特集・ようこそ九州大学へ

夢を持つ若者へ
九州大学総長 梶山 千里

九州大学へようこそ。長い間の努力を実らせた皆さんへ、そして皆さんを物心両面 から支えて来られた多くの方々へ、心からおめでとうと申し上げます。

皆さんが四年間あるいは六年間の学部教育を受けようとしている九州大学は、「のん びりと過ごせる大学」ではありません。九州大学の教育は、優れた先生方の努力と工 夫により非常に充実しています。世界中から約一二〇〇名の留学生が集い学んでいま す。このような環境を生かして自らの創造性を伸ばし、国際性を身に付けることがで きるかどうかは、皆さん一人一人がいかに真摯に大学生活を送るかにかかっています。

大学での勉強に限らず、身の回りで起こる自然の変化、社会変化に対して、常に好 奇心を持ち、「何故」と考えてみてください。何事につけても自分で考え、自分の 意見を持ち、その意見を他人に伝える訓練をしてください。それは、あなた 方自身の個性となり、創造性の源となります。

「夢」を持ってください。ノーベル化学賞を受賞された白川英樹博 士は、本学での講演で、「夢を見ることは若者の特権である」と言われ ました。総合科目「社会と学問」に突然登壇した俳優の高倉健さんは、 「夢を見、目標を決めてただ走るだけ」と言っておられます。宇宙ステ ーション建設に活躍している宇宙飛行士の若田光一氏は、九州大学工 学部の出身です。「自分はこうなりたい」と願うことは、皆さんをその 実現に向けて努力させ、あらゆる面で積極性を出させるでしょう。

桜咲くキャンパスで、瞳を輝かせた皆さんと出会う日を楽しみにしています。

(かじやま ちさと/高分子化学)

君、喜びたまふことなかれ
文学部長 今西 裕一郎

このような題を掲げて、九州大学に合格した君たちの値打ちを貶めようとして いるのではありません。大学へも行かず目先の快楽追求に余念のない私の甥や姪たち に較べると、君たちの姿は、すばらしい、の一語に尽きます。

しかし、そんなに喜ぶことはないのです。なぜならば、君たちは九州大学の試験に通 るべくして通った、すなわち合格は当然の、あるいは予期された結果であり、奇跡が 起こったのではないからです。周りから「合格おめでとう」とお祝いの言葉をかけら れても、軽く「おかげさまで……。ありがとうございます。」と答えて、普通の顔を していましょう。

二千何百人の合格者の中には、高校時代の成績からすると九大に受かるのは難しか ったのだが、まぐれで通ったと思っている人がいるかもしれません。しかし遠慮する 事はないのです。そういう人は「運も実力の内」という諺(ただし市販の「ことわざ 辞典」には載っていません)を肝に銘じて、遅まきながら自分には「運」という実力 が備わっていたことに目覚め、努めて冷静にふるまいましょう。

なぜか。現在の君たちの立場は、たとえて言えば百メートル競走で入賞を果たした といったところでしょう。けれども人生という競技場では、さらに千五百、五千、一 万メートルの競争が待っているからです。百メートルで入賞しても、その力が千五百 や五千の競技でも通用するとはかぎりません。

九州大学に入学しただけで前途洋々、という時代ではもはやないのです。『東大生は バカになったか』(文芸春秋、二〇〇一年刊)の著者、立花隆さんの言葉を借りれば、

いい大学に入ったからといって、その大学の単位取得制度にのっかって、卒業資 格さえとれば社会人としてやっていく資格十分ということには全くならない。同 様に悪い(といわれる)大学に入ったからといって、オレにはいい高等教育が得 られないと嘆く必要も全くない。
という時代なのです、今は。

願わくば四月から九州大学での授業を受けるその前に、「東大生」を「九大生」に置 き換えて立花さんの『東大生はバカになったか』(すなわち『九大生はバカになったか』) を読んでおいて下さい。

(いまにし ゆういちろう/国文学)

※四月一日付けで、今西裕一郎先生は国立大学法人九州大学の理事に就任し、 新しい文学部長に川本芳昭(かわもと よしあき)教授が就任します。

体験を通した学び
教育学部長 針塚 進

ご入学おめでとうございます。

皆さんは、受験という二文字が象徴するストレスに耐え、今はそのストレスから解放され多少 「ほっと」していることと思います。確かに受験というストレスは大きなものであったでしょうが、 その目標を実現化するために多くの知識を学んできたことでしょう。その知識を大学での学びにお いても生かすように、これからも一層多様な学びを経験してください。しかし、大学での学びは、 これまでのように自分の経験とは別に知識を獲得することに重点をおくことではありません。

