学内の新キャンパス計画作業関係者,MCM のメンバーらと行った意見交換会における シーザー・ペリ氏及びフレッド・クラーク氏の発言概要は以下のとおりです。

ペリ氏:

既に昨年のプロポーザルでの提案準備段階からこの敷地条件については検討してきましたし, これまでの期間にテレビ会議システムなどを利用して日本のスタッフとも協議を重ねてきました。 今回,現地を視察し,美しい地形であり, 自然の造形を大切にしていくべきであるとの考えを改めて持ちました。 例えば,西側キャンパス中央部のアカデミック・エリアとして平坦化された土地を挟み込む 南北の小高い丘(古墳群など)は,うまく保存し,景観要素として活用するべきでしょう。

クラーク氏:

アカデミック・エリアの南北が丘に囲まれていることは非常に特徴的な地形条件で, それを保存し活用することは,なんともハンサムなアイデアですね。 ランドスケープに関しては,新たに植林する場合の注意点として, 時間を計算に入れる必要があります。 最終的に建物が建った時に,それとバランスするようにある程度育った木がある方がよいですね。

ペリ氏:

そのために,中心となる軸線の周辺には早く植栽し,建物の建設時期に調和させる必要があります。 ランドスケープと建築デザインに一体感を持たせなければいけないですね。 今後は,各ゾーンの部分詳細を,もっと細かいスケールの模型を作成して検討していきたですね。

MCM:

今後の作業でも3次元的データを活用して,空間イメージを形成していきたい。


ペリ氏:

土地造成では,人工的な盛り土や切り土の形状は避けるべきですね。 もっと自然地形にならった曲線的な造成をするべきでしょう。 直線的に垂直にカットされた斜面は,周辺環境に比して極めて人工的な印象を与えてしまい 周辺との連続性が失われることになります。それは避けたいですね。 従来の考え方で建築や道路を作りやすくするために 直線的に土地をカットする必要は必ずしもないのではないでしょうか。 曲線的に自然の土地造形を行い,それに建築や人工物の方を調和させるデザインとするべきでしょう。

九大:

特に第1 工区については,造成工事のスケジュールにも配慮する必要があるが, 造成はこのキャンパス・デザインの重要なファクターであり, できるかぎり調整していきたいと考えています。

ペリ氏:

最初に建設するゾーンのデザインと個性が極めて重要です。 それが,このキャンパスのデザインの性格や方向性を示唆することになります。 第1期目のゾーンのデザインは慎重に行わなければならないですね。

九大:

東西に長い敷地(約1.5km)をできるだけ歩行者の移動しやすい空間とし, 視覚的心理的にも距離感を短くするためのデザイン的な配慮が必要と考えています。

クラーク氏:

そのためには,東西に長い空間が一直線となる直線的にデザインするのではなく, 適度なまとまりごとに分節させ,変化させる必要があります。 また,ランドスケープと調和した建築デザインが重要ですね。 特に,建築物のボリューム規模,高さ,素材,色などの 細部に至るまでのデザイン・コントロールへの配慮が重要です。

ペリ氏:

学園通り線には,東西に橋をかけて,両側を繋ぐ必要がありますね。 その場合,視覚的にも東西の敷地の連続性を作り出す必要があり, そのために注意深いランドスケープデザインが求められます。

九大:

配置する建築物の高さについてはどのように考えられますか。

ペリ氏:

全体が自然豊かな丘や谷などの環境に囲まれていますから,建築物のデザインは, 優しいもの(gentle)で色や材質に配慮する必要があります。 建築物の高さは極めて重要です。 西側キャンパスでは,保存する南北の丘の高さを意識して建築物の高さをデザインするべきです。 30か40メートル程度の高さのやや高いビルを1,2棟程度にして, あとは低層で構成するデザイン案が現時点では理想的に思えます。 当然,要求される床面積をカバーする必要もあるので,一概には言えませんが。 問題は,高いビルをどこに配置するのが効果的かを検討することが重要ですね。 実験室など窓の必要でない空間は,地下に建設する可能性も検討していただきたいものです。 その方が外部からの振動の影響にも強いですしね。

九大:

既成市街地から遠いため,キャンパスの中心部及び周辺に商業施設等を含む タウン・オン・キャンパスを作ろうと構想していますが,この点についてどう考えますか。 また,中央ゲートからアカデミック地区に上がって行くアプローチの方法について, どのように考えますか。

ペリ氏:

アプローチ道路(学園通り線)周辺に計画することでよいのではないでしょうか。 アメリカの大学では,キャンパスは商業施設と共存していますし, カフェや商業施設はキャンパス生活の重要な施設です。 アプローチの方法に関しては,むしろ,私の方から質問をさせていただきたいですね。 日本の伝統的な大学空間としてどのようなアプローチ空間の様式が考えられるのでしょうか。 あるいは,日本の伝統的な都市空間としてどのようなアプローチの様式が考えられるでしょうか。 アメリカの大学では直線的なコリドール状のアプローチを シンボリックにデザインする伝統的な手法がありますが,自然の中に直線的なラインがあるのは, 日本人にはどんな感じを持たれるでしょうか。よい感じを持たれないのかもしれませんね。 これは,日本のデザインのフィロソフィーに関わる問題です。

ペリ氏:

この敷地条件は,既存の概念や考え方で計画したのではうまくないでしょう。 極めて困難な条件の敷地でありますが,発想を転換すれば,すばらしいキャンパスになるでしょう。 私にとっても,今回の計画に関わることができるのは,非常に挑戦しがいのある機会です。

〈文責〉 出口 敦(でぐち あつし) 大学院人間環境学研究院助教授

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