九州大学の情報公開制度

法学研究院教授 大熊義和

情報公開法施行と九州大学

 近年,国民(住民)が国・地方公共団体の保有する情報の公開を求める権利は,民主政の根幹を支えるものとして,諸外国や我が国の多くの地方自治体で認められてきましたが,国にあっても1999年5月ようやく情報公開法が制定され,2001年4月には実施される運びとなりました。

 この情報公開法は,国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示(公開)を請求する権利について定めること等により情報の一層の公開を図り,もって政府の諸活動を説明する責任を全うすることなどを目的としています(同法1条)。そして,この情報公開を実施する行政機関(通常,地方自治体では「実施機関」と呼ぶ)として,当然ながら国立大学も含まれることになりました。

 ところで,情報公開制度はその趣旨から,公開を原則としますが,同時にその性質上,例外的に,一定の個人に関する情報(個人識別情報など)や,法人その他の団体に関する一定の情報などを不開示とする システムとなっています(同法5条)。

 九州大学では,これまでも広報誌等をとおして情報の公開に努めてきましたが,さらに,この法の制定・施行への動きに対応するため,前年度より,文書管理の整備を進めるとともに,大学全体として公開の要求に応じるための組織づくりに取り組んできました。そして,先般ようやくそのための委員会の設置をみましたので,次にその概要を紹介します。

九州大学の情報公開実施システム

 九州大学が保有する情報については法の定めにより誰でもその開示を請求することができます(法3条)。そこで,九州大学では,この請求にこたえるために情報公開受付窓口(「情報公開事務室(仮称)」)を置きます。

 この情報公開事務室で所定の手続(書面提出;法4条)により受け付けられた開示の請求は,情報公開実施委員会から当該行政文書を保有する部局に回されます(照会)。請求が回付された部局は,通例は事務手続きに従って,また,当該文書の開示が不開示事項にあたるのではないかとの疑義がある場合は部局情報公開委員会にはかったうえで,九州大学情報公開実施委員会を経由して(回答),情報公開受付窓口(情報公開事務室)で当該文書を請求者に提供することとなります。(なお,部局長と部局情報公開委員会は後述の情報公開実施委員会が調整のため必要に応じて行う意見聴取にも対応します。)この手続きの中にある九州大学情報公開実施委員会は,文書を保有する各部局のそれぞれの特質を考慮したうえで,大学としてできるだけ統一的な基準で公開を行うために部局間の調整をしたり,必要に応じて九州大学情報公開委員会の意見を受けながら具体的文書の公開の可否を判断するなどの役割を担います。

 なお,図解のとおり,情報公開のための学内決定手続としては九州大学情報公開委員会の議を経て九州大学総長が最終的にこれを行う体制となっており,公開に関する重要な判断などは九州大学情報公開委員会が行いますが,通常の公開事務に関わる問題については,この情報公開委員会のもとに置かれる情報公開実施委員会(前記)が担当します。

情報公開制度をめぐる基本的な疑問点についてお答えします

Q :大学の場合、研究に関わる文書などについては,通常の行政文書の公開とは違った判断が必要となるのではないですか。

A :もっともな疑問点です。このため,国立大学全体の問題として国立大学協会(第7常置委員会)が開示・不開示に係る原則的な基準づくりなどを検討してきました(「国立大学における情報公開についての検討結果報告」・「教員が保有する文書の管理及び開示について」)。ただ,そこでの検討ではそれぞれの大学の判断に委ねられている部分も多々ありますので,前記の情報公開実施委員会がこの開示基準等を含めた専門的事項を検討することにしています。なお,情報公開実施委員会は同質の情報が他の部局で果たす重要性の違いなどを精査するためにも機能することが期待されています。

Q :個人情報は不開示とのことですが,大学病院でのカルテや学務部が保有する入試情報などは本人が請求すれば情報を提供することができるのではないですか。

A :これらの問題をとおして情報公開制度の基本的特徴を知ることができます。情報公開制度は,誰もが請求することのできる情報について,行政機関は誰にも同じ基準で公開することを制度の基本としています。したがって,本来は,この制度では本人であるという理由で当該情報を特別に開示することを予定してはいません。これに対して,10月11日に発表された個人情報保護基本法大綱にみられるように,個人情報保護制度の場合は,行政機関が個人情報を過度に収集したりその結果を乱用したりすることを規制し,また,個人の自己情報について提供・修正を求める権利を保障しようとするものです。(また,右の大綱案は民間企業も含めて規制しようとするものです)。したがって,請求者自身(個人)の情報を行政機関に求めるものですから,開示基準も情報公開の場合とは異なります。このため,大学病院のカルテや入試に関する個人の情報の場合はここでの情報公開制度とは別個にその開示の基準や情報提供の範囲などが検討されることになります。ともあれ,この情報公開制度が公正で民主的な行政の推進のために大いに利用していただけるようお願いいたします。

(おおくま よしかず 法律)

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