これからの社会は、人類の生きる智慧が求められる時代になるでしょう。その求められる智慧は、 本や講義から受ける知識だけではなく、実際の経験や自己の体験を通した学びから自分の中に内在 化されてくるものです。そのためには、ボランティア活動、クラブ活動、実習・実験、インターン シップなど「体験を通した学び」にしっかりと出会って下さい。

(はりづか すすむ/臨床心理学)

好奇心をもって試行錯誤する学生生活を
法学部長 植田 信廣

イラク問題を挙げるまでもなく、二十一世紀を迎えて、世界も日本も厳しい危機に直面し大きな 転換点に立たされています。このことは皆さんも日頃肌で感じていることでしょう。他方で、こ のような危機の時代は社会全体が新たな大変革へと向かう希望の時代でもあり、法学・政治学へ の期待が高まり、その真価が問われる時代でもあります。

では、そんな時代に法学部に入学した皆さんは四年間脇目もふらずに法学・政治学 の勉学に励むべきか。私が皆さんに望むことは少し違います。一見、遠回りのようでも、大学時代 には人間や社会に対する飽くなき好奇心をもって、時には脇見もしながら、失敗を怖れず試行錯誤を 続けることのほうが、多くの場合より実り多い結果につながるからです。あまり早くから特定の専 門にとらわれた勉学ばかりしていると、頭が窮屈になって肝心の法学・政治学を真に理解する力も 身に付かない恐れすらあります。

まずは、貪欲に専門以外の学問世界や現実世界にも目を向けて、自らの視野の拡大に努めてくだ さい。文学や芸術に親しんで豊かな知性・感性を養ってください。危機の時代を切り開く法学・政 治学への展望はまさしくそこから開けてくるはずです。

(うえだ のぶひろ/日本法制史)

二十一世紀を生き抜く力を
経済学部長 荻野 喜弘

経済学部への入学おめでとう。

諸君には未来はどのように見えていますか。長い受験のトンネルをでると、 真っ白なキャンバスが広がっているはずです。そこに何を描くのかは諸君の 「自由」です。まわりを見回して見ても、二十一世紀の姿はまだ混沌としていま すが、考えようではたいへんよい時代です。二十一世紀の枠組みがこれから 作られるからです。それに皆さんは参加できるのです。それだけにどう生き るのかが問われることになります。

大学は学生の問いかけに対して様々な形で応えてくれるものです。何も問 いかけなければ何も応えてくれません。問題は問いの立て方であり、解決の求 め方です。経済が大きな役割を果たし ている今日において経済学部はそのために様々な方法を提供するはずです。

諸君にとって、九州大学が、そして経済学部が二十一世紀を生き抜く力を 生み出す場となることを願っています。

(おぎの よしひろ/日本経済史)

無限の岐路の中で
理学部長 小田垣 孝

自然界には、木の枝のごとく、幹が枝に分かれ、枝は小枝に分かれ、さらに小さな枝に 分かれるという分岐が無数に繰り返されるフラクタル構造がよく見られます。

人生もまた、時間を変数に加えた四次元空間で見ますと、誕生からその終焉に至るまで、 無数の岐路から成り立っています。木の枝の分岐との本質的な違いは、決してある岐路に 立ち戻って、別の道をとることはできないということです。

九州大学理学部への入学は、皆さんにとって人生の最も大きな分岐点の一つです。 分岐点での選択は必ずしもすべて自分で決められず、運命に任される場合もあります が、ひとたび進み出た道は、後戻りはできないのです。かっての栄光に浸り続けるのでは なく、また過去の運命や決断を恨むのではなく、辿ってきた道をいかに未来に生かすかを 考えることが大切です。日々の岐路での選択が、皆さんの未来を決めるのです。

人生の晩年になって振り返ったとき、辿ってきた一筋の道が満足できるものとなるよう な四年間を送られることを期待しています。

(おだがき たかし/理論物理学)

求めよ、さらば与えられん。
医学部長 原田 実根

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

昨年創立百周年を迎えた九州大学医学部は日本の医学医療に多大な貢献をし、医学の歴 史に残る多くの研究を世界に発信してきました。皆さんはこれまでの伝統を大切にしなが ら、新しいものを創造し、飛躍するという使命を期待されています。

医学への第一歩を踏み出した諸君は社会に対して既に大きな責任を負っていると言って も過言ではありません。九州大学医学部での六年間は、そのための基礎を作り、一人の人 間としてものの見方や考え方が形成される重要な時期です。心豊かで人間味あふれ、生き ることの素晴らしさを知っている人こそ、質の良い医療を提供できる医師に、そして自然 の偉大さを畏れ、生物の不思議さに感動する人こそ、質の高い科学を創造できる医学者に なれると思います。色々なことに積極的に取り組み、多くの友人を作り、そして大いに学 んでください。

“Ask, and you will be given.”

