尾首睦美 (おくびむつみ) |
医学部付属病院 看護部長 |
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我が国の国立大学病院として最多の病床を有する九州大学医学部附属病 院(以下、「九大病院」と記す)で、七百余名の看護職員を率いる尾首看護部 長にお話を伺いました。
3人の副看護部長と、毎朝ミーティングを行う。Q…どのようなお気持ちで、看護婦を志 されたのでしょうか。
尾首…昭和三十九年に、医療技術短期大 学部の前身である医学部附属看護学校に 入りました。技術を身に付けられ、やりが いある職業に就けることが主な理由でし た。昭和四十二年に卒業して就職した九 大病院では小児科に配属になり、途中外 来や内科も経験しましたが、約四半世紀 を小児科で過ごしました。平成七年から 医療技術短期大学部で教鞭を取り、平成 十一年度から看護部長を務めています。
Q…看護のお仕事は体力的にも精神的 にも非常に厳しいと思われますが。
尾首…非常に責任の重い仕事です。看護 に携わる人は、ですから、それなりの気持 ちを持って入ってきます。それ故にまた一生 懸命になりすぎて、逆に自身大きなストレ スを背負うということもあります。でも 皆自ら志してなった仕事ですから、ライフ ワークとして続ける方も多いようです。
看護のキーワードは、知識、技術、心です。 どれが欠けても看護たり得ず、これらが 均等に揃ってはじめて十分な看護が可能 になりますが、特に心は不可欠な要素で す。患者さんは病気によるストレスと弱み を持って病院にみえます。そのお世話をす る者に、やさしさや思いやりの心がなけれ ば失格です。またそういう心は、経験を積 み重ねる中で育っていくものでもあります。
Q…看護のやりがいをお聞かせください。 どんなとき喜びをお感じになりますか。
尾首…患者さんの症状が良い方に変化し て、退院の際などに「おかげさまで」と感 謝の一言をいただいたときです。私たちは 意識するしないにかかわらず、五感を働か せ患者さんに関するあらゆる情報を収集 し、知識を駆使して状態を判断し、計画 を立てて看護を実践します。その看護の 力で、激しく泣いていた赤ちゃんが泣き止 んで眠りに就いたとき、患者さんが安らか な状態になったとき、深い喜びを感じます。 そしてそういう看護が可能であるために、 絶えず勉強していかなければなりません。
Q…近年、医療事故の問題がたびたび報 じられます。
尾首…事故を防ぐためには、患者さんへ の影響までは至らなかった「ニアミス」を有 効にフィードバックし、そこから教訓を得る ことが大切だと思います。平成十一年に事 故防止対策委員会が発足し、九大病院と しての組織的取組みが始まりましたが、看 護部としてはそれ以前からニアミスの報告 が上がってくるシステムはありました。私は、 全国国立大学病院長会議の下にある医 療事故防止策を検討する作業部会に加 わって、組織的取組みの大切さや今の病院 の抱える問題点を再認識できて大変勉強 になりました。大学病院は、一般の病院と 異なり、研究、教育、診療という機能を全 うしながら事故を減らすための取組みを 進めなければなりません。その難しさを 再認識したわけですが、九大病院でこの 経験を生かすのが私の務めだと思っていま す。
Q…最近ナースキャップを付けていない 看護婦さんを見かけますが。
尾首…昨年の六月から九大病院では着脱 を自由にしました。看護婦のシンボルとい われるキャップですが、実際には業務に支 障があることも多く、現在ほとんどの看 護婦が付けていません。全国的に廃止す る傾向も見られます。私も、外見的なイメ ージより看護の質で患者さんに認めてい ただいてこそ真の看護婦だと思っています。
Q…これから看護婦を志す方々へ、アドバ イスをお願いします。
尾首…看護を志した動機をいつまでも忘 れず、学校では積極的に学習してくださ い。プライベートでは、アルバイト、部活動、 たくさんの人との出会いなど、できるだけ いろいろな経験を積んでほしいし、いっぱい 苦労をしてほしいのです。今の学生さんは 恵まれた人が多いように感じますが、短 大での二年間の学内学習のあと、一年間の 実習で患者さんに接し自分も苦労して、 大きく成長します。看護の仕事を続ける ためだけでなく、強く生きていくためにも、 苦労は買ってでもしてほしいし、困難を乗 り越える力を養ってほしいと思います。
Q…看護部長さんの一日を教えてくだ さい。
尾首…朝七時四〇分に出勤し、午前中は スタッフミーティングなど、午後は来客や予 期せぬ仕事などで過ぎ、自分に戻って落ち 着いて仕事ができるのは午後六時を過ぎ てからでしょうか。だいたい午後九時頃ま で病院にいます。
看護婦として、妻として母として、苦労 も喜びもたくさん経験してきました。今 は自分のライフサイクルに自然に仕事が入 ってきています。小児科での経験は自分の 子育てにも役立ちましたし、他者を理解 する心を深めることができました。この仕 事を続けてきてよかったかな、と思っていま す。
午後五時過ぎに始まったインタビュー。 落ち着いて自分の仕事に取り組めるよう になる時刻とおっしゃる午後六時を過ぎ ても電話や人の出入りは止まず、毎日の 忙しさが推察されました。
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医学部附属病院
明治36年(1903)、京都帝国大学福岡医科大学が設置され、県立福岡病院が その附属病院となった。現在、22診療科、病床数1,346、年間外来者数約37万人。
3期に分けた新病院建設が進んでおり、免震システム採用の第 期棟は平成14 年4月に開院予定で、現在の外来棟、東病棟と接続して運営される。
看護部は、トップである尾首看護部長、3名の副看護部長、28名の看護婦長を 中心に運営されている。
月2回の定例会議で看護婦長たちに話をする尾首看護部長(正面後ろ向き)