マヒドン大学学術学部の概要

薬学研究院教授 内海 秀雄

 平成12年8月に,九州大学大学院薬学研究院とマヒドン大学学術学部との間に部局間協定が締結されました。

 マヒドン大学(Mahidol University)の前身は1889年にタイ国で最初に教育機関病院として創立されたSiriraj 病院です。タイではこのSiriraj病院で医学教育と医師の養成がなされてきました。1943年に医科大学に組織変更された後,1969年にはその設立と発展に寄与したMahidol王子(現タイ国王の父)の名称を冠し,マヒドン大学に名称変更され,総合大学として今日に至っています。従って,大学の歴史は九州大学とほぼ同じで,医科大学を母体とした点でも類似しています。

 マヒドン大学には3つのキャンパス(合計550エーカー)があり,14学部(2つの医学部,熱帯医学部,公衆衛生学部,医用工学部,歯学部,獣医学部,薬学部,看護学部,社会学部,環境学部,工学部,大学院学部及び今回部局間協定を結んだ学術学部)と5つの研究所,4つの教育センターが設置されています。学生数はおよそ13,000名で,2,500名の教官が在籍しています。

 タイ国で著名な大学にチュラロンコン大学やタマサート大学がありますが,前者は文系に後者は工学・理学系に力点が置かれているのに対し,マヒドン大学は医学系の重点大学で,タイ国内での医学教育に中心的責務を負っています。因みに,マヒドン大学の薬学部卒業生には無試験で薬剤師資格が与えられるほどで,いかに高い評価を受けているかがわかります。独立法人化もいち早く推進しており,九大での独立行政法人化と共通する改革がなされつつあるとのことです。また,タイ王国の中でも先駆けて高度教育の国際化に努めており,世界各国の大学や国際組織と共同研究を行うと共に,現在45カ国から多数の留学生を受け入れています。

 今回,このマヒドン大学の学術学部と本学薬学研究院との間で部局間協定が結ばれました。学術学部の前身は1958年に設立された医科大学のプレメディカル学部で,1969年にマヒドン大学が設立されると同時に学術学部に改められました。学術学部の英語名はFaculty of Scienceで直訳すると理学部になりますが,内容的には我が国の理学部と大きく異なっています。そこで,実態に即して学術学部と日本語訳することとし,協定を締結しました。

 教官数はおよそ300名で,その内165名が博士号を有しています。14学科(語学科,数学科,物理学科,化学科,生物学科,生化学科,解剖学科,生理学科,微生物学科,病理生物学科,薬理学科,植物科学科,生物工学科,コンピューターサイエンス科)から構成されています。

 この学部の教育面での役割は,1年次学生2,000名の基礎教育に加え,300名の学部学生教育,修士課程学生300名,博士課程学生80名の大学院教育です。このことから判るように,六本松での全学共通科目に相当する教育から,医学部の基礎科学,基礎工学に至る広範な教育を担当しています。特に,全ての大学院講義が英語で実施されている点は注目に値します。

 一方,研究活動も非常に活発になされており,そのアクティビティーの高さは同学部から国際学術雑誌への掲載論文数がタイ国内の全発表論文の50%にも及ぶという驚くべき数字からも明らかです。また,同学部出身者から多くの大学教授が輩出しており,その他にもタイ国内の多方面で研究者として活躍しています。

 マヒドン大学学術学部薬理学科と九州大学大学院薬学研究院機能解析学分野との間では1984年以来タラセミア症に関し共同研究がなされてきました。また,マヒドン大学から多くの学生が文部省留学生として九州大学に在籍しており,これらが契機となって本部局間協定に発展しました。現在,本学農学研究院がマヒドン大学学術学部と部局間協定を締結しようとしています。また,マヒドン大学薬学部も本学薬学研究院との協定締結を強く望んでいます。これらの協定を通じて,一層活発な共同研究と学生交流を行うことで,近い将来に大学間協定に発展することが強く期待されます。

(うつみ ひでお 機能分子解析学)

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