〈期待と提言と〉 第1 回運営諮問会議開催


会議の冒頭挨拶する杉岡総長

九州大学は、第1回運営諮問会議を9月13日(水)に開催しました。九州大学運営諮問会議は、国立学校設置法の規定に基づき設けられているもので、次の事項について、総長の諮問に応じて審議し、及び総長に対して助言股は韓国を行なうことを任務としています。
(1)教育研究上の目的達成のための基本的な計画に関する重要事項
(2)教育研究活動などの状況について本学が行なう評価に関する重要事項
(3)その他本学の運営に関する重要事項

九州大学運営諮問会議の委員に選任されているのは次の方々です。
麻 生 渡(あそう わたる 福岡県知事)
大 野 茂(おおの しげる 九州・山口経済連合会会長)
倉 地 幸 徳(くらち こうとく ミシガン大学教授)◎
玉 川 孝 道(たまがわ たかみち 西日本新聞社編集局長)◎
西 澤 潤 一(にしざわ じゅんいち 岩手県立大学学長)
早 川 信 夫(はやかわ のぶお 日本放送協会解説委員)
廣 田 榮 治(ひろた えいぢ 総合研究大学院大学長)◎
藤 原 房 子(ふじわら ふさこ 日本女子社会教育会理事長)◎
森 亘(もり わたる 日本医学会会長)◎
山 崎 広太郎(やまさき ひろたろう 福岡市長)
渡 邉 定 夫(わたなべ さだお 工学院大学教授)◎
(五十音順 ◎は今回出席者)


■開催日時 平成12 年9 月13 日(水)

午後1 時30 分開会
午後4 時35 分閉会
■開催場所 九州大学事務局第一会議室


列席者
杉 岡 洋 一(すぎおか よういち 九州大学総長)
矢 田 俊 文(やだ としふみ 九州大学副学長)
柴 田 洋三郎(しばた ようさぶろう 九州大学副学長)
渡 辺 弥(わたなべ わたる 九州大学事務局長)
奥野経理部長ほか事務局職員


議事

森委員長の司会で,会議は進められた。
杉岡総長の挨拶の後,議事に先立ち委員長と副委員長の選出を行い,委員長に森亘日本医学会会長を,副委員長に廣田榮治総合研究大学院大学長を選出しました。引き続き,渡辺事務局長から九州大学の概要,杉岡総長から九州大学の現状の全般,矢田副学長から大学改革と新キャンパス関係,柴田副学長から教育改革関係について資料に基づいて説明があり,その後,次のような質問や意見,提言がありました。
倉地委員
今年,九大から非常におもしろい論文が幾つも「サイエンス」や「セル」などの有名雑誌に掲載され,非常にうれしかったのです。ああいう雑誌には,非常にクリエーティブなものでないと載りません。九大は,今までもいい論文が出てきているわけですけど,上昇気流に乗りつつあるなという感じがしています。
渡邉委員
九州大学のHST 構想,都心型研究・教育拠点の説明をお願いします。矢田副学長HST は“Human- ScienceandTechnology Station ”ということで,筑紫キャンパス,病院キャンパスと新キャンパスの共通拠点として,都心に出先機関を置こうというものです。今,西新に学長宿舎或いは外国人教官宿舎というかなり広いスペースがございまして,そこを再開発して,情報拠点としての共通の窓口を作ろうということです。
渡邉委員
要するに,全部が根こそぎ新キャンパスに行くのではなくて,新キャンパスに行きながらもなおかつ都心にも大学の活動拠点があるという考え方ですね。
矢田副学長
そうです。社会人教育や入試情報などの窓口,高校生に対する情報拠点などを,この施設に入れる予定です。

