クローズアップ
学生による新しい受験生向け情報サービスシステム
クエスチョンキャッチャー

21世紀プログラム3年 丸尾圭祐(まるおけいすけ)、川崎章恵(かわさきあきえ)

―入学する前に実際の大学生活を 知ることは難しい―
 私たちが、このプロジェクトをはじめ ることになったきっかけです。現在、大 学に関する情報を高校生が知るルートは 限られています。大学が発行するパンフ レット、予備校からの情報、高校の教師 からの情報……。大学に関して公式に得 られる情報は、ほとんどこれらのルート で供給されています。しかし、キャンパ スの雰囲気、生活上の不便、サークルや バイトのことなど、大学生活のナマの情 報は、実際に体験している学生にしか語 ることができません。「クエスチョンキ ャッチャー」は、それらの情報を学生の 手によって大学の外へ提供することを目 指したプロジェクトです。今回は、この プロジェクトがどのようなきっかけで生 まれ、発展し、これからどのような展開 を目指すのかを説明します。

面談型オープンキャンパス
 このプロジェクトメンバーのうち、学 部生は全員二十一世紀プログラム課程の 学生です。二十一世紀プログラムは、二 〇〇一年度から始まった教育課程です。 そのため一期生が受験の際にこの課程の 情報を得る手段は、募集要項に限られて いました。この入学前の情報不足により、 私たちは入学後、カリキュラムの理解不 足や履修上の問題などの壁にぶつかるこ ととなりました。私たちは、その原因で ある入学前の情報不足を解 消するために、学生企画によ る二十一世紀プログラムのオープンキャ ンパス(以下OC)を行いました。
 この企画の特徴は、大勢の参加者に対 して一方的に説明するのではなく、学生 が直接高校生と対話する「面談型」で実 施したところです。実際に学生生活を送 っている大学生は、大学生活の様子、カ リキュラム、学生が感じる問題点などの ナマの情報を持っています。その大学生 に直接質問し、納得のいくまで話をする ことによって、大学に対するより明確な ヴィジョンを高校生が持てるのではない かと考えての採用でした。このOCは、 図1の通り、高校生から非常に高い評価 を受けました。この評価は、面談型OC が情報入手の方法として非常に有効であ ることを示しています。
 しかし、面談型OCはメリットが大き いものの、解決しがたい問題があります。 それは学生の時間に余裕がある夏休みの 間、しかも大学内でしか行えないという ことです。そこで、この問題を克服する ために生まれたのが「クエスチョンキャ ッチャー」です。

クエスチョンキャッチャー
 クエスチョンキャッチャーは、面談型 OCをインターネット上に再現したもの です。サイトの閲覧者は、あらかじめ用 意されたカテゴリ別Q&Aをみて、そこ に知りたい情報がない場合、フリーワー ドで質問を書き込むことができます。す ると登録された学生ボランティアに、質 問投稿の通知メールが届きます。学生ボ ランティアはその質問に対する回答を作 成し、カテゴリ分けしてアップロードし ます。そして、質問者には回答通知が届 くと同時に、当該の質問と回答はデータ ベースに登録され、誰でも閲覧すること ができるようになります。このシステム は、九州大学大学院人間環境学府の神辺 圭一さんの全面的な協力のもとに実現し ました。二〇〇二年二月の運用開始以来、 五名の回答ボランティアを中心に運営し ており、数度のバージョンアップを経て 今に至っています。
 場所と時間を選ばないインターネットを 利用することで、面談型OCの問題点 を解消し、過去にされた質問の閲覧機能 を追加した、リアルな大学情報を提供す るこのシステムは、九州大学入学を目指 している人の大学に対するより明確なヴ ィジョンの獲得に貢献できると思います。
 今後の課題としては、まず、プロジェ クトの対象を全学部に拡大するために、 回答する学生ボランティアを確保するこ とがあります。また、現在サーバーを暫 定的に設置していますが、このシステム を継続的に運用するためにも、安定した 環境を構築する必要があります。将来的 には、キャンパス移転も視野に入れ、学 生が収入を得る手段につながる可能性も 模索したいと考えています。
 学外への情報公開という面から見れ ば、学生はとても大きなインパクトを持 つ人的資源といえます。このシステムは、 その大きな人的資源の活用という意味に おいても非常に有意義であるといえると 思います。

人間環境学府博士後期課程1年 神辺圭一(しんべ けいいち) さんによる、システム側から見たデータベースの相互関係と各モードの利用の流れ。

◎寸評
大学の「情」を伝える
 ある教育関連企業が全国の大学生を 対象に実施した調査によれば、学生の 大学に対する満足度は、彼らが入学前 に持っていた予想や期待と、入学後に 体験した現実とのギャップの大きさに 依存するそうです。
 最近の受験生は、以前に比べると、 入試はもちろん入学後の教育カリキュ ラムなどの制度的な事項は実によく調 べてくるという印象があります。しか し一方、大学生たちが日々現実に何を 楽しみ、何に悩み苦労しているかとい った、生々しくリアルなことがらにつ いてはよく知りません。満足度を下げ る予想と現実とのギャップというのも、 おおかたその辺りに起因するのではな いかと思っています。
 情報という語を「情」と「報」とに 分けた場合、「報」は、報告や官報など の用語から類推されるように、比較的 信頼度の高い情報を指すことが多いよ うです。大学なら、入学者選抜方法や シラバス(授業計画)などがこれに相 当します。一方、敵情、情勢などの語 から考えると、「情」というのはより主 観的な判断や個別の事項、捉えどころ のない雰囲気などまで含む概念らしく、 リアルな学生生活がこちらに属するの は明白です。
 「報」はともかく「情」の伝達方法 について私なりに考察してきたところ では、やはり教職員では手に負えぬ、 現役大学生にしかず、という印象です。 クエスチョンキャッチャーは、そうし た要求に応える優れた装置だといえる でしょう。
 このような「インフォーマル(非公 式)情報発信装置」に対する大学側の 態度は微妙だと思います。しかし、あ る程度の意義が認められる限り、こう したものに一定のフォーマル(公式) な支援ができる余裕が大学にあっても 良いのでは、と個人的には考えます。
渡辺哲司(アドミッションセンター講師)

訊きたかったことについて、どの程度訊けたか? 面談前と後で、受験可能性はどの程度変化したか?
(面談前と後の受験可能性をそれぞれパーセンテージで回答してもらった。)

クエスチョンキャッチャーのURL
http://qsearch.rc.kyushu-u.ac.jp/


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