(はらだ みね/血液腫瘍内科)

将来の歯学を担う旗手に
歯学部長 山本 健二

法人化後、新たに生まれ変わった九州大学歯学部へ、新しい仲間として入学した諸君を 心から歓迎します。大学とそれをとりまく環境は今大きく変化をしています。

歯学部は、こうした社会環境の急速な変化と諸技術の進歩の中にあって、歯学分野の教 育研究の中核拠点となるべく懸命の努力を行っています。そのなかで、幅広い視野をもち、 且つ歯学の深い知識と研究開発能力を備えた次世代の歯科医師や研究者を育成すること は、私たちのもっとも重要な責務となっています。

諸君にとって、本学部への入学は最終目標ではなくスタートであること、在学中に習得 する歯科医学の深い知識と研究開発能力は本学部を卒業するに際しての最大の資産価値で あることを強く認識して欲しいと思います。今の感動を忘れないで、進んで自己啓発に励 み、自らの資産価値を高めて欲しいと心から願っています。

私たちは、歯科医療に情熱をもち、歯科医学に「知」の創造と発展をもたらしてくれる 諸君の若い力を大いに期待しています。

(やまもと けんじ/歯科薬理学)

時は金なり
薬学部長 正山 征洋

新入生の皆さん入学おめでとう。入学に際し我々教官が望んでいることを申し上げます。 束の間、刹那、瞬時、寸陰等短時間を示す言 葉、反対に千秋の思い、悠久等があります。昔も今も時が経つのは速く感じられ、前者が 多いのでしょう。

入学までは瞬く間の連続が、大学に入ると途端にのんびりしてはいませんか。時々のん びりする必要は有りますが程度問題です。四年間は三万五千時間余りです。長くて充実し た日々だったと感じるためには、日々新しいことに目を輝かす心がけが必要です。

薬学部は一年から実習も始まり忙しい毎日ですが、積極的に物事に向かってゆけば、充 実した日々が送れ、また貴重な時間がキープ出来ます。自分の趣味に、学問に、ボランテ イアに、また瞑想もいいではありませんか。友との語らいは将来の財産です。世界の変貌 を見極めながらしっかり勉学に励んでください。きっと一生のうちで一番長く充実した 日々だったと思い起こせること請け合いです。

光陰矢のごとしと卒業を迎える羽目にならないよう、今から寸暇を惜しむ心がけが必要 です。

(しょうやま ゆきひろ/薬用資源制御学・生薬学)

一千四百六十日
工学部長 村上 敬宜

スペインの哲学者オルテガは「エリート」について次のように述べています。「エリー トとは他人より自分が優れていると考える厚顔な人間ではなく、自分では達成できな くても、他人よりも多くのしかも高度の要求を自分に課す人間である」。「よくある悪 意のために、普通この言葉の意味が歪曲されている」(大衆の反逆)とも述べています。

皆さんは真のエリートになる覚悟で九大に入学しましたか?現在の日本の社会の閉 塞状況は社会を構成している日本人自らがつくりだしています。人間は百歳まで生き てもわずか三万六千五百日の寿命です。皆さんはすでに少なくとも六千五百七十日を 消費しています。大学四年間はわずか一千四百六十日です。皆さんは一千四百六十日 の九大時代を日々自分に何を課して過ごしますか?

九大工学部は単に工学だけを学ぶところではありません。工学以外の課題を自分に 課すこともエリートの条件です。

(むらかみ ゆきたか/機械工学)

※村上敬宜学部長の任期は三月三十一日で満了となり、 四月一日には大城桂作(おおぎ けいさく)工学研究 院教授が工学部長に就任します。

技術の人間化
芸術工学部長 佐藤 陽彦

九州大学芸術工学部への入学おめでとう。

諸君は九州芸術工科大学との統合によって生まれた九州大学芸術工学部の一期生と して、心に期するものがあることでしょう。「技術の人間化」を目指す芸術工学は「設 計=デザイン」を理念として、昭和四十三年に九州芸術工科大学として誕生しました。 それから三十五年、多くの実績をあげてきた九州芸術工科大学は、更なる飛躍に向け て昨年十月、九州大学と統合しました。諸君を見守ってきた家族その他の人々の心情 を思い、また、短大を入れても大学進学率が五十%に満たない現状と、九州大学が国 民の血税で賄われることを考えると、諸君には有意義な学生生活を送ってほしいもの です。人文社会科学から理工学そして科学技術にわたる幅広い知識を習得し、芸術的 感性を磨くとともに、人の言説をそのまま鵜呑みにすることなく、批判的に取捨選択 することによって自分の考えを確立して、「技術の人間化」に貢献して下さい。