教育・研究面から意見を述べる廣田副委員長。
廣田副委員長
最近の国立大学の問題点の一つは,学部教育がだんだん手薄になっていくということです。特に,業績中心主義の風潮で,研究の方に走ってしまう。そういう流れが非常に強くなっています。日本の国として,学部教育をきちんとやらなければなりません。
藤原委員
地域の空洞化の問題がありまして,今回のキャンパス移転のように人が移動すると,街の様相ががらりと変わってしまいます。大学には社会的責任というものがあると思います。地域貢献と申しましょうか,大学の頭脳をそういったところにも提供して,新しい地域づくりというものを提言していくリーダーシップを取っていただきたい。
奥野経理部長
六本松地区では国,県,市,本学などと町の方も入ってまちづくり構想委員会ができて答申案が出ています。箱崎地区につきましては,まだ移転の時期が先ですので,その時期に合わせて大蔵省の方も入っていただいて委員会を作る方向で検討を進めております。
矢田副学長
箱崎地区については,学生と先生たちが地域住民と一緒になったボランティア組織が相当活躍しておりまして,色々な意見が上がってきています。
杉岡総長
C&C (チャレンジ・アンド・クリエイション)という学生によるプロジェクトにも,箱崎地区周辺の活性化プロジェクトがございまして,色々地域の方と考えているようです。
玉川委員
偏差値の動きを見ていますと,都市型の大学への応募者が多くなっています。都市にあることが大学の魅力にもなっているわけです。学生は,都会生活を楽しむと同時に,例えばアルバイト先が多い少ないというようなことに非常に敏感に反応します。新キャンパスで,その辺をどうお考えでしょうか。

倉地委員「今回の移転は大きなチャンスです」。
倉地委員
アメリカでは,研究室でよく学部学生にアルバイトとして研究の手伝いをさせます。それで研究の経験を積んでいく。これは,日本の大学でも取り入れてほしい非常にいいシステムだと思います。それから,日本の大学は象牙の塔と申しますか,フェンスで囲まれていますね。門もある時刻になると閉まってしまう。私が勤務しているミシガン大学のあるアナーバーは,恐らくアメリカの一番いい大学町だと思います。地域の人が大学に深い愛着を持っていますし,大学と地域が本当に一体になっています。高校生が大学1 年生の講義を取れて,ミシガン大学に入ってきたときにはそれが単位として認められる。こういう非常におもしろい柔軟なことも可能です。私は,今回のキャンパス移転は,九大にとって大きな飛躍のチャンスだと思っています。今までの日本の大学とイメージの違ったものができるチャンスだと思うのです。

ジャーナリストの視点で鋭い指摘を行った玉川委員。
玉川委員
九大がいろんな改革をおやりになっているということを,九州エリアの各大学はかなり気にしています。少子時代になったときに,九州大学が大変競争力を持ってくるに違いないと思っています。九州大学は,九州ブロックの大学院大学としてその中核的存在になるわけですから,ブロック内の他の大学との連携なりネットワークのようなものをお考えになるなど,何かできないかなと思います。ブロックの中核大学としての意識を,もう少しPR されてもいいのではないでしょうか。それから,九大内部の先生方のお話を聞いていますと,改革があまりに大きく進んでいるために,個人個人の先生方の認識と,改革を進めておられる執行部の先生方のお考えとの間に落差があるような気がいたします。内部的な意思結集に,もう少しご努力をお願いしたいと思います。
倉地委員
AO 方式による選抜は非常に大事だと思います。基本的には,高校時代の3 年間通した成績で見る。これは非常に大事な方向の改革です。大学院教育のことを申します。大学院で,とにかく日本とアメリカの違う点は,アメリカでは博士課程は本当にエリート教育をやるということです。授業料,生活費まで支給して,そういう金は準備するから,とにかく研究に集中しなさいと。それと学生に講義を評価させます。私も毎年それをやられるわけですが,評価されないと非常に寂しい。要するに評価というのは,次に何か改善を要する部分がある場合の資料になるということなんです。また,日本人の大学院生のプレゼンテーションの技術は,かなり見劣りがすると思います。アメリカでは年に1 回か2 回,学生が自分でセミナーをやらなければいけません。それは必須科目になっており,そこでプレゼンテーションも徹底的に行う。そしてそこには必ず教官が何人か出て,きちんと批評します。もう一つ。私も日本のあちこちの大学でセミナーや講演をするのですが,これまで大学院の学生たちと一緒に食事をしながら話すような機会は一度もありませんでした。アメリカでは大学院の学生が,外国から来た,あるいは国内のどこかから来た人たちと一緒に食事をしていろんなことを話す。そこにはその人を呼んだ先生は来ないのです。そういう機会が日本ではない。なぜそういう機会をみすみす逃がすんだと私は不思議に思います。聞きますと,その理由の一つにファンドが無いことがある。そのようなことができる程度のものを,総長先生の裁量経費から出していただければ,学生は非常にいい勉強になると思います。
最後に,日本で教育を受けた留学生がアメリカに来た場合,基礎的な教育が全然できていないことがあります。日本が非常に多くのお金を使って留学生を受け入れながら,その学生が本国に帰ったときに大した実力が付いていないのでは,それは誰のためにもなりません。少なくとも九大では,もう少し厳しく留学生を選抜して徹底的にトレーニングし,それぞれの国や世界でリーダーになっていけるように育てることが大切だと思います。
廣田副委員長
私は昨年,総合理工学研究科の外部評価委員を務めさせていただきまして,報告書の最後に「日本はアジアからの,特に韓国,中国,台湾からの留学生が多いのは当然だが,もうちょっと広くアジアの中を見回した方がいい」と書いて,ベトナムに結構いい人材がいるということに触れました。そうしたら,総合理工の村岡教授は自らベトナム大使館においでになって学生との接触手段をお尋ねになり,今度ご自身でハノイまで出張されて,向こうの非常にいい学生を二人,来日できるようにアレンジしてこられたと伺いました。一般の先生方もなかなか積極的にやっておられると,非常に印象深く思いました。

