九州大学は、平成十六年度、フレンドシップ奨学金制度を新たにスタートさせました。
この制度は、世界の有力大学等の学生を本学に招き、将来にわたって、その国の指導者であり本学の良き理解者であるような人材を育成することを目的としています。
その最初の奨学生となったのは、フランスの三つのグランゼコール(注1)から本学に留学した五名の学生です。平成十六年七月十四日(水)、帰国を前にしたこのうちの四人と柳原正治副学長が懇談しました。
写真説明 @フランスでの在籍校 A九州大学での指導教員とその分野
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Jean Semere (ジャン・スメル) @ENSTA (Ecole Nationale Superieure de Techniques Avancees・国立高等先端技術学院) A長谷川 勉 システム情報科学研究院教授・ロボット工学 |
Benjamin Soulie (ベンジャマン・スーリエ) @ENSTA(国立高等先端技術学院) A金山 寛 工学研究院教授・計算理工学
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Aurelien Benoit-Levy (オレリアン・ブノワ=レヴィ) @ENSTA(国立高等先端技術学院) A谷口 説男 数理学研究院教授・確率解析 |
Nicolas Guy (ニコラ・ギィ) @Ecole Normale Superieure de Cachan (カシャン高等師範学校) A村上 敬宜 工学研究院教授・機械工学
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なぜ九州大学へ?
柳原:
九州大学は、国立高等先端技術学院を含むグランゼコール六校との交換留学生協定を結びました。あなた方はこの協定によって、授業料不徴収で九州大学に来ることができたのです。この協定によって、九州大学の学生をあなた方のグランゼコールへ送ることもできます。また、あなた方は九州大学が今年から設けたフレンドシップ奨学金の第一回生でもあります。四月に来日して三カ月が過ぎ、そろそろ帰国となりましたが、今日は、この間の経験や率直な感想を聞きたいと思います。
まず最初は、九州大学との出会いについてです。なぜ九州大学で三カ月間学ぼうと思ったのですか。
ジャン:
私はまず日本に、そして日本文化にとても興味があったからです。フランスでの日本語の先生が村上敬宣先生を私たちに紹介してくれました。村上先生は私の希望を聞いて、長谷川先生を紹介してくださいました。私は長谷川先生の研究テーマに非常に興味を持って、来日を決めました。
ベンジャマン:
私は村上先生と連絡を取り、金山先生を紹介していただきました。金山先生の専門や研究内容を聞いてから、興味が出てきました。
オレリアン:
私もジャンとベンジャマンと同じです。村上先生を紹介され、やりたいことをEメールで説明したのです。私が確率の研究をしたいと説明しましたら、村上先生が谷口先生を紹介してくださいました。おかげで私の一番興味のあるテーマを見つけることができましたし、多くのことを学ぶことができました。
ニコラ:
私は、三年前に村上先生の研究室を訪問したことのあるシルヴィー・ポミエという教授から村上先生に連絡を取ってもらい、村上研究室で研修を受けることになりました。
いくつかの驚き
柳原:
そのような経緯で日本に来た訳ですね。来日前にも日本について何かイメージを持っていたと思いますが、日本に来る前と来てからとでは、日本についての印象は変わりましたか?同じですか?
