本年度から法・薬・農3 学部で始まったAO 選抜では,伝統的な筆記中心の入試では評価されない優れた資質を有する人の選抜を目指します。そうした狙いと実際の選抜結果との関係を調べるため,3学部の新入学生589 名を対象に質問紙調査を行い,74.6 %から回答を得ました。予め用意した選択肢の中から複数を選ぶ形式を採り,一般選抜前期・後期およびAOの3群間で各選択肢の選択率を比較しました。選抜方法の性格は,完全に筆記のみの一般前期群,それと同等以上に面接やエッセイ,調査書等に重点を置くAO 群,両者の中間の一般後期群と解釈できます。
AO 群の特徴を拾って行くと,まず九大を選んだ理由として,AO 群では九大にとって誇らしい項目が多く選択されました。「九大には伝統がある」,「優秀な教授がいる」,「すぐれた学生が集まってくる」の選択率はAO群で高率であり,群間差は統計的に有意でした(図1 )。高校時代に重点を置いて取り組んだ事でも,AO 群では挙がる項目が多く(選択率25%以上の項目数は前・後期群が3−7 ,AO 群が7 −9 ),「興味の学科を自分でやる」,「視野を広げる勉強」,「文化クラブ活動」等はAO 群で有意に高率でした。
今後1 ,2 年間に積極的に取り組む事でも,AO 群では挙がる項目が多く(選択率50 %以上の項目数は前・後期群が3−6 ,AO 群が6 −7 ),「大学の教養教育の講義や演習など」,「図書館や施設の利用」等ではAO 群の選択率が有意に高率でした。学内外の非営利的社会活動への参加意欲も,AO群で高い傾向がありました。
AO 群の顕著な特徴は,当面の学問上のテーマを決めているかという点に現れました。図2A が示す通り,AO 群では具体的テーマが「ある」という回答が過半数で,一般群とは反対です。統計的にも有意差がありました。大学院進学の意思や理由には,法学部と理系2学部との間に大差があって同列には語れませんが,理系2 学部の進学希望者には,具体的な研究テーマが既に「ある」という答えがAO 群に多くありました(図2B)。
次に,全員に卒業・修了後に想定している職業を尋ねたところ,AO 群では「ある」という回答が多く,統計的な有意差もありました(図2C)。
AO 群の特徴は,入学の前後とも多くの事に挑み学ぶ意欲を持つ,入学から大学院,就職へと,自分なりの明確なイメージに向かって邁進する意識が強い,ということのようです。この結果は,AO選抜の理念に一応は適合しているようですが,今後は,このような卓越性が将来も維持・発展して行くのかどうかに関心が集まります。必要な調査に対し,関係各方面のご協力をお願いします。
(たけや しゅんいち, わたなべ てつじ)※この記事の詳細な内容は,「大学入試研究ジャーナル第11 号」に掲載予定です。
●九大には伝統があるから
●優秀な教授がいるから
●優れた学生が集まるから
(図1 ) 九州大学志望の理由(AO 群で高率の選択項目)
A ●当面の具体的な学問上のテーマは?
B ●大学院での具体的な研究テーマは?
C ●将来の具体的な職業・職種は?
(図2 ) 学問・研究テーマ、将来の職業について
AO選抜
従来の学力だけを見る筆記試験とは異なり、感性や意思などの側面と、知識や技能などの能力を総合的に評価することに主観を置いた選抜。各学部の特色に応じた詳細、綿密な面接などを行い、表面的な学力のみを見るのではなく、学部が求める学生像に照らした人物評価も重視した選抜方式で、九州大学は法・薬・農の3学部で平成12年度から導入した。さらに、平成13年度からは歯学部と「21世紀プログラム」 で新たに導入されることが決まっている。