「特集」線から面へ─産学官連携の新しい展開

3 TLOによる技術移転

 薬学研究院の佐々木教授の「2本鎖DNAの或る部分に、3 本鎖DNAを形成し、遺伝子の働きを抑制する」という研究 が、技術移転機関であるTLO「(株)産学連携機構九州」を 通じて、ジーンアクトというベンチャー企業に技術移転さ れ、研究用の試薬開発が進んでいます。
 TLOによって九州大学のシーズが技術移転され、産学官 連携が実現した最近の例をご紹介します。

 薬学研究院創薬科学部門の佐々木茂 貴(ささき しげき)教授の研究は、 「2本鎖DNAの或る部分に、クロス リンク剤によって3本鎖DNAを形成 し、遺伝子の働きを抑制する」という もので、文部科学省の科学研究費基盤 研究、および科学技術振興財団の戦略 基礎研究の分担課題としても行われて きた研究です。
 ヌクレオチドを十五│三十個含んだ 短い核酸断片であるオリゴ核酸は、対 応する配列の遺伝子と特異的に複合体 を形成することができます。このよう な複合体形成は、遺伝子配列を特異的 に認識するための基本的な手段とな り、診断および治療の分野で様々な実 用研究に利用されています。佐々木教 授らの研究グループはオリゴ核酸に反 応性分子を組み込むことによって、 様々な高度のバイオ機能を創り出そう としています。クロスリンク剤を組み 込んだオリゴ核酸は優れた遺伝子発現 阻害効果を発揮できると期待されてい るものです。また、最近では、2本鎖 DNAとの反応点において、配列特異 的に点変異を誘起できることも明らか にされています。佐々木教授らはこの ような技術を遺伝子の働きを抑制、改 変あるいは修復するための新しい遺伝 子操作技術としての実用化を目指し て、デリバリー専門家との共同研究を 展開しています。
 この研究が、TLO「(株)産学連 携機構九州」を通じて、ジーンアクト というベンチャー企業に技術移転さ れ、研究用の試薬開発を目指すことに なりました。ジーンアクトは一九九九 年に設立されたバイオ系ベンチャー企 業で、福岡県バイオバレー構想の中核 施設である久留米リサーチパークに入 居しています。ジーンアクトは「遺伝 子ビジネスに素材と技術を提供」をキ ャッチフレーズに核酸関連試薬の研究 開発を精力的に進め、現在、遺伝子増 幅に用いるヌクレオチド、DNAを標 識するための標識試薬など遺伝子ビジ ネスの基幹部分を成す試薬を製造販売 しています。佐々木教授の研究成果 「クロスリンク剤」は機能性核酸であ り、ジーンアクトの目指す機能性DN Aの開発とコンセプトが一致したこと から、今回の技術移転となりました。 次期主力商品として「クロスリ ンク剤」開発を、佐々木教授(学)、 経済産業省(官)の支援を受けな がら、産学官で連携し強力に推 進しています。
 福岡県は、県南の中核都市で ある久留米市を中心とするバイ オクラスターの形成を目指して、 「福岡バイオバレー構想」を推進 し て い ま す 。佐々木教授の研 究成果の技術移転先であるジー ンアクトは、この構想に参画し て、福岡県と連携した事業展開 を図っている会社です。
 またこの研究は、九州経済産業局の 「中小企業地域新生コンソーシアム」 事業の委託を受けており、文字どおり 産学官が連携して、新しいバイオテク ノロジーを生みだし、病気治療への応 用など、将来的に大きな波及効果が期 待されることとなりました。

(文責:薬学研究院 佐々木茂貴教授)

4 九州大学・九州芸術工科大学
  産学官連携セミナー
「夢・創造博覧会2003」開催
産学連携推進機構 技術移転推進室 助教授 古川 勝彦

 今年10月の統合を控え、九州大学と九州芸術工科大学 による初めての協同イベント「産学官連携セミナー 夢・創造博覧祭2003」が、3月7−9日の3日間、福岡市・ 天神イムズで開催されました。本イベントは、統合後の 九州大学が日本を含めたアジア地域に対してどのような 社会貢献ができるかをテーマに、基調講演・シンポジウ ム(イムズホール)および展示(イムズプラザ)において 行われました。初日は、アサヒビール(株)会長の福地 茂雄氏により「『明日の日本』への課題 〜企業経営の 立場から〜」という題目で基調講演を頂 き、引き続き都市・大学シンポジウムが 「東アジア地域における実効的な国際社会 連携体制構築」をテーマに行われました。

 2日目は、本学医学研究院の飯田三雄教授により「生活 習慣病の過去・現在・未来 〜久山町研究から〜」に関 してのキーノートスピーチの後、「治す医療から予防す る医療・科学へ」をテーマに医療シンポジウムが行われ ました。最終目は、(株)カフェグローブ・ドット・コム 代表取締役の矢野貴久子氏により「ネットが変えるこれ からのライフスタイル」に関してのキーノートスピーチ の後、「技術および感性の高度化がもたらす豊かな生活」 をテーマに生活シンポジウムが行われました。3つのシ ンポジウムの共通したまとめとして、これから生き残る のはオーダーメイドであること。つまり、独り善がりで はなく、様々な人・機関と上手くコミュニケーションを とり、相手との関係性を頭にいれながら、教育、研究を 進めることが、大学にとって決定的に重要となるという 結論に至りました。

 展示は、大学や企業の技術が描き出す「未来」を博覧 会形式で紹介しました。その中では、映像や音声もふん だんに取り入れ、統合後の九州大学の存在価値や研究内 容、社会貢献成果をアピールしました。展示は「都市・ 大学」「医療」「生活」の三つのブロックに分かれ「都 市・大学」分野では本学新キャンパスの模型、福岡市営 地下鉄3号線の予想図、そして韓国・釜山と福岡を結ぶ 海底トンネルを走る列車「マリーンエクスプレス」の模 型を展示しました。「医療」分野では、福岡県久山町で の疫学調査研究、遠隔操作低侵襲手術ロボット「ゼウス」 などをパネルで解説しました。「生活」分野では、納豆 樹脂による砂漠化研究をステージで発表しました。また ロボットの実物操作、味覚センサーによる九州各地の 水・塩の測定&試飲会も行いました。3日間とも盛況で、 一般市民の方が大学の研究成果展示を興味深く見学され ている姿も見受けられました。

 九州大学は今回のイベントを手始めとして、社会との 積極的なコミュニケーションをもとに、それらを充分に 活かして「教育」、「研究」を進めてまいります。今後と も学内外の皆様のご支援・ご鞭撻を頂きますようお願い いたします。
(ふるかわかつひこ/産学連携、物理化学)


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