「旧帝大の女性参画の比率は極めて低い」と藤原委員。
藤原委員
福岡はアジアに近いわけですからアジアの留学生にもっと力を入れて,九州大学はここに特徴があるというような戦略をお取りになるのはいいと思いました。地域振興については,既に学生さんも入っていろいろなプロジェクトに取り組まれているということで,大変結構だと思います。ぜひそれを推進していただきたいと思います。教養課程の話なのですが,今の学生さんは,自分の目的に直結することは一生懸命やるけれども,裾野を広げるということに対して無関心じゃないかという気がします。やはり裾野が広がらないとトップは高くなりませんので,そういう意味でも,教養課程のあり方を今後どのようになさるのか,それはまた次のときにでも伺えたらと思います。それから,新キャンパスでのアルバイトの問題ですが,私は知的アルバイトがもっとあっていいと思っています。研究室の中で教授のお手伝いをするとか,ファイリングをやるとか,知的なトレーニングができる仕事は,色々大学周辺にはあるのではないかと思います。肉体労働だっていいわけですから,学生が施設のメンテナンスを引き受けるとか,一つのキャンパスの中に需要と供給のシステムを作っていく,そういう方向性も模索されたらいかがかと思います。最後にもう一つだけ申し上げますと,旧帝大の女性参画の比率は極めて低い。これと,外国に留学する九大生の男女比率で女子学生が半分を占めているということとは,どう解釈すべきなのでしょうか。女子が積極的だと見るのか,日本にいても見込みがないと思うから出ていくのか,そこら辺の読み方はデリケートだなと思っています。

「大学の自主権の根幹は―」と渡邉委員。
渡邉委員
教育・研究という範疇で申しますと,「学府・研究院制度」のような体制がより効果的であるために一番必要なのは,大学が自らの意思で組織体制を決めることができるということだろうと思うのですが,これが今はまだ自由にはできないわけです。大学の意思決定で学府が柔軟に設置できるよう,ぜひ規制緩和に向かってご努力願いたいというのが第1 点です。第2 点,私は大学の強さ,教育の強さというのは親父教育型で,落第生をつくるということではないかと思うのですが,いろいろな事情があって今はそれができない。落第が社会的にも受け入れられるように,ぜひご努力願いたい。3 点目は,これは大学のキャンパス移転とも関係しますけれども,十分な大学活動を展開するためには,結局,大学の資源をいかに活用するかということになるわけです。アメリカの州立大学は,19 世紀にできたモディル法で数百ヘクタールの土地を与えられています。それを資源として自由に活用して生計を立てなさいと。要するに,授業料収入と研究などによる収入,病院もありますが,そういった大学の活動の収入に土地経営による収入を加えた三つが,いわば大学の自主権の根幹です。文化財もあれば自然環境もある,自由に展開できる空間もある,そういった土地を大学が持つということを,ぜひ推進していただきたい。アメリカやヨーロッパには大学町というものがありますが,日本で大学町ができない最大の理由は,自ら経営できる土地を持っていなかったことに尽きると私は思っております。
森委員長
どうもありがとうございました。今日は限られた時間でもございましたので,何かお気づきのことがおありでしたら,後日文書で九州大学にお寄せいただければと存じます。
杉岡総長
委員の先生方には,ご多忙のところお集まりいただき,限られた時間で大変参考になりますご提言をいただいたと思っております。できる限りそれを実現するように進めていきたいと思います。どうもありがとうございました。

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