(さとう はるひこ/人間工学)

農学への道
農学部長 江頭 和彦

新入生諸君、農学部への入学おめでとう。心より君達を歓迎します。

農学部は、今から八十三年前の一九二一年四月、七名の学生をもって授業を始めました。 設立当初から、広く海外を見据えた教育研究に重心を置き、国際性・専門性・社会性に優 れた幾多の人材を輩出してきました。農学部の卒業生には、アジアからの留学生が多くい ます。そのひとりLuong Dinh Cua(梁定国)さんは、ベトナム(越南)からの留学生で、 一九四七年農学部を卒業、帰国後ハノイ農業大学の教官、農業研究所の技師として、ベト ナム農業の発展に寄与しました。その功績を讃え、ハノイ市に、Luong Dinh Cua さんの名前を冠した通りがあります。

農学は、食料・生活資材の安定供給を基に、生物生存環境を保全し、人類の福祉と健康に 貢献する学問です。川が山から海へ流れるように、農学は自然な学問です。歴史と浪漫を 合わせもつ学問です。「今日の生活より明日の理念」、高い理想をもって勉学に努められ、 農学への道を歩まれることを期待します。

(えがしら かずひこ/土壌学)

先輩方からのメッセージ

歩いてみよう!進む君の前に道はできてくる
国立医薬品食品衛生研究所 筑波薬用植物栽培試験場 
主任研究官 吉松 嘉代

今年九大に入学した皆さんで、高校時代あるいはその前から「九大の○学部に入学 したい」と強く希望していた人はどのくらいいるでしょうか?かく言う私は、理系が 好きで就職に有利だからという理由で薬学部に入学し卒業した人間です。そして就職 先は、卒業時に専攻したことが生かせる分野ではありませんでした。はじめは大変で したが、常に新しい発見があり、飽きる暇がない現在の研究職の仕事が大好きです。 皆さんの中には、「こんなはずでは…」と思いながら入学した人もいるでしょうし、将 来「こんなはずでは…」という体験をする人もいるでしょう。ですが、好奇心と希望 をもって進んでいくうちに自ずと進む方向が見えてくるものです。さあ、未来へ向か って歩こうよ!

(よしまつ かよ/九州大学薬学部 昭和六十一年卒業)

サイエンスは未来へ
経済産業省 特許庁技術調査課調査係長 田上 博道

九州大学へのご入学おめでとうございます。日本は、限られた天然資源にもか かわらず、人材と技術力という知的資産により世界に類をみない速さで経済成長 を達成し、今日の豊かさを実現しました。引き続き日本が競争力を維持し経済的・ 文化的に発展を遂げていくためには、優れたサイエンスが必要です。幸いにも皆 さんが入学された九州大学には、素晴らしい仲間や先生方、そして知的好奇心を くすぐるサイエンスの世界がたくさん待っています。サイエンスを通じ新たな知 識や技術が生まれ、そして未来の世界が創られるのです。優れたサイエンスを通 じて、我々の未来作りを一緒に頑張ってみませんか。

(たのうえ ひろみち/九州大学理学部 平成十一年卒業)

芸工大魂を下敷きに更なる発展を!
(株)四元音響設計事務所 福岡事務所 
九州大学芸術工学部・九州芸術工科大学同窓会 会長 藤田 啓晴

新生(!?)芸術工学部にご入学の諸君、おめでとう!諸君は九州芸術工科大学が 九州大学と統合して初めての学生です。当然ながら、私を含めてこれまでの卒業 生は誰一人として九州大学という空気を知りません。諸君は両方の空気を思う存 分吸い込んでください。統合によって芸工大そのものはなくなってしまいました が、これまで三十五年にわたって築き上げてきたものは有形、無形を問わず計り 知れない程の価値を持っています。授業の形態が変わるのだと思いますが、初年 度からできるだけ多くの時間を大橋キャンパスで過ごすことをお勧めします。芸 工大魂を継承し、更なる発展を期待します。

(ふじた ひろはる/九州芸術工科大学音響設計学科八期生)


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