●クローズアップ

新時代の法律実務家を育てる

九州大学ロー・スクール Take Off!

法学研究院教授 大出良知

広い視野、創造的能力、人間性

 二〇〇三年十一月二十七日、九州大学法科大学院(法務学府)の設置が認可されました。

 法学研究院においては、司法制度改革及び大学改革の進展を視野に入れながら、一九九九年以来、法科大学院の設置へ向けて鋭意準備を進めてきました。その過程で、大学における法曹養成のあり方について、その理念を明確にし、全国的な論議をリードする問題提起も行い続けてきたと自負しています。

 その教育目標として掲げてきたのは、新しい時代の法律実務家に求められる「広い視野にたった総合的分析能力」、「創造的思考による問題発見・解決能力」、「人間性への深い洞察力と倫理性」といった能力の涵養です。その具体的な内容は、狭義の法的知識や法的思考能力の修得を基礎としながらも同時にそれらを超えた深さと広がりをもった能力を意味しています。それは必然的に、法的知識、法的思考能力の暗記や習得という従来の法学教育や司法試験の受験学習が設定してきた目標に対する批判ということにもなります。

研究を前提とした「教育機関」として

 このような教育目標を達成するために求められている教育内容・教育方法において配慮する必要があるのは、次のような点であると考えています。

 第一には、これからは裁判所における裁判官的な事実認定能力や法適用能力にとどまらず、紛争予防・紛争処理の現場や創造的に人権を擁護し正義を追求できるように、弁護士(当事者)的視座を身につけられるようにすることです。

 第二に、こうした複眼的視座の導入は、少人数によるプロブレム・メソッド、ソクラテス・メソッドなどの新たな教育手法を必須の前提としています。

 第三に、法的能力についての複眼的視座の導入は、同時に実践的問題の処理にあたって狭義の法的能力以外の分析視角や倫理感覚などの涵養が不可欠であり、カリキュラム上も基礎法学や政治学のみならず隣接諸科学についての学修を容易にする必要があります。

 第四に、法律実務家養成が課題である以上、真の意味で、「実務と理論の架橋」を実現するためにも研究者教員と実務家教員の協働と知見の融合こそ必須と考えています。

 このような教育を実現するために、制度設計の基本として留意してきたのは、法科大学院を研究を前提とした「法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクール」(司法制度改革審議会意見書)、すなわち「教育機関」として位置付けるということです。

 そのような観点から、修業年限も、原則三年としてます。どのようなバックグランドを持った入学者であっても、新たな理念と目的をもって設立される法科大学院において、その教育目標を達成するためには最短でも三年という年限が必要と考えているからです。

入学者選抜―多様な資料による総合的判断

 以上のような制度設計の下で、入学者選抜にあたっては、公平性、開放性、多様性の理念を最大限にいかし、法律実務家を目指す明確な問題関心を持ち、幅広い教養と柔軟な思考力・果敢な判断力を身につけ、人間的な洞察力・冷静な分析力を備え、社会現象に対する自分なりの問題への接近方法を身につけている多様なバックグラウンドを持った入学者を確保したいと考えてきました。

 そのため、必須の適性試験以外に、応募理由書、学部成績自己評価書、職業経験報告書、社会経験報告書、及び小論文、論文、集団面接など、独自の多様な審査資料によって総合的に判定することにしています。

 早速十二月初めから学生の募集を行い、本年一月に入っての選抜試験の実施と、四月開校へ向けた準備を鋭意進めております。十二月十八日に締め切った学生募集では、百人の定員に対して当初の予想を超える八百三十四名の応募がありました。応募者の概要をご紹介しますと、男女比では、女性が三十四%を占めています。経歴では、現役あるいはそれに準ずる法学部生が四十六%、社会人が四十四%、法学部以外の学生が十%ということになっています。年齢構成も、二十代が六十五%と圧倒的に多くはありますが、三十代が二十六%、四十代が七%、五十代も二%。六十代の方も四名いました(グラフおよび表を参照)。

 一月十日に小論文試験を行い、定員の約三倍を第一次選抜の合格者としましたが、その合格者の構成比も、ほぼ同様になっています(グラフおよび表を参照)。

 この構成は、公平性、多様性、開放性の理念に見合う応募状況といってよいと考えておりますし、最終合格者も、設置基準の要請である社会人・他学部出身者三十%という基準を十分充たせる構成になると予想しています。

 となれば、これまでとは異なる多様なバックグラウンドを持った学生を擁する、興味深く、エキサイティングな大学改革の意味を具体的に示す教育の場が創出されることになると思います。

(おおで よしとも/刑事法学)
※大出教授は、平成十六年四月法科大学院長に就任予定。

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