このマスタープランの大きな特徴の一つは,インターディシプリナリー(Interdisciplinary:学際的)時代に対応したキャンパスの形成を目指している点にあり,アカデミック・ゾーンの空間構成と東西に連結した施設配置にその特徴が現れている。従来の一般的な大学キャンパスのイメージとやや異なるが,この配置形態は,東西に長い敷地特性や九州大学がこれまで長年審議し策定してきたゾーニングや土地利用の方針等に基づいた検討から生まれたものである。
”インターディシプナリー”
時代のキャンパス
欧米にその原型を持つ従来の大学キャンパスは,各ディシプリン(Discipline:専門領域)が,学部,研究科あるいは,それを更に細分化した学科,専攻という組織単位を成し,一つの独立した建物として存在してきた。多くの場合,それらの建物は,クワドラングル(Quadrangle)やヤード(Yard)と呼ばれる中庭を取り囲む形態で,内部にはぐるりと小講座の研究室が並び,ディシプリン内は極めて連携が取りやすい空間構成となっていた。あるいは,大きな庭を各ディシプリンの独立した建物が取り囲むように配置されてきた例も少なくない。(下左図)
大学キャンパスは真理探求の場であるが,この確固たるディシプリンをより深化させることが真理探求の典型的な活動スタイルと考えられ,その活動が最も行いやすい空間構成として,ディシプリン独立形式の空間構成が20世紀の世界中の大学キャンパスに普及した。九州大学の箱崎キャンパスや東京大学の本郷キャンパスなど同種の形式は,世界中に数え切れない程ある。しかしながら,この空間構成は,異なるディシプリン相互の交流・連携について十分配慮されておらず,ディシプリン横断型の積極的な交流・連携を促進,発生しにくい。
近年,世界的に新しいアカデミズムの方向性として「インターディシプリナリー」が強調されている。今回のプランは,こうした新しい方向性と総合大学の一体性を十分意識し,新学術拠点の形成を図った点において,「未来型キャンパス」のマスタープランと言える。プランの中では,この方向性の概念に関連して「学際的」,「交流・連携」,「研究・教育の流動化」という言葉を多用している。
具体的に,マスタープランでは,従来のディシプリンの自律性を確保しながら,それらを連結し,交流・連携と知的活動を支える動脈や骨格の軸をいくつも通し,全体が一つの生命体の如く,社会的要請や時代の変化に応じてしなやかに変化,増殖していける空間構成を提唱している。相互交流・連携や研究・教育活動の流動化に対応できる空間構成に加え,大学組織の成長に合わせて,東西方向に増殖・延伸していける大規模拡張用地を確保している。
また,各ディシプリンのセクションを将来拡張したい場合には,民間資金等を導入しながら,北側に確保した「未来のポテンシャル軸」と呼ぶ用地を戦略的に活用していくこととしている。(次頁下左図)
東西につながる研究・教育施設群の形態は,真上から見ると機能の異なる層が重なっている構成となっている。例えば,南側から学部教育活動の層,中間に学府の教育活動の層,北側に研究院の研究活動の層といったように,複数の層が組み合わさった構成となっている。また,南側から施設群の正面を見た場合にも,例えば,低層階が学部教育の層,上層階が研究院と学府が一体的となった層など重層構成となっている。(下右図)
学府・研究院制度の理念を
実現する空間構成
水平方向,垂直方向に複数の異なる機能の層が重なり,連結し,それぞれの層が独立性と相互の連携性を保てるような構造で支えられている。こうした重層・連結型の構成は,学府・研究院制度の下で自律的変革に柔軟に対応できる空間構成として立案された。この考え方に基づく施設内部の具体的な機能配置は,アカデミック・プランに基づいて今後進められることとなる。
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