッフによって担われている。

 九州大学新キャパスが見渡せる生物多様性保全ゾーンの丘に立ってこう思う。今は、巨大な重機が走り回るこのキャンパスも、いつかは学生や教官、職員でいっぱいになる。そのときに、子どもたちや市民もこのキャンパスにやってきてほしい。多くの生き物たちもその周りにいてほしい。この活動、環境創造舎が、そんな新キャンパスづくりに少しでも役立てばと願う。

 人も生き物も集まるキャンパスを目指して。

(さとう ごうし)

◎環境創造舎ホームページ

http://www2.odn.ne.jp/q-volun/

◎佐藤 剛史 Goshi SATO

九州大学大学院農学研究院 助手/ NPO法人 環境創造舎 代表理事
TEL&FAX:092-642-2961
E-mail :goshi@agr.kyushu-u.ac.jp

前のページ ページTOPへ 次のページ
インデックスへ