レウヴェン大学留学記
渋田 百日紅(しぶた ももこ)
二十一世紀プログラム 二〇〇六年卒業(第一期)
 二〇〇四年九月―二〇〇五年八月の間ベルギーのレウヴェン・カトリック大 学に留学し、ヴァンオーヴェルベーク教授はじめ現地教職員から高い評価を得る。現在東京の医学専 門書出版社「南山堂」勤務。二〇〇七年二月の東京国際マラソン参加予定のため走り込みと減量に奮 闘中。

すばらしい講義や先生との出会い

Q1 留学を志したきっかけ、心がけたこと、ベルギーを選んだ理由は?

 小さい頃から世界を旅して回りたいと思っていました。九大では、交換留学説明会に参加したり、留学生と接したり、言語文化部箱崎分室の英語のレッスンを取ったり、カナダ、アメリカ、イギリスへの短期語学研修に参加したりしました。

 留学先については、英語圏であるアメリカやイギリスを第一に考えていたのですが、ベルギーでも英語で授業を受けることができることを知りました。前年ベルギーに九大から行かれた先輩の話を聞くうちに、ベルギーに行ってみたいなという気持ちが強くなりました。

Q2 ベルギー留学での体験を教えてください


@到着してから住居へ
 出発前に、以前JTW生として九大に来ていたベルギー人学生を通じて、現地の友人を紹介してもらっていたので、その何人かが駅に迎えに来てくれました。寮に入るまでの最初の五日間ほどは、その学生の家にお世話になりました。はじめからベルギーの素朴な温かさに触れてすごく安心したのを覚えています。


A勉強やクラスのこと
 「二十一世紀プログラム」では、障害、身体、福祉、生命、哲学、感性をキーワードに授業を履修していましたが、卒業研究としてどう自分のテーマを設定すべきか迷っていました。そんななか、留学先のベルギーで素晴らしい授業に出会うことができました。

 それはDevlieger教授による「Culture and Disability」、哲学部で行われたGastmans教授による「Ethics of Care」、神学部のBroesterhuizen教授による「PastoralMinistry with the Deaf and the Partially Hearing」です。

 Broesterhuizen教授の授業では、キリスト教が歴史的にどのように障害を見なし、障害者をどのように扱ってきたかを通して、「outgoinglove to others」という精神を学びました。宗教学など一度もとったことがなかった私は、きわめて初歩的な概念さえも理解するのに時間がかかりましたが、クラスメートであった神父さんやシスターの献身的な支援で授業内容のコアを理解することができ、彼らの優しさが正にキリスト教の精神の現れだと実感しました。

 これらの三つの授業で学んだことを、「障害者と医療専門職者の自律尊重原理に関するバイオエシックス研究」という卒業研究に結びつけることができました。毎講義後の質問、オフィスアワーに先生の部屋に押しかけてのディスカッションは忘れがたい経験です。日本に帰ってきてからもメールや郵送で貴重な資料を送ってくれるなど、私を最後までサポートしてくれた先生方と友達には深く感謝しています。


友人達の支え 芽生えた世界市民意識


B友人、課外活動のこと
 友人たちとのことは語りつくせません。留学を経験した多くの方が口をそろえて言われるように、私も「友人という人生の財産」をこの留学で得ることができました。課外活動としても多くのことに挑戦しましたが、私の留学生活の中心になっていたことの一つが、演劇部での活動です。

 ベルギー人と留学生からなるこの演劇部で、各個人のバックグラウンドが違うなか、それ以上に個人個人で違う「表現」や「感性」を、何十回というミーティングを重ねて認識し、互いが吸収できるものに集約するプロセスは時間と体力を必要としました。特に私の場合は演劇経験もなく、抽象的な言葉を駆使する英語のレベルが足りてなかったので度々落ち込みました。しかし、私の身体表現や雰囲気を面白いと思いそれを生かす役作りを辛抱強く手伝ってくれた仲間、舞台では「みんなに分かる英語を!」と言って発音の指導を何十回と行ってくれた仲間、小物の手配や衣装作りを手伝ってくれた仲間、仲間、仲間。仲間の力で私は自分の抱えていた多くの問題を克服できました。自分の気持ちを伝える努力をすること。出来ないことを素直に認めてその解決策を考えること。そして仲間を大事に思い、信頼するからこそ助けを求めたり、反対に自己管理を徹底すること。お互いの違いを前提にして、そこから一つの芸術作品を作り上げたという達成感は、私の中でも自分で誇れるものの一つです


C困ったこと、心がけておくべきこと
 困ったことには、その場その場で対処していくしかないと思います。問題が起きても、まずは冷静になって、解決のためにどうすべきか自分で判断できない時は、信頼できる友人や先生方にアドバイスを求めることでほとんどの問題は解決すると思います。

 自分が心地よくない状態の時に、特に心がけておいてほしいことは、そのような時だからこそ、「〜すべき」という考え方にこだわらないことです。物事が自分の予想や期待した通りに行かない時に、自分の勝手な思い込みで「〜すべき」や「〜であるべき」と頑なになることが一番避けるべきことだと思います。

ベルギー、レバノン、スペイン、チェコ、カナダ人など演劇部の 仲間たちと


D来て良かったと思った瞬間(帰ってきてからも)
 来て良かった!行ってよかった!と思う瞬間は、悩んだ分、落ち込んだ分、それに比例して多かったと思います。

 このような素晴らしい体験がもたらした一つの変化、それは私の中に世界市民の一員としての自覚が強く芽生えたこと、友人たちが直面している世界の様々な問題を、自分の問題として考えることができるようになったことです。少し大局的な観点から見れば、地球という一つの世界に住む私たちの問題は、そのほとんどが何かしら因果関係をもっていることが分かるでしょう。

自分で自分の人生の舵を執る

Q3 後輩にアドバイスを
 留学期間中は、種まきの期間だと思います。留学で多くの友人や先生方が私に授けてくださったアドバイスを自分でも再確認する意味で、三つだけ紹介させて頂きたいと思います。

 一つ目は、「Experience is Everything」です。人生の中で、経験して無駄なことは一つもないということです。経験すべきこと、そこから何か学ぶことがあるから、その体験は私たちのもとにやってくるのです。そして、実際に経験して分かることは、行動することなしに想像だけしたことよりも、はるかに実用的で深いということです。

 二つ目は「You are looking at the face of person who are responsible for your happiness.(自分を頼れる人間になる)」。悩んでいた時、親友の一人が私と一緒に鏡の前に立ち、私の肩を後ろからしっかりつかみながら言ってくれた言葉です。鏡の前に自分が立っているなら、鏡に映っているのも自分。自分の人生の岐路に立っているのが自分なら、これからの人生の選択をするのも自分しかいない。自分の力で幸せになる。ということです。「自分は自分でいい。」と覚悟を決めることが重要でした。自分で自分の人生の舵を執るすがすがしさを私は初めて経験しました。

 三つ目は、「風に揺れるのも悪くはない」ということです。留学期間中に、人や本、風景との出会いで、大いに自分の軸を揺らしてほしいと思います。揺れて、揺れて、揺れているうちに、根拠のない過剰な自信や傲慢さが解け、進んで心地よい方向が自ずと見えてくると思います。しなやかなもの程強いので、その揺れを楽しんでもらいたいと思います。

 最後にもう一つ言いたいことは、もし、皆さんが「留学したいな。でも…」と言い訳を探しているなら、留学に踏み切ってもらいたいということです。自分が留学したいと思ったら、自分のために留学すればいいのです。決断に正解はないと思います。ただ、自分が選んだ選択がベストなものになるように、努力し続けるだけです。そしてそれを続けているうちに、何かがつかめるのだと思います。

 何かを夢見る心ほど、純粋で強いものは無いと思います。夢を見る能力がある人には、それを叶える力もある筈です。羽ばたける空は広いですよ!世界は広くて楽しいですよ!


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