「特集」線から面へ─産学官連携の新しい展開

2 大学が仲介する日中の企業間連携

 江沢民前国家主席の母校である上海 交通大学と九州大学とが連携して、上 海周辺地域の製造業と九州地域の製造 業との技術・ビジネス連携を仲介し、 中国ビジネスの強化と九州製造業の活 性化を目指すというユニークなプロジ ェクトが進んでいます。三月六日に開 かれた「連携協議会準備会」では、中 国側の上海交通大学の丁文紅副学長、 曹兆敏科学技術部副部長、電子チュー ナー部品製作会社の社長が出席し、九 州の産学官の主要組織関係者に向かっ て、このプロジェクトへの期待を熱く 語りました。
 九州大学におけるキーパーソンの一 人である谷川教授の報告です

九州大学と上海交通大学との国際産学連携プロジェクトについて
先端科学技術共同研究センター 教授 谷川 徹

大学が仲介し両得の関係を目指す

 このたび九州大学は、中国屈指の理 工系名門大学上海交通大学と日中の産 業間技術連携を進めるため、共同プロ ジェクトに着手することになりまし た。これは九州に立地する中堅・中小 製造業の持つ基礎技術を上海地域の中 国企業に移転し、上海地域の製造業の 技術水準向上を目指すと同時に、日本 国内では利用が減少している基礎技術 の有効利用や、海外展開に活路を目指 す日本の中堅・中小企業の後押しをし ようというものです。
 両校の役割は、広範なネットワーク と豊富な人材、技術の蓄積等を背景と して、日中企業間の連携仲介の労をと ると同時に、技術の現地化支援等を行 うものです。当面の移転対象技術分野 としては、最近上海地域で急速に増加 している中国自動車部品企業で必要と される、機械金属加工技術等が考えら れています。
 なおこのプロジェクトは、九州大学 の産学連携担当セクションが中心とな って組織中の、「九州/上海国際産学 連携協議会」(仮称。福岡県や九州経 済産業局ほか、九州の産学官の主要組 織によって平成十五年度初めに結成予 定)の応援を得る予定で、地域ぐるみ のプロジェクトを目指しています。
 将来は、機械金属加工といった伝統 的な産業分野の連携だけでなく、IT 産業等、より広範な分野に連携範囲を 拡大してゆくことが期待されていま す。また九州大学保有技術の中国移転 への発展も視野に入れています。さら には日本(九州)から中国(上海)に 向けた技術移転という一方的な流れだ けでなく、九州大学と上海交通大学の 間に出来た太いパイプを利用して、中 国の優れた人材との交流拡大や中国成 長企業の日本進出を支援するなど、こ のプロジェクトをきっかけとして世界 で最も注目され高成長を続ける中国上 海地域と九州間の地域連携を深めるこ とも目指しています。技術のブーメラ ン現象や地域経済の空洞化という懸念 を乗り越え、両地域にとってウィンウ ィン(両得)の関係を目指すものです

これからの九州大学に求められるもの

 このような試みにより九州大学は、 自らの持つ様々な特色と強みを活かし て地域や社会に貢献することを目指し ていますが、同時に大学としての新し いビジネスの可能性も模索しようとし ています。社会や地域に対して大学は、 自ら保有する研究成果の産業界移転等 による貢献だけでなく、中立性、社会 的信頼の高さ、広範なネットワーク、 様々な問題解決能力、等を総合的に生 かした貢献も可能なはずです。今回の プロジェクトは、九州大学の持つその ような総合的な力を背景とした地域貢 献プロジェクトと位置付けてよいでし ょう。
 「象牙の塔」という言葉が象徴的な ように、社会や地域とは縁遠い存在と いうイメージの強かった日本の大学 は、今大きく変わろうとしています。 高度な研究教育実績と人材を有する日 本の大学は、その研究や教育の成果を 社会や地域に対して積極的に移転・開 放し、また社会や地域のニーズを意識 した存在になることが強く求められて います。産学連携は大学のそういった 社会貢献、地域貢献に向けた行動の大 きな柱といえます。国の厚い庇護の下 にあった国立大学も、来年の春から独 立した法人として自主的かつ自律的な 経営をおこなうことが求められるよう になります。海外の大学の日本進出も 積極化し、日本の大学は社会や地域に 対する貢献の一層の明確化と、自らの 特色を活かした経営力の強化が求めら れる時代になったといえましょう。
 九州大学は約百年の伝統を持ち、旧 七帝国大学の一角を占める日本有数の 国立総合大学ですが、このような新し い環境下、時代の要請に応えるべく自 らの置かれた状況を的確に認識し、明 確なビジョンと戦略を打ち出す必要が あります。アジアに近接し地理的にも 歴史的にも関係の深い九州福岡に立地 する九州大学にとって、今回の試みは そのような環境下において大変適切か つ重要なプロジェクトといえます。
 今回プロジェクトの上海交通大学側 の責任者丁副学長によれば、「幾つか の日本の大学が同大学との国際産学連 携を持ちかけたにも拘わらず九州大学 を連携の相手に選んだのは、@九州が 上海に大変近いこと(飛行機で一時間 半)A九州には自動車産業や半導体産 業など世界最高の技術力を誇る日本の 製造業の多くが立地していることB九 州大学が九州製造業ネットワークの中 心になってくれると信じたことが理 由」とのことです。九州に住む我々が 感じる以上に、アジアの人たち中国の 人たちが九州、九州大学の強みをよく 認識しています。我々ももっと自信を 持ってよいのではないでしょうか。
 地方の自立が強く求められる現在、 九州の持つ大きな可能性を十分に認識 しつつ、九州大学は今後も様々な新し い産学連携(社会・地域貢献)プロジ ェクトを企画することにしています。 地域にとって無くてはならない尊敬さ れる大学として行動する今後の九州大 学に注目していただきたいものです。

(たにがわ とおる/地域経済政策、ベンチャービジネス・インキュベーション)

九州大学認定「リサーチコア」

 リサーチコアとは、部局や分野の枠を越えて組織された 研究集団です。各研究院(教官が所属する大学院研究組織)、 研究所等がそれぞれ研究の独自性を保ちつつ連携し、総合 大学の特色を活かして、共同研究や、新たな研究領域の創 設も可能とする、九州大学独自の制度です。
 平成15年4月18日現在、44のリサーチコアがあります。九 州大学は、これらを教育研究拠点形成にふさわしいとして 認知し、研究活動、研究費申請、人材の流動化などの対外 活動を支援します。


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