オレリアン:
私は去年、東京で三週間過ごしたことがあります。来日前は、たいていのフランス人が思っているように、日本人は働き者だというイメージを持っていました。本当です(笑)。でもそれは、「サラリーマンと呼ばれる人々が本当によく働いている」と言ったほうがよいでしょうね。去年日本にホームステイしていた時のホストファミリーのお父さんがそうでした。朝も夜も会えませんでした。私が起きる前に出社して、私が寝た後に帰宅していたからです。でも、日本人みんながそんな生活をしているわけではないと、今は理解しています。
ベンジャマン:
私も、日本にはとんでもなく仕事をする人がいて、学生もよく勉強するものと思っていました。でも日本の学生もフランスの学生と同じであることが分かりました(笑)。確かに非常によく勉強する学生もいますが、そうでもない学生もいるし、あまり勉強しない学生だっている。
ニコラ:
来日前、私も他の人達と同じようなイメージを持っていましたし、それは今もそんなに変わりません。私の研究室のほとんどの人たちは本当に研究熱心でよく勉強するので。私はそれにとても驚きました。
柳原:
福岡にはわずか三ヶ月の滞在でしたが、九州大学の印象はどうでしたか。
ジャン:
九州大学だけのことなのか日本の大学全体に言えるのか分かりませんが、実験がとても多くて理論の時間が少ないことに、最初は面食らいました。というのもフランスでは反対に、理論に多くの時間を費やし、実験はとても少ないからです。私のいる九州大学のロボット工学研究室では、主に実験に基づいた研究を行います。そして、プログラムをたくさん書きます。プログラムを書く前に行う理論の学習時間は少ないのですが、それでも研究の進みぐあいを速めることができて、結局このやり方のほうが時間の節約になっていることが分かりました。とても面白いアプローチだと思いますが、理論を沢山やる習慣のついた人には、それがなかなか理解できません。
ニコラ:
私もジャンと同じ印象を受けました。日本では非常に実験が多い。フランスでは理論が多い。でも、すべての研究室でそうだというような一般論にするつもりはありません。村上先生の研究室では、多くの実験を必要とするテーマを扱っているからそうだとも思うからです。ただ実際、私の母校で実験に当てられる時間は、日本で実験に当てられる時間よりも、かなり少ないです。
オレリアン:
私は、九州大学で確率を学びましたので、理論しかやりませんでした。確率において実験というのは難しいからです。九州大学の数学の教授のレベルはとても高いと思いました。母校である国立高等先端技術学院の先生方よりもかなり高いと思います。
ただ、九州大学で、確率についての三ヶ月の授業の間、一度も演習がありませんでした。フランスでは絶対にありえないことです。ベンジャマンとニコラの感想とは反対に、数学においてはたくさんの理論を学ぶのです。当然のことです、応用は難しいですから。でも、理論と共にやるべき演習もあまりやりませんでした。これでは今何をやっているのか理解できない。理論といっしょに演習をしなければ学んでいることの理解は難しいものです。このことにはかなり驚きました。
柳原:
理論と実験の比重の違いは興味深い話です。他に、生活上の問題はありませんでしたか。日本でのコミュニケーションはうまくいきましたか。
ニコラ:
私が日本語を話さないので、相手が英語を話さなければ理解しあえない、それが一番大きな問題だったと思いますが、研究室ではみんな英語が上手なので、たいした問題もなくコミュニケーションがとれています。来日前の村上先生とのEメールによる連絡も英語で、問題ありませんでした。ただ、ビザ取得のために必要な書類をフランスに送っていただくのに、九州大学の事務の方と意思疎通がうまくいかず、ちょっと大変でした。
ジャン:
私も、必要な証明書の取得がうまくいかず、フランスでのビザ取得の時に問題がありました。そして到着後、奨学金の支払いが遅れて、それもちょっと困りました。
柳原:
分かりました。来年はこれらの点を改善しなければなりませんね。
さて、もっと楽しい話題に変えましょう。九州大学で沢山の経験をされたと思いますが、フランスに帰国した後、あるいは就職して、その経験がどう役立ってくると思いますか。
 | 懇談する4人の学生と柳原理事(右端)
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将来につながる九大での体験
ジャン:
私は、九州大学のロボット工学研究室にいます。日本のロボット工学はフランスに比べてとても進んでいます。九州大学で学んだことは、フランスでの学業面でも、就職して職業となってからも、とても役立つと思います。フランスでは決して見ることができなかったものを、九州大学に来て見ることができたと思うからです。また、個人的には、異なる文化を発見し、文化的・個人的に視野を広げられるので、外国で過ごすというのは、たとえわずか三ヶ月であろうと、とても意義あることだと感じています。
卒業後は、情報エレクトロニクス分野で、携帯電話、デジタルカメラ、音響といったものに関わりたいのです。そして日本で、日本企業で働くことを希望しています。
ベンジャマン:
私はデジタル・シミュレーションの研究室にいます。この分野で、以前は知らなかった沢山のことを学びました。また一方で、指導教授である金山先生を通じて日本の新しい交通手段を知りました。リニアモーター列車計画です。私は将来、交通機関の分野へ進もうと思っています。自動車交通か鉄道交通。そういうことに興味があります。それに外国で働けたらいいと思います。できれば日本で。
ニコラ:
私は、金属・金属資材の実践というテーマで実験をしました。このテーマで非常に面白い経験をしました。村上先生が明確にされた実験的分析方法があるからです。私は、その実験的分析方法を三ヶ月間勉強しましたが、この経験はフランスではできないことです。とても有意義でした。
私はフランスで航空学分野の研究者として働きたいと思っています。ロケットや飛行機といったものです。
オレリアン:
私は、確率分析分野において多くを学びました。来年、修士課程で学ぼうと思っていることは、この三ヶ月間九州大学で学んだことに近い分野です。ですから、来年は良いスタートが切れるでしょう。そのほか、学んだ結果を数学概論の問題に応用することに成功しました。かなり面白い数学全般にわたる教育を受けましたから。
私は卒業したら銀行か金融関係の仕事をするつもりです。旅行もしたい。この二つを両立することは、銀行の分野では可能だと思います。
交流を進展させるために
柳原:
日本の国立大学すべてがこの四月に国立大学法人となり、大きな変化が求められています。それで私達は、九州大学を世界トップレベルの大学にするためのいろいろな新計画を考えています。皆さんが第一回生となったフレンドシップ奨学金制度を設けたのはそのひとつです。そのような九州大学へのアドバイスがあれば、ぜひ聞かせてもらいたいのですが。
オレリアン:
フランスのグランゼコールと九州大学の間に、二重学位(ダブル・ディプロマ)制度が設けられればいいと思います。フランス人学生が九州大学の学生として九州大学に一、二年間留学し、フランスの大学と九州大学の両方で学位を受けることができるような制度です。
国立高等先端技術学院の例ですが、ヨーロッパ諸国との間にたくさんの協定があります。学生は一、二年留学して国立高等先端技術学院第三学年を修了し、二つの学位を受けます。日本でもそれができれば、もっと多くのフランス人学生が留学してくると思います。
ジャン:
二重学位(ダブル・ディプロマ)の制度は、履歴書の付加価値となりますし、企業でもそういう人材が求められています。
このシステムが日本で実現した際には、外国人留学生にとってより魅力あるものにするために、システムを整備したり、日本語ではなく英語で授業を行ったりする必要があるでしょう。ヨーロッパの学生の日本語力はとても低い場合が多いので、そんな学生達でも授業を受けられるように、いくつかの授業を英語で行えばいいと思います。
柳原:
九州大学はフランスとの関係強化を検討しています。毎年、数名の九大生をフランスへ留学させています。この八月には、二名の学生が一年間の予定でフランスに渡る予定です。全体では、七、八名がフランスに留学をすることになると思います。でも九州大学の学生数は一万八千人です。あなた方がフランスで九大生と出会う機会は、なかなかないでしょうね。
ニコラ:
二人のうちの一人には九州大学で会いましたよ。ナガタ・コウイチ(永田晃市)さんといいます。彼とはフランスで再会する約束をしています。
柳原:
永田君は、ルノーのプログラムに参加して※パリ・テク(注2)に行く予定です。私は、ルノー財団が新たに開設するプログラムに関する催しに参加するため、十一月にパリを訪れる予定です。そのときできればまたお会いしましょう。
今日はありがとうございました。
全員:
ありがとうございました。
(注1)グランゼコール(GRANDES ECOLES) フランスの専門高等教育機関。理工系グランゼコール、ビジネス系グランゼコール、高等師範学校(ECOLE NORMALE SUPERIEURE)がこれに含まれる。
(注2)パリテク(Paris Tech) フランスの技術系高等教育機関十機関による共同教育・研究機関(グランゼコールを含む)
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