そのB英語教育、IT教育

全学共通教育における情報処理教育等の現状

大学教育研究センター教授 押川元重

「情報処理基礎演習」の必修化とこれからの課題

 学問と社会に積極的に対応していくためには情報処理能力を豊かに身に付けることが不可欠ですので,学生の情報処理能力の育成は教育における大きな課題になっています。そうした判断のもとで,平成11 年度のカリキュラム改正において,全ての学部・学科の学生に対して全学共通教育科目「情報処理基礎演習」1単位を必修履修にしました。

 「情報処理基礎演習」の内容は,その「共通授業概要」によると基本的なパソコン操作法とプログラミング入門が中心になっています。教育内容についての注文も多くなり,例えば,文系学部の学生については,プログラミングよりも情報検索,表計算,統計処理などの教育に力を入れたほうがよいのではないかという意見もでてきていますので,現在授業を主に担当していただいているシステム情報科学研究院を中心にして検討が進められています。また,学部・学科によっては全学共通教育と専 攻教育で使用するコンピュータ言語の不一致の問題があるようです。

 「情報処理基礎演習」についての学生による授業評価の結果として,15%の学生が授業内容のレベルをもっと上げてほしいと希望しています。それは,初めてコンピュータを触るという学生がたくさんいる一方で,既にかなりの能力を身に付けている学生がいるためです。しかも,2006年からは,学生全員が高校で情報処理教育を受けて入学してきますので,大学における情報処理教育はその内容が変わらざるをえません。専攻教育における情報処理教育もさらに充実されていくに違いありませんので,その面を含めて大学初年次における情報処理教育は全体として大きな変化の過程の中にあります。

 全学共通教育としては「情報処理科目」の科目を設け,高度な情報処理能力を身に付けることを希望する学生が選択履修できるようにしています。これをさらに充実させていくことが大切です。さらに,情報処理の倫理,法,思想,文化,経済等に関わる教育を実施することが求められています。そのための授業科目を全学の協力のもとで開講するための準備を早急に開始することが必要です。

情報処理環境の構築

 情報処理教育の充実のためには,そのための設備の整備が不可欠です。六本松地区には情報基盤センターの2つの情報処理教室に130台の端末が置かれ,主に「情報処理基礎演習」の授業に使われています。そのほか,平成9年には杉岡総長の配慮を得て,主に学生の自習利用を目的として2つの情報処理教室に100台の端末と1つの教室に60台の情報コンセントを設置することができました。また,附属図書館六本松分館に情報サロンが設けられ16台の端末が設置されています。

 学生の情報処理能力を育成するためには,大学生活においてそれを必要とする環境を作ることが大切です。そのための一つとして,全学共通教育科目の授業クラスごとのシラバス(授業計画)をインターネットにより公開しています。このほか,休講,補講,教室変更,重要な情報通知,学生呼び出しの電子掲示板も設けていますので,学生は自宅からでも閲覧することが可能です。さらに,学生サークルに対してはその活動内容を紹介する等のためにホームページが利用できるようにしています。これについては営利利用,宗教宣伝利用,政治宣伝利用,品位を汚すような利用の恐れがありますので,規則を設けること等により予防に努めているところです。

学生が大学に設置したコンピュータにのみに依存することは情報処理能力の向上にとって好ましいことではなく,自分のコンピュータを持つことが期待されます。その促進を図るため,できるだけ性能が優れ安価なコンピュータを選定して購入を推奨することにしています。いずれもノート型ですが1年目は約350台,2年目は約500台,3年目は約450台の購入があったようです。コンピュータを大学に持参して情報コンセントに接続すればインターネットにアクセスできますし,購入者のために九大生協がたびたび開催している講習会に持参することもできます。

情報処理機能を活用した授業の改善

 様々な授業科目において情報処理機能を活用して教育を改善していく取り組みも進んでいます。言語文化科目ではCALL(Computer Assisted Language Learning)の授業やインターネットを活用した授業がはやくから行われてきましたが,最近ではコンピュータ上に作られた仮想空間(サイバースペース)を利用した外国語教育の試行が開始されています。また,物理学では授業で用いる資料などを学 生が授業後に見ることができるようにホームページに収納し公開しています。

 さらに,六本松地区にPHS利用の無線アクセスシステムが設置されましたので,あらゆる教室からインターネットへの接続が可能になり,最近性能が向上したプロジェクターと併用して授業に活用されています。双方向性の教育を授業の場だけに限定するのでなく,インターネットを利用して授業時間外にも広げる試みも広がっています。最近のことですが,授業クラスや学生クラスごとに授業担当教官と履修学生の間で,または学生相互に質問,意見発表,情報交換,討論などができる「クラス交流システム」というのを設け運用を開始しています。

 すべての学生が入学直後からコンピュータを活用できるようにするため,システム情報科学研究院の協力を得て入学前に新入生を対象にした講習会を行っています。ただし,現在のところ「情報処理基礎演習」を後期に履修する学生だけを対象にしています。

情報処理教育充実のための今後の課題

 情報処理教育に対する高まる需要にこたえるための最大のネックは授業担当者の確保の問題です。現在のところ,システム情報科学研究院の全体と工学研究院の一部に無理をお願いして担当していただいていますが,いっそうの充実のためには全学的な協力体制をつくりあげることが不可欠です。

 コンピュータが人間,社会,学問にもたらすマイナス要因をしっかりと見据えながらも,情報処理教育の充実とそのための設備の整備の努力がいっそう必要ですし,そうした努力はキャンパス移転を待つことなく積極的に推進しなければなりません。

(おしかわ もとかず 